20190508
怖いときには小胸筋をほぐす
最高の緊張バランスより、少しだけのんきなままの緊張バランス。
むしろ、女がそのように恣意的に複数の男から1人の男を選ぶという事象で、男はその選ばれたものとしての自己を男の性として引き受けなけれならない。
その構造が、典道となずなの愛の物語に擬態する。
この岐路の、女から選ばれる男の物語、というところに、男の子の、なんというのか童貞を脱するよりもきつい痛みというのがある。
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過去の恋や性は、一貫した物語ではなく、多元的な後悔から成り立っている。そもそも女からの選択で男であることを受け止めた瞬間から、男は必然的な負け戦が始まる。
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恋なんておよそ成就するもじゃない。が、成就させようとする負け戦がシーシュポスの罰のように続くことを少年は直感するし、私のような老人はすべてを多元的な、祝福された後悔として飲み込む。 ■
もう少女という存在を愛することはないのだ、というある決定的な人生の時刻を超えたとき、30歳あたりからだろうか、かつての少女たちの思いへの後悔と責務は多元化していく。 目をつぶって、俺は少女を愛したとつぶやくとき、こういう後悔というものが花火のように美しく煌めく。典道がガラスの破片のなかで見た未来の、なずなとの恋のシーンは、同時に老いた男の過去の後悔の回想でもある。
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駆け落ちしましょう、と彼女がつぶやく。あるいはつぶやいた。少年にチョイスはない。あとは、煌めくような負け戦が延々と続くだけなのだ。
⇒ああ、マッチョだな。マチズモだな。
男に自由がない、なんていうと女性からは理解不能だと好かんをくらいそうだけど。