技術はコンテンツに対し中立でいられるのか?
そして、人間の行動に影響を与える方法論として「アーキテクチャーによる支配」という考え方があります。ここでも、またケーススタディです。あなたが、大学近くのカフェの店長だったとしましょう。一部の大学生のグループ客が長居をしてダベり、席の回転率が下がっているせいで、本来、昼食を取るべき他のお客たちから、クレームが入っています。さて、どんな手段が考えられるでしょうか。「食事を終えたら、速やかにお帰りください」と張り紙をする、「カラオケボックスのように制限時間制にして超過には延長料金を取る」など様々な手が考えられるのですが、一番、お客にカドが立たずに、有効に客の回転を上げる手段は、外食業界では、「椅子を高くする」ことだとされています。つまり、外食業界では、食事をするときに座る椅子の高低と客の回転は見事に比例するのです。チェーン牛丼屋に典型ですが、椅子の高いカウンター席は、つまりは「食べたらさっさと帰ってね」という店からの無言のメッセージなのです。しかも、ほとんどの人間は、高い椅子に座ると「食べたらさっさと帰れ」と言われたわけでもないのに、食べ終わると自発的に帰ります。この無意識の行動への影響こそが、「アーキテクチャーによる支配」の特長です。
そして、このこと同じように、メディア消費においても「アーキテクチャーによる支配」をユーザーは強く受けているのです。アナログ盤からCDへの変化は音楽リスナーに「好きなフレーズや曲だけつまんで、繰り返し聞いてね」というある意味では意図せざる?無言のメッセージをもたらしました。(そして、これはCDからiTunesのような曲単位でのダウンロード販売へという変化でますます加速しています)。あるいは新聞・雑誌のような紙メディアから、PCへ、Webへ、スマートフォンへもというトレンドも、同様に、大きな無言のメッセージをユーザーに届けています。