他の霊長類との社会的学習能力の比較
社会的学習能力のテストでは、2歳半の幼児のほとんどが満点をとったが、ほかの霊長類はほとんど0点だった。この結果から、チンパンジーやオランウータンに比べて人間の幼児が唯一優れていた認知能力は、空間記憶能力や形・音を識別する能力ではなく、社会的学習能力だということがわかった。 チンパンジーとオランウータンの子供は、大きくなっても認知能力に変化はない。3歳で脳の成熟状態に達し、それ以上認知力は伸びない。つながって活用できる集団脳もなく、知恵やアイデア、あるいは文化の蓄積もない。あったとしても、そこから情報を得る(他者から学習する)能力は低い。 進化の過程でその能力を磨く選択圧がかからなかったからだ。人類進化生物学の専門家、マイケル・ムスクリシュナはその点をうまく総括している。「なぜ人類はほかの動物とこれほど違うのか? これは決してハードウェアの問題ではない。つまり、大きな脳を持っているから知能が高いというわけではない。実際、基本的なワーキングメモリ(作業記憶)を伴うタスクなら、チンパンジーのほうが優れていることがある。(中略)人間とその他の動物を隔てる違いは、集団脳にほかならない」。ケヴィン・レイランドもこう言う。 「人類の繁栄は知能の高さによるものだと言われることが多いが、その知能の高さをもたらしたのは「アイデアの蓄積」だ。社会集団の中から知恵を得て、それを積み重ねていく能力こそが、人類を特別な存在にした。