エコーチェンバー現象―ラッシュ・リンボーと保守系メディア
学術書 『Echo Chamber: Rush Limbaugh and the Conservative MediaEstablishment (エコーチェンバー現象ーラッシュ・リンボーと保守系メディア)』で政治的見解の二極化現象を詳細に分析
その題材として主に取り上げたのは、扇動的な発言で知られるアメリカのラジオパーソナリティ、ラッシュ・リンボーが司会を務め保守系トークショー。 週間累計聴取者数がおよそ1325万人にも達する大人気番組だ。 リンボーはリスナーを反対意見から隔離しようとはしない。そもそも現代においてそんなことはほぼ不可能だ。 そこで彼は反対意見を不当化する。 異なる意見を唱える人々を徹底的に攻撃・誹謗するのだ。しかも相手の「間違い」を主張するだけでなく、悪意があると説く。彼はこう息巻く。 主流メディアはリベラル派の偏見を垂れ流している! 「真実」を語るのは保守派の自分であり、それを認められないリベラル派が、自分やファンを弾圧しようとしている! ジェイミソンとカペラはこれを次のように指摘する。「こうした保守系の司会者は、主流メディアがダブルスタンダードを用いて組織的に保守派を不利な立場に追いやろうとしていると強調する」。 「極端な仮説を用い、揶揄や人身攻撃 (人格攻撃)、そのほか否定的な感情に結び付ける手段」を通して、リンボーはリベラル派の見解のみならず、自身の信条と異なるあらゆる情報の信用を落としにかかるのだ。 いわば精神的な柔道だ。 注意深く築き上げられた信念という道場で、相手の力や勢いを利用して組み伏せる。 リンボーのファンは主流メディアやリベラル派のニュースも読むが、受け入れはしない。彼らの孤立は隔離によるものではなく、誰を権威とするか、何を信頼できる情報とするかで決まる。外部の声を聞きはするものの、意見を変える材料には決してならない
エコーチェンバー現象は、この信頼に関わる人間の隙に付け込んで、歪んだフィルターをかける。 反対派の意見は徹底的に攻撃し、反対派自身には人身攻撃を行って、その人物もろとも信憑性を徹底的に貶める。そうやって逆に自分たちを正当化する。反対意見やその根拠となるデータは、考慮の上で価値がないと判断するのではなく、見聞きした瞬間にはねつける。まるで磁石の同極同士を近づけたときのように。グエンは言う。「エコーチェンバーは、いわば人間の弱さに巣食う寄生虫だ。(中略)フィルターバブルの中では、外部の声が聞こえない。 エコーチェンバーの中では、聞こえるが一切信じない」 エコーチェンバーは、反対意見の信用を貶める空間だ。そのため外部の情報が次々と流れ込んでくる状態でも存在し得る。外のメディアに触れることは一切禁じられていない。反対意見の信用を落とすメカニズムがうまく働いている限り、外の情報に多く触れれば触れるほど、逆に内部の人間の忠誠心を高められるからだ。