非集中
オーケストラを例に取ろう。オーケストラのメンバーは自分の受け持つパートの演奏を習得するために練習を積む必要がある(集中)。しかしコンサートでは、個々人が自分の専門技術と音色を全体に溶けこませられなければならない(非集中)。譜面を追って音楽を演奏するだけの集中力と、指揮者にときどき目をやりながら、お互いの音色に耳を立てて一緒に音楽をつむいでいくだけの非集中力が必要になる。過剰な集中を断ち、まわりの人々と音色を融合させるのは、まぎれもないスキルだ。
スポーツも同じだ。たとえば、テニスが上達するためには(もちろん、体力は十分にあるものとして)、いくつもの具体的な技術を集中的に練習する必要がある。ショットの種類に応じたラケットの握り方。フォロースルーの方向。体に対する足の位置。サーブ時のトスの高さ。ボールを思いどおりの場所に打つための打球の強さ。そして、ゲームで繰り返し実戦感覚を磨く必要もあるだろう。こうした動きを体に覚えさせるには長時間の集中的な練習が欠かせないが、そうするうちに脳内にテニスの動きの青写真ができあがる。
いったんそれを信頼できるようになれば、試合中はボールをしっかりと見つめ、体に今まで学んだ動きをさせるだけでよくなる。つまり、非集中のスイッチを入れるわけだ。非集中の状態になると、意識的にどうしようと考えなくても、体がボールを思いどおりの場所に運ぶための無数の小さな調整を自然と実行してくれるのだ。
出典
これで一生衰えない!最新理論でわかった「脳の鍛え方」
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いたずら書きは、気を散らせ、時間の無駄となる習慣だと同僚たちは考えているかもしれないが、こうした習慣が実際には、集中力を促進することで周りから一歩先んじるのに役立つ可能性があるのだ。
録音されたメッセージに登場する名前を憶えているようにと指示された実験では、耳を傾けながらいたずら書きをしていた人たちは、そうでなかった人たちよりも記憶が優れていた。これは、いたずら書きがわずかに注意力を逸らせるにしても、実際のところは、退屈なメインの仕事を行なっている間の集中力を向上させる、つまり、いたずら書きをしないとかえって気が散る可能性があることを示唆している。
Andrade氏の研究チームでは、40名の被験者に対し、人や場所の名前が出てくる留守番電話のメッセージを聴かせ、その後、記憶している名前を書き出してもらった。
被験者のうち半数は、メッセージを聞いている間、紙の上の図形を塗りつぶすよう指示された。実験の結果、彼らは、メッセージを聞いている間にいたずら書きをしなかった被験者よりも、名前の記憶がおよそ30%優れていたという。
「いたずら書きは集中力を高める」その理由は
論文
Andrade, J. (2010). What does doodling do?. Applied Cognitive Psychology: The Official Journal of the Society for Applied Research in Memory and Cognition, 24(1), 100-106.