長谷川龍雄氏の「主査に関する10ヵ条」
長谷川龍雄氏の「主査に関する10ヵ条」
長谷川氏は立川飛行機で戦闘機の企画、設計に携わり、戦後トヨタ自動車工業に入社。初代トヨエース、初代パブリカ、初代カローラの主査を務めたCEの大先輩。リーダーの条件として10ヵ条をつくられ、主査制度の定着に尽力された。
第一条 主査は、常に広い智識、見識を学べ。
時には、専門外の智識、見識がきわめて有効なことがある。専門といっても要するに井戸の中の蛙に過ぎない。専門外の専門があると、別の見方で問題を見直すことができる。
第二条 主査は、自分自身の方策を持つべし。
白紙で方策なしで「頑張ってくれ、宜しく頼む」では、人はついてこない。しかし、始めから出しすぎて相手に考える余地と楽しみを与えず、固い形で「俺の言う通りにやれ」でもいけない。少しずつ暗示を与えて、いつの間にか皆がなびいている形がよい。
第三条 主査は、大きく、かつ良い調査の網を張れ。
特に初期Surveyの段階でいかなる網を張るか。その方向と規模が将来の運命を決することがある。
第四条 主査は、良い結果を得るためには全知全能を傾注せよ。
5000時間級のビッグ・プロジェクトにいかにして自分の総合能力を集中し、配分するか。真剣さが体ににじみ出るようになると人はおのずからついてくる。体を張れ。始めから逃げ場を探してはならぬ。
第五条 主査は、物事を繰り返すことを面倒がってはならぬ。
自分がやっていること、考えていることが果たしてよいかどうかを毎日反省せよ。上司に向かって自分の主張を何回も繰り返せ。協力者に自分の意図を周知徹底させるためには少なくとも5回は同じことを繰り返すつもりでいよ。
第六条 主査は、自分に対して自信(信念)を持つべし。
ふらついてはならぬ。少なくとも顔色、態度に出してはならぬ。困った時には必ず妙案が出てくるものである(頑固ではいけないが)。
第七条 主査は、物事の責任を他人のせいにしてはならぬ。
体制を変えてまでしても、良い結果を得る責任がある。ただし、他部署に対しては命令権はない。あるのは説得力だけである。しかし、もしそれが真実ならば、無限の威力を持っていることを知れ。他人のせいにして、言い訳を言ってはならない。
第八条 主査と主査付き(補佐役)は、同一人格であらねばならぬ。
主査は単なる管理者ではない。Engineeringに上下があってはならない。本質的なことで権限委譲してはならぬ。仕事に隔壁をつくってはならぬ。主査は主査付きを「仕事のやり方」について、叱ってもよいが「仕事の結果」について、叱ってはならない。叱りたい時は自分を叱れ。
第九条 主査は、要領よく立ち回ってはならない。
〝顔〟を使ったり、〝裏口〟でこそこそやったり〝職制〟によって強引に問題解決を図ったりすることは永続きしない。後でぼろが出る。
第一〇条 主査に必要な特性
1 智識(点在している)、技術力(それを組み立て進展させる力)、経験(上限、下限の経験により適正なレベルを設定する能力)
2 洞察力、判断力(可能性の)、決断力
3 度量、Scaleが大きいこと──経験と実績(良否共に)と自信より生まれる。
4 感情的でないこと、冷静であること──時には自分を殺して我慢しなければならない(怒ったら負け)。
5 活力、ねばり(Total Energy)
6 集中力(Power)
7 統率力(Team内)──相手を自分の方向になびかせること。
8 表現力、説得力──特に、部外者・上司に対して。口ではない、人格。
9 柔軟性(Optionを持て)──ギリギリの時にはメンツにこだわらずに転身が必要な時がある。そのTimingが問題。
10 無欲という欲──人のやったことを自分に。偉くなろうでなくて、よい仕事をしよう。要するに総合能力が必要。