長期記憶
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記憶が短期記憶と長期記憶に分けられると言ったが、どうしてそのような区別が必要なのだろうか。単一の貯蔵庫だと考えてはいけない理由はあるのだろうか。 このことを考える時に役に立つのが、系列内位置曲線と呼ばれるものである。単語を一つずつ呈示して記憶させ、その後に再生を行う。すると、ほとんどの場合、 図3-2 に実線で示したような曲線が得られる。このグラフの縦軸は再生率であり、横軸は呈示した順番である。つまり最初と最後はよく覚えているが、真ん中あたりはそれほど覚えていない。読者の皆さんにも実感があるだろう。
なぜ最後の部分は覚えているのだろうか。これは情報がまだ短期記憶、つまり意識の範囲内に残っているからというのが定説である。たとえば、記憶項目を呈示してからすぐに再生させるのではなく、遅らせて再生を行う。そしてその間に何か別の作業、たとえば簡単な計算をさせたりする。すると、最初の部分の成績はあまり変わらないのだが、最後の部分の成績はかなり落ち込み、中間あたりの項目の再生率と変わらなくなる。
処理の深さ
長期記憶への情報の保持には、情報にどのような操作、処理を加えたかも強く影響することが、クレイク( 17) らの研究から明らかになっている。彼らの研究では、あるグループの人たちには、単語のリストを与え、その中に特定の文字が含まれているか否かを判断させる。別のグループには、そのリストの中に特定の音が含まれているか否かを判断させる。そして最後のグループには、リスト中の単語各々についてそこから連想する単語を一つ挙げてもらう。これらの課題が終わった後に、リストの単語をできるだけたくさん思い出してもらう。つまり偶発学習をさせるわけである。結果は容易に想像できると思うが、単語連想のグループが最もよく、文字を探したグループが最も悪い。つまり、単語連想グループは単語の意味に基づく処理を行ったのに対して、文字探しのグループは単語レベルの処理すら行っておらず、視覚パターンの探索を行っただけである可能性が高い。処理の仕方(クレイクたちは処理の深さとか処理のレベルと呼んでいる)によっても、長期記憶への転送に差が出てくるのである。
出典