経験を積める豊かな環境を養い続けられるか
集まったメンバーで、なぜまちがった選択をしてきたのか、仮説を立て検証した。監督候補を選ぶ際にこれまで見落としてきた、今後注意して見るべき重要な資質があるか。それ以上に、新人監督に、その心折れる仕事に立ち向かえるだけの十分な教育をしてあげていたか。「監督に失敗はさせない」と言いながら、何度失敗を許してきたか。
創業当初の映画の監督、つまりジョン、アンドリュー、ピートが皆、きちんとした訓練を受けずに監督になっていたことを当たり前のように思っていたが、それが特別なことだったのだと思えるようになった、ということも話し合った。アンドリューやピートやリーが何年間もジョンのすぐ隣で彼の教え──決断が必要なことなど──を吸収したこと、ジョンが相手と一緒になってアイデアを導き出すやり方についても話し合った。初めてジョンの後を継いでピクサーの監督になったアンドリューとピートは、その過程で苦労はしたものの、結果的に大成功を収めた。ほかの監督たちにも同じことを期待してきたが、会社が大きくなるにつれ、新人監督たちがそのようないい経験に恵まれる機会がなかったことは、事実として受け止めざるを得ない。
後になって、アンドリューとこの合宿ミーティングについて振り返っていたとき、アンドリューが非常に含蓄のある言葉を言った。自分を含め実績のある監督は教育係を務める責任がある、自分の映画をつくり続けている間も、それを一番の仕事にすべきだと。「そのとき抱えている制作チームのメンバーで最高の映画をつくる方法を、監督になろうとするスタッフにどう教えるか。それを見つけることが命をつなぐことなんです。僕たちは必ずいつかいなくなるんですから。ウォルト・ディズニーはそうしなかった。だからディズニー・アニメーションは、彼を失ってから一五年も二〇年もスランプに陥った。僕たちがいなくなった後、次の監督たちが自力で考えてやっていけるように教育できるか。それが本当に目指すべきことでしょう」
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