無人化
無人化
エンジニアはAIの力を借りて店舗内の省力化を進める巧みなテクノロジーも開発している。レジ係の仕事を消費者に押しつける面倒なセルフサービス方式のレジではない。一例がアマゾンの直営小売店「アマゾン・ゴー」だ。これは典型的な「労働者に取って代わる技術」と言える。現在、全米では約三五〇万人がレジ係として働いているが、アマゾン・ゴーに行けば、レジ係は一人もいない。セルフサービス方式のレジさえない。入店した顧客はスマートフォンをかざし、買いたい商品を持って外に出る。アマゾンが駆使しているのは、近年進化を遂げているコンピュータ・ビジョン(コンピュータを使った視覚情報処理)、深層学習、センサーだ。こうした技術で顧客を追跡し、顧客が選んで店外に持ち出す商品を識別する。客が店を出るときに、〝改札〟を通過したクレジットカードに代金を請求し、「アマゾン・ゴー」アプリにレシートを送る。ワシントン州シアトルに出店した初の試験店舗は、複数の客やものを追跡する際に問題が生じ、開店が遅れたが、いまではシアトルで三店舗、イリノイ州シカゴで一店舗のアマゾン・ゴーを営業している。二〇二一年までにあと三〇〇〇店を出店する計画だ。海外ではテンセント、アリババ、JDドットコムといった企業も、同じ目標を掲げてAIへの投資を進めている。
JDドットコムなどの中国企業は、無人物流センターへの大量の投資もはじめている。上海にあるJDドットコムの物流センターでは、イメージ・スキャナー(画像読み取り装置)に誘導された機械が、家電製品を中心とするあらゆる商品を処理している。「荷物は高速のベルトコンベアーで移動する。物流センター中に張り巡らされた機械のアームが荷物を適切なベルトコンベアーに乗せ、ビニールや段ボールで梱包し、自動走行する円盤型の機械に乗せる。この機械は巨大なチェス盤のような床を走行して荷物を運び、床に空いた穴に荷物を落とし入れ、布袋に詰める。布袋はコンピュータ制御の車輪つきの棚が回収し、トラックに搭載する。トラックは顧客が注文をクリックしてから二四時間以内に大半の商品を届ける(38)」。JDドットコムは現在、アジア全体で約一六万人を雇用しているが、今後一〇年で人員を八〇〇〇人以下に削減する意向をあきらかにしている。人員削減後の仕事は、これまでとはまったく異なるスキルが要求される見込みだという(39)。
なぜ物流センターはいまも多くの人を雇っているのか。大きな理由は、注文に応じて商品を取り出す作業が依然としておおむね手作業で行われていることにある。複雑な知覚とマニピュレーション(手先を器用に動かす)というタスクでは人間がいまも比較優位を保っている。だが最近は、ここでもAIの活用で多くの突破口が開けている。近年のめざましい進歩を示しているのが、イーロン・マスクが設立した非営利団体オープンAI(カリフォルニア州サンフランシスコ)で開発された五本指のロボット・ハンド「ダクティル」だ。「各面にアルファベットが書かれた立方体の積み木をダクティルに渡して、特定の文字を見せてくれというと(たとえば赤のO、オレンジ色のP、青色のIなど)、ダクティルはその文字をこちらに見せてくれた上で、五本指で器用に積み木をぐるぐると回転させる(40)」。これは人間にとってはたやすい作業だが、ポイントは、ダクティルがAIの力を借りて試行錯誤を繰り返し、おおむね自力で新たなタスクを学習できたことにある。