構造化された環境
例
対戦ゲーム
チェス
将棋
囲碁
非構造化の要素
場外戦
自動運転車はまだ初期の段階だが、さまざまな場所に配置されつつある。一部の農業用車両、フォークリフト、貨物自動車はすでに自動化されており、最近では病院が食品・処方薬・試料を運ぶために自動運転ロボットを使いはじめている(24)。二〇一七年には英豪系資源大手のリオ・ティントが、豪ピルバラ地区の採鉱場で利用する自動運転の運搬トラックを二〇一九年までに五〇%増やし、操業を完全自動化する方針を示した(25)。ただこれまでのところ、自動運転車の利用は、倉庫・病院・工場・鉱山など、構造化された環境に限られることが多い。自動運転車が遭遇しうるさまざまな物体や状況をコンピュータのプログラムである程度まで予測できる場合、自動化はそれほどむずかしくない。何かが接近してきた場合、「この場合はこうする」という明確なルールを使ってプログラムで簡単に停止や減速を指示できるからだ。ところが、大都市の公道など構造化されていない環境では、遭遇しうる状況の数があまりにも多いため、そうした手法では、ほぼ無限とも思える数のルールをつくらなければならない。
強固な統計的規則性
チェス以外の分野でも、狭い範囲での大量の練習が、グランドマスターのような直感を生み出す分野はある。外科医もゴルファーのように、同じプロセスを繰り返すことで上達する。会計士や、ブリッジやポーカーのプレーヤーも、繰り返し経験を積むことで直感が正確になっていく。カーネマンはこれらの領域の「強固な統計的規則性」を指摘する。
しかし、ルールがわずかでも変更されると、エキスパートは柔軟性を失ってしまうようだ。研究では、ブリッジのルールを変更すると、ブリッジのエキスパートはそうでない人と比べて、新しいルールへの適応に苦労する。また、別の研究では、経験豊かな会計士が、控除額に新しい税法を適用するよう言われると、新人よりもうまくできなかった。
ライス大学教授で、組織行動学を研究するエリック・デーンは、この現象を「認知的定着(cognitive entrenchment)」と呼ぶ。それを避ける方法としてデーンが提案するのは、「1万時間の練習」で推奨されることとは正反対だ。すなわち、一つの領域内で取り組む課題を大幅に多様なものにすること。そして、デーンの共同研究者の言葉を借りると「片足を別の世界に置いておくこと」だ。