桜井政博
『スマブラ』は巨大です。任天堂のタイトルでも、圧倒的に巨大。すでに4作目と5作目であり、順調に市場に出ていることは事実だから、お客さんにとってはシリーズが作られるのが当たり前のように思えるかもしれません。が、これが実現できていることが奇跡的。
ファイターひとつ取っても、こんなに仕様の手が込んだものが新規制作でこれだけの多さで入るというのは例を見ません。3DS版の定価で割ったら100円強。モードや音楽、フィギュアなどのボリュームを考えても、計算が合いません。物量的な意味なら、『グランド・セフト・オート』など、上には上がいることも意識していますが。
これができるのは、任天堂がかけたコストと、開発側の努力。とくに3DS版は価格も抑えており、非常にお買い得だと思います。スタッフや関係者の皆様、本当におつかれさまでした。
しかし、こういったものを作るためには、やはり無理がかかります。とくにディレクターにとっては。『スマブラ』の制作は、多くのプライベートを破壊します。
ほぼすべての仕事を見ているわけだから、ボリュームが多ければそのぶん見るべきものは増えます。2機種別なら、両方見るのも当然。ひとりのディレクターができる仕事量はずっと超えているので、無理をしてでも時間を捻出するしかありません。もちろん、人に任せるということもつるに考えていますが、それ以上に見るべきもの、手をかけるものが多いです。
結果、朝から深夜まで、休日も働き続け。余暇はもちろん、ろくにゲームするヒマもありません。
『スマブラDX』のとき。13ヶ月間、1日も休みを取らずに仕事をしていました。最後は、40時間働いて4時間寝に帰るということも。わたしは若くないので、当時ほどの無茶はできなくなりましたが、要素の多さによる忙しさは、今回のほうが上だと感じました。毎日の仕事をなんとかその日のうちにこなしながら、とにかく体調を崩さぬよう維持に努める日々でした。
『スマブラ』の制作は、毎回度を超えてタイヘンです。これだけのコストをかけ、日本のゲームを代表するキャラクターやコンテンツを自由度高く使わせていただき、また、世界中の多くの人に遊ばれて感謝すべきなのだろうと思います。制作者冥利に尽きるというか、望んでも得られない仕事ですが。
一方で、人生に対して考えてしまうこともあります。人は何で生まれてきたんだっけ、と。人生感に影響があるほど、難しく大きな仕事ではありますね。
vol.465 度を超える
『大乱闘スマッシュブラザーズ for wii U』の開発が落ち着いた頃
ファミ通 2014/11/13号