待ち伏せ開発
■次世代の技術者に望むこと■
井上:最後に、「次世代の技術者に望むこと」とお話いただけませんでしょうか。
中村:一口で今の若い人の悪口を言うときには、僕は「漫画世代」と言う。例えば、オウム真理教の連中もやったことの悪さ加減は別として、「ああいう発想で、ああいうふうに動けるというのは、頭の構造がシンプルな漫画世代だ」と思う。要するに、今の人たちの育ち方は、地面に足が着いてないまま、おみこしと一緒にワッサワッサと動いているような、ちょっと宙に浮き加減というか、ものの本質をわきまえていないという感じがする。
仕事というのは「男の仕事」。「男の仕事って何だ」と聞かれるとちょっと困るけど、『男はつらいよ』の寅さん(渥美清主演)じゃないけど、やっぱり辛い。その辛さに耐えて乗り切るのが男の仕事なんだ。「よしよし」だけで過ごしていては、多分男の仕事は生れない。女性は子どもを生むときには命がけ、男だって命がけの仕事をしろよ。そうすると、ものの見方がもうちょっと変わってくるんじゃないかな。
特に三十歳ぐらいの人には『極限の仕事』をやらせて欲しい。極限の仕事をやらせるというのは、ギリギリのところへ追い込んでいかなければ難しい。極限の仕事をやらせるということは、「やりたいことを、じゃあ君、このテーマができるまで勉強していなさい」という覚悟でもないとやれないだろうと思う。実際に、そういう人の使い方ができないということは、ギリギリのところへ追い込んでいないということになる。僕らが自動車を開発していた1955年頃は、失敗すれば会社が潰れるというギリギリのこところにいたから幸運にも極限の仕事ができた。その結果として、会社もずいぶん儲けることができたわけです。
僕らが主査だった頃は、全て手本がない先行開発だったから自分でやらざるを得ない。先に開発して待ち伏せしていなくては、主査は辛い目に合わされた。ところが、今は、有り合わせのものを組み合わせれば車ができてしまう。だから、苦しい開発作業を始めると悪い男と思われかねない。トヨタは、世界の生産台数の約1割の車を生産しているのだから、義務として1割はリーダーシップを執らないといけない。トヨタが伸びる会社なら2割執らないといけない。ガスタービンの特許を調べたら、GMは重要な特許をたくさん持っているのに驚かされた。GMのリーダーシップは大したものだ。何でも世界一は難しいが、世界一というのが1割か2割は欲しい。大量生産車とかあるいは現場がビックリするようなことで冒険をしようとするのは少し問題があるが、あまり遠慮せずにドンドン冒険をして欲しい。