学習共同体
学習共同体にとって理想的な4つの特徴
メンバーの熟達レベルが多様で、メンバーの貢献が尊重され、成長のための支援が与えられている
共同体の知識やスキルを継続的に発展させるという共通の目標
学び方学習の重視
学習したことを共有する仕組み
出典
帰属と学習意欲
大学進学は誰にとっても大変だ。新しい友人を作り、これまでより厳しい授業を受け、初めて家族と離れて暮らす。肌の色が違う学生たちにとってその大変さはひとしおだ。自分を場違いに感じる者が多い。なじむのに苦労する。大学のカルチャーは自分の生まれ育った世界のカルチャーとまったく異なる。「自分を孤立した島のように感じることがちょくちょくありました」とティングリン=クレモンズは言う。
この問題にデボラ・ビアルが数年前から取り組んでいた。ビアルは大学から「見過ごされていた」学生たちを支援するプログラムを立ち上げた。彼らが大学でもっと社会的支援を受けられるようにし、学業で成果を上げる手助けをするものだ。「ポッセ」というこのプログラムは、有色人種であることで不利となる学生を一〇名ずつ全国の大学に送り込む。「ポッセ」によって学生は支え合う仲間のネットワークを持つことになる。
ティングリン=クレモンズは「ポッセ」学生の第一号としてバックネル大学に入学していた。化学の授業では孤立体験をしたが、このプログラムのおかげで学内で浮いた存在だと感じずにすんだ。彼は「ポッセ」の学生たちと一緒に音楽を聴き、食事に行った。クラスで居心地の悪い思いをした話をし、バスケットボールをしてストレスを発散した。少人数のグループだったから結束は固かった。ティングリン=クレモンズの「ポッセ」の仲間には、のちに結婚式の介添え役になってもらった者もいる。
このような感情面の支援がモチベーションを上げ、学習に価値と意味の感覚を生み出す。「ポッセ」プログラムの学生たちは大学を卒業する確率がとびぬけて高く、九割以上が卒業する。ティングリン=クレモンズは歴史と宗教学の二つの学位を取得してバックネル大学を卒業した。四年生のときには学生会の会長も務めた。卒業できたのは「ポッセ」プログラムのおかげだと振り返る。
価値と意味に関わる多くのことがそうだが、帰属欲求は見過ごされがちだ。社会的手がかり〔その人の社会的な立場に関する情報〕が見えにくいのも理由の一つだろう。社会的手がかりは声高な主張をするよりもひっそりと声を発する。連帯感や社会的価値の感覚は、言葉の抑揚や語尾の変化、体の姿勢などに暗黙の形で表れるものだ。
社会的要素は微妙な違いでありながら、私たちの価値の感覚に多大な影響を及ぼす。家族や仲間、友人や同僚が学習に感情面で意味をもたらすし、私たちはストレスを感じたとき、緊張したとき、悲しいときに他人を頼る。テスト不安が良い例だ。テストを前にして不安を感じている学生は、親しい友人がいるほど良い結果を出す。仲間の支えが、試験に対する精神的な緊張をやわらげる心のクッションになるようだ。仲間がいると感情をコントロールしやすくなる。
社会的ネットワークもモチベーションの一種であり、自分はどこにも属していないと感じている学生はモチベーションがかなり低く、一般的に学業もふるわない。具体的には、クラスに友達がいる学生は友達のいない学生よりテストの得点が高くなりやすい。
これは仲間、チーム、同族、派閥、サークルからの同調圧力の良い面で、学習に打ち込む者が一人いると、他の人間も学習に打ち込むようになる。私たちは仲間外れとか落ちこぼれとかなまけ者になりたくないため、モチベーションと意味が集団内に広まる。意欲は人から人へ移ることがある。最近のある論文が発表したとおり、「知的努力には伝染性がある」のだ。
学習に対して人間の社会性が及ぼす力は思いのほか大きい。ハーバード大学のような超エリート校を考えてみればわかる。同大学を一流たらしめているのは教育プログラムだと思うかもしれない。教師陣、カリキュラム、施設すべてが高水準だと考えられている。授業料が高額なのはまさにそのゆえん──少なくとも大学のパンフレットはそう謳っている。トップクラスの教員、トップクラスの教材、トップクラスの校舎にお金をかけているのだと。
だが実は、在学生が果たしている役割こそが大きい。さまざまな形の社会的圧力、規範、勉学の場での切磋琢磨を通じて、周囲の学生が学習を促すのにとてつもなく寄与している。ハーバードのようなエリート校では、同級生の存在が成果の三分の二に貢献していると言えるほどだ。もっと簡単に言ってしまえば、ハーバード大の成功の大半は教授陣やカリキュラムや校舎とはあまり関係がない。ハーバードに在籍している学生たちに多くを負っている。
生徒たちとの社会的なつながりを育むために、ティングリン=クレモンズは毎年、家庭訪問を行う。また数人の生徒に対しては出場する試合を見に行ったり、夕食に連れて行ったりしてさらに親しいつながりを作り、個人的な指導を心がけている。生徒たちに「メンターを見つけなさい」とアドバイスもしている。学校を中退したくないなら、卒業まで残りそうな人たちと付き合いなさい、とも。
負の学習共同体
短期記憶のはかない性質に関して私が気に入っている研究がある。授業中にノートパソコンを使用している大学生を調査したところ、ネットにつながっている学生はネットにつながっていない同級生と比べて学習成果が低かった。目新しい話ではない。コンピュータを持ち込んだ学生は気が散っていたために、学習量が少なかったのだ。
ところが、ノートパソコンの使用は隣にいた学生の学習成果まで下げていた。隣の学生自身がネットサーフィンをしていたわけではなかったのに、である。この学生たちは他のことに気をとられている他人に気をとられてしまった。彼らのワーキングメモリーは他人のワーキングメモリーの停滞に引きずられてしまったのだ。