ルールダイナミクスとノミック
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ルールは、その規範的な響きとはうらはらに、実際にはダイナミックなものである。私たちは、社会的ルールにのっとって日々ことばを用いたり、行動したりしているように見えるが、その活動の中からルールの変化が立ち現れてくる。そのときに発揮されるのが、境界を意識して違和感を抱き、境界を踏み越えてゆく<境界知>の作用である。
ここには、自己言及的な関係が見いだせる。すなわち、ルールを適用しつつ、ルールの適用がルールの変更をもたらす。これをルール自体の自律的ダイナミクスという意味で、「ルールダイナミクス」と呼ぼう。
このようなルール変化の自己言及的性格を抽出した興味深いゲームとして、自己改変ゲーム「ノミック」というものがある。これは、ピーター・スーバーという停学者が考案し、ダグラス・ホフスタッターが『メタマジック・ゲームー科学と芸術のジグソーパズル』(白揚社)の中で紹介しているものである。このゲームの特徴は、ゲームの目的がルールを変更することにあるという点である。
初期ルールには、どうやったらゲームに勝つのか、達成目標はなんなのかも書かれていない。したがって、ゲームの目的やいつゲームが終わるかということ自体、ゲーム中に作成される必要がある。そもそも、プレイヤーはこれが「どんなゲーム」なのか、いや、「どんなゲームにしていこうとするのか」を、ゲームしながら決めなければならない。が、もちろん、こんなゲームにしようとプレイヤーたちが思ったところで、それが多くのプレイヤーで共有されない限り、実現されるとは限らない。
参考
出典