ミスの記録
専門分野における能力開発はフィードバックから始まる。何を学びたいかが定まり、学習が始まったら、自分のパフォーマンスについて何らかの情報が必要になる。
私がよく例に出すのは、トロント在住の脳外科医、マーク・バーンスタインだ。バーンスタインは一〇年間にわたって手術中に起きたミスをすべて書き出していた。チューブ一本落ちても、縫合部がうまく接着しなくても、いちいち記録した。看護師とのやりとりのちょっとした行き違いさえ、日付や患者の年齢などの詳細とタグづけしてデータベースに残した。
後にバーンスタインと同僚がデータを検証したところ、ミスを記録するという行為には大きな効果があるとわかった。ミスを書き出す、つまり、フィードバック・システムを作ることによって、チームのミスは大幅に減った。効果は即効性があり、バーンスタインのチームの手術中の過失率は最初の一年で激減した。しかもその効果は一〇年以上も持続したのである。最終的にバーンスタインの過失率は一カ月に三件以上から一カ月に約一・五件にまで下がった。
分からなかったところを記録する
読めると理解できているは違う。理解できているといっても、知っているだけと使えるでも違う。使えるでも、効果が出るように使えるとは度合いが違う。
このようなモニタリングのメリットは、意識が高まることだ。多くの分野において、自分のパフォーマンスにほとんど注意を払わない人が多いものだが、自分のパフォーマンスを記録していると、向上に意識が向く。
自動車の運転が良い例だろう。車の動かし方に上達しようと努力する人はあまりいない。駐車のしかたが一七歳のときから進歩していなかったり、カーブでブレーキを踏みすぎたりする人が大半だ。ウィンカーを出しっぱなしでいつまでも車を走らせている人も見かける。