パーソナリティの市場的構え
フロムは、現代の市場経済の原理が個人の人間的価値にまで及んでいるとした。市場経済の発展により、モノの価値は、それがどれだけ役に立つかという使用価値によって決まるのではなく、それがいくらで売れるのかという交換価値で決まるようになった。それと同様に、人間の価値も、どんな能力がありどんな人格を備えているかということよりも、周囲の人たちから気に入られているかどうか、受け入れられているかどうかによって決まる。そこで、多くの現代人は、まるで人気商売のように、人から認められ好感を持たれることを求めるようになった。 そこでフロムは、自分自身を商品と見なし、自己の価値を交換価値として体験するパーソナリティの構えを市場的構えとし、パーソナリティ市場の発展により、市場的構えが急速に育ちつつあると指摘した
『人間における自由』
部下や後輩から「上から目線」を指摘されたりしたら、それはもう心穏やかではいられない。自分の価値の源泉は、能力や人格そのものではなく、人から気に入られるかどうかなのだから。人からの人気によって自分の価値が決まる。ゆえに、みんな人から良く思われたいという気持ちが強い。
そこで、部下や若手のご機嫌をうかがうような言動も目につくようになってきた。命令口調、説教口調の言い方がまずいのは当然として、「こうしてください」「そのやり方はダメです」「こんな風にするとよいですよ」のようなていねいな言い方をしても、その姿勢が「上から目線」として糾弾されかねない。それなら、「こうしていただけますか」「そのやり方はご遠慮いただけますか」「こんな風にするとよいように思うのですが」のように、へりくだった言い方をすればよいというのだろうか。これではまるでお客様扱いだ。