ウィリアムソンの合理性
限定合理性(Bounded Rationality):
ウィリアムソンは、人間の合理性が完全ではなく、情報処理の限界や時間、コストの制約などによって限定されていると認識しています。これは、経済行動においてすべての情報を収集・処理することは不可能であり、個人や組織はしばしば不完全な情報に基づいて決定を行うというサイモンの限定合理性の見解に基づいています。
ウィリアムソンは、経済主体が自己利益を追求する過程で機会主義的に振る舞うことを指摘しています。つまり、個人や組織は、自らの利益のために情報を歪曲したり、約束を破ったりする可能性があると認識しています。これは、経済取引における不確実性や不完全さがトランザクションコストを高める一因となると考えられます。
ガバナンス構造(Governance Structure):
これらの合理性の限界と機会主義的行動に対処するために、ウィリアムソンは異なるタイプのガバナンス構造が必要だと提唱しました。ガバナンス構造は、市場、階層(組織内ガバナンス)、ハイブリッド(市場と階層の中間的な形態)などがあります。これらの構造は、トランザクションの特性によって最適化され、トランザクションコストを最小限に抑え、合理的な取引が行えるようにする仕組みです。
市場
市場構造においては、価格メカニズムがガバナンスの主要な手段です。市場では、価格が情報と動機を提供し、競争が機会主義的行動を抑制する役割を果たします。市場参加者は競争によって相手の価格と性能を比較でき、最も効率的な供給者に取引を委ねることができます。競争が厳しい市場では、詐欺や不正行為は比較的すぐに露見しやすく、機会主義的行動が抑えられる傾向にあります。しかし、すべての取引が簡単に価格で比較できるわけではなく、市場には不完全性が存在します。
階層(組織内ガバナンス)
階層的ガバナンスは組織内部における直接的な監督と統制に基づいています。組織内ガバナンスの下で、決定は管理の階層を通じて行われ、機会主義的行動は正式な規則と手続き、および監督によって制限されます。組織の内部では、長期的な雇用契約や企業文化を通じて、従業員が会社の目標に合致するような行動を取るよう動機づけられます。また、機会主義的行動が発生した場合、企業は内部の規律や研修を通じてそれを是正する手段を持っています。
ハイブリッド
ハイブリッド構造は市場と階層の中間的な形態をとり、長期的な契約、共同事業、フランチャイズ、戦略的提携などを含みます。このような構造では、独立した組織が協力して特定の取引を行いますが、完全な市場のように頻繁にパートナーを変更するわけではなく、また一つの組織内部での完全な統制も存在しません。取引の当事者は互いに一定の依存関係にあり、情報の共有や相互の信頼の構築を通じて機会主義的行動を抑制します。
これらのガバナンス構造は、トランザクションの特性、とりわけ頻度、不確実性、特殊性(取引に関連する固有の投資)を考慮して選択されます。ウィリアムソンは、これらの特性が高い場合には、内部化(階層)やハイブリッド構造が有効であると指摘しています。これは、機会主義的行動やその他の取引コストを管理する上で、市場よりも効果的な場合があるためです。
要するに、ウィリアムソンのガバナンス構造は、トランザクションの性質に応じて機会主義的行動を管理するためのものであり、これらの構造を適切に選択し適用することで、組織は効率を最大化し、トランザクションコストを最小化することができるわけです。