アレグザンダーの挫折
アレグザンダーはどこで間違ったのだろうか? デザインという問題の設定の仕方が間違っていたのか? それとも、ニーズを傾向(フォース)としてとらえたことが間違っていたのか? それを数学の証明のようにカスケード状に積み上げたのがいけなかったのか? アレグザンダー自身もこのような問いについて考え、そして下した結論は、ほぼすべて間違っていた、というものであった。形を目標とすることも、形とコンテクストの適合によってデザイン上の価値判断をすることも、ニーズをフォースとしてとらえ、それに基づいて形を見出すことも、カスケード状にルールを積み上げることも。
それでは、最初から間違っていたとアレグザンダーは考えたのだろうか。おそらく、最初から間違っていたと考えたのであろう。それほど、パターン・ランゲージの失敗が彼に与えた衝撃は大きなものであった。もちろん、パターン・ランゲージのすべてを彼は否定しているわけではない。逆に彼は、パターンのいくつかは、今でも有効だと考えている。ここで彼が否定しているのは、その理論のつくり方、その態度そのものであり、それが根本的に間違っていたと考えたのである。
それでは、何が根本的に間違っていたのだろうか。「デザインという問題」を設定したとき、彼は自らを科学者だと考えていたと本書の冒頭のほうで書いた。この科学者的態度そのものが誤りであったとアレグザンダーは考えたのである。しかも、彼が科学的態度を採用したことが誤りだというだけでなく、その科学的態度そのもの、私たちが持つ科学のあり方についての一般的な認識がそもそも間違っているのだというのである。