『ソーシャル物理学:「良いアイデアはいかに広がるか」の新しい科学』
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『ソーシャル物理学 「良いアイデアはいかに広がるか」の新しい科学』
目次
第1章 社会物理学とは何か
社会の進化をビッグデータで理解するための新しい枠組み
人間を理解する新しい言葉・概念・理論
社会物理学とは何か
実用的な社会科学としての社会物理学
人々の行動を記録したビッグデータを利用
従来とはケタ違いの豊富なデータに基づく社会科学
本書の構成
データ駆動型社会の実現と「プロメテウスの火」/[トピックス]
本書で使用される言葉
Part1社会物理学
第2章 探求
いかにして良いアイデアを発見し、優れた意思決定に結びつけるか
創造性は個人の才能ではなく群衆の英知
社会的学習のネットワークを見る
アイデアの流れの速さと群衆の英知
自分の周囲のアイデアの流れを改善する方法
ネットワークのチューニングで成果が向上
良い結果を生む「探究」のポイント
第3章 アイデアの流れ
集合知の土台となるもの
「アイデアの流れ」が組織の能力を決める
習慣、選択の優先規準、好奇心は何で動かされるか
新しい習慣が根付くのに必要なこと
集団的合理性はあるが個人的合理性はほぼない
常識がもつ意味
第4章 エンゲージメント
なぜ共同で作業することができるのか
人はなぜグループの一員として行動するか
社会的圧力を利用する「インセンティブ」
SNSを通じての影響の広まり方
やり取りがあっても支配と対立が発生する理由
エンゲージメントを成功させるルール
次のステップ──社会を計測し繁栄へ導く/[トピックス]
社会的影響の数学
Part2アイデアマシン
第5章 集団的知性
交流のパターンからどのように集団的知性が生まれるのか
集団を賢くするのは何か
人々の集団を測定する
エンゲージメントと生産性
探究とエンゲージメントの反復と創造性
アイデアの流れを改善する
第6章 組織を改善する
交流パターンの可視化を通じて集団的知性を形成する
誰と誰が会話しているかを可視化する
エンゲージメントを可視化で調節させる
探求も可視化で改善できる
アイデアの多様性を評価する方法
社会的知性 カリスマ的リーダーは何をしているか
第7章 組織を変化に対応させる
ソーシャルネットワーク・インセンティブを使用した
迅速な組織の構築と、破壊的な変化への対応
迅速な組織編成と「レッドバルーン・チャレンジ」
組織化が素早く行われ、しかも効率的に動く
ストレス下の組織はエンゲージメントを高める
信頼が組織の能力を高める
次のステップ/[トピックス]
社会的シグナル
Part3データ駆動型都市
第8章 都市のセンシング
モバイルセンシングによる「神経系」が都市をより健全・安全・効率的に
都市の状態を把握する「デジタル神経系」
データで「行動に基づく人口統計」を構築する
交通を安全で効率的にし、都市の生産性を上げる
感染症の流行を個人単位で追跡して対策する
ソーシャルネットワークへ介入し、人々に働きかける
デジタル神経系のデータが都市を劇的に改善する
第9章 「なぜ人は都市をつくるのか」の科学
社会物理学とビッグデータが、都市の理解と開発のあり方を変える
都市の生産性はなぜ高いのか
社会物理学の数理モデルは都市の規模へ拡張可能
都市の社会的絆のパターンから推測できること
都市で行われる探究の興味深いパターン
都市のアイデアの流れから生産性を予測する
社会物理学による「良い都市」の再発見
物理的な近さの重要性と都市
次のステップ/[トピックス]
デジタルネットワークか、対面でのコミュニケーションか
Part4データ駆動型社会
第10章 データ駆動型社会
やがて来るデータに基づいて動く社会とは、どのような姿になるのか
データ利用とプライバシーの両立をはかる
データのニューディールとは
データのニューディールを実施させる
ネットの無法地帯にあるパーソナルデータ
データ駆動型システムの課題
社会物理学と自由意思、人間の尊厳との関係
第11章 社会をより良くデザインする
社会物理学が人間中心型社会の設計を支援する
「市場」はそれほど優れたモデルなのか
人類の自然状態は市場ではなく交換
社会物理学に基づいた社会デザインの規準
データ・フォー・デベロップメント(D4D)
おわりに──プロメテウスの火
解説 野和男(日立製作所フェロー
付録1 リアリティマイング
付録2 オープンPDS
付録3 早い思考、遅い思考、自由意思
付録4 数学
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はじめに―本書はいかにして生まれたか
第1章 社会物理学とは何か
社会の進化をビッグデータで理解するための新しい枠組み
人間を理解する新しい言葉・概念・理論
社会物理学とは何か
実用的な社会科学としての社会物理学
出現頻度n位のものの出現確率がnのべき乗に反比例するという経験則
人々の行動を記録したビッグデータを利用
従来とはケタ違いの豊富なデータに基づく社会科学
社会科学と社会物理学の領域の違い
https://gyazo.com/bdf942afce89c2a29f4c2331d96e8f49
データセット
フレンズ・アンド・ファミリー( 友人と家族)研究…いくつかの若者世帯で構成される小さなコミュニティの行動を記録した、約 18 ヶ月分のデータ。位置情報やコミュニケーション履歴、購買履歴、ソーシャルメディアや携帯電話アプリの使用履歴、睡眠情報など、 30 に及ぶ多様なデータ項目が含まれている。データは半年に1回という頻度で収集され た。全体としてこのデータには、人間の社会行動に関する150万時間分の定量的な調査結果が収められている。
ソーシャル・エボリューション( 社会発展)研究…大学の学生寮で収集された9ヶ月分のデータ。含まれているのは位置情報、互いの接近の情報、5分間隔で計測されたコミュニケーション履歴、健康状態、政治観、ソシオメトリー変数である。全体として、 50 万時間分の定量的観測結果が収められている。
リアリティマイニング…2つの大学内研究室の院生に関する、9ヶ月分のデータ。含まれているのは位置情報、互いの接近の情報、5分間隔で計測された通話履歴、その他ソシオメトリー変数である。全体として、 33 万時間分の人々の交流に関するデータが収められている。
バッヂ・データセット…ホワイトカラーの人々が働くオフィスで収集された、1ヶ月分のデータ。位置情報、コミュニケーション履歴、 16 ミリ秒間隔で計測されたボディランゲージに関するデータが、正確なワークフローと作業成果のデータとともに含まれている。
本書の構成
本書の目標は、いかに社会物理学が、行動に関するビッグデータと社会科学理論を駆使し、現実世界に応用できる実用的な科学を構築しようとしているか( そしてそれがどれだけ達成されているか)を皆さんにお見せすることである。パート1では、いくつかの例を使い、理論面での前提知識について解説する。そこで登場するのは、社会物理学において最も重要な次の2つの概念である。
アイデアの流れ…いかにアイデアがソーシャルネットワークの中を伝わるのか。アイデアの流れの過程は後に説明する「探求」( 新しいアイデアや戦略を発見すること)と「エンゲージメント」( 人々が自分の行動を適合させること)の2つに分けられる。
社会的学習…新しいアイデアが習慣となる過程で生じるもので、学習が社会的圧力によって加速したり、形作られたりすること。
パート1では、「デジタルパンくず」を活用して、社会的影響力や信頼、社会的圧力といった抽象的な概念に関する、正確で実用的な指標を得る方法についても解説する。このテクニックを使うことで、ソーシャルネットワークの中のアイデアの流れを測定することができるようになる。またインセンティブをうまく設定して、社会的学習のパターンを形成することが、現実の世界でも可能になる。社会物理学がどう機能するかを解説するために、オンラインのソーシャルネットワークのほか、健康、政治、経済、購買活動といった分野の例を紹介する。
私たちはこれまで、社会物理学を使い、いくつもの組織をより柔軟かつ創造的・生産的に変化させてきた。パート2では、その方法を解説しよう。事例として挙げるのは、研究所、広告会社のクリエイティブ制作部門、企業のバックオフィス部門、コールセンターである。
パート3では、都市全体など、より大規模な形で社会物理学を活用することについて解説する。社会物理学を使い、私たちの都市をより効率的かつ創造的・生産的な存在へ再構築する方法について考えてみたい。
最後のパート4では、社会物理学を公的な組織や機構に応用することについて検討する。「データ駆動型社会( data-driven society)」、すなわちデータが社会を動かすような環境において、政府の役割や各種の法律・規制の構造がどうあるべきかを考え、プライバシーや経済活動に対する規制について、いくつかの改善策を提案してみたい。
新しいアプローチは経済学に似ている。どちらも定量的な分析を行い、予測の実現を目指しているからだ。実際、本書に登場する用語の多くは経済学から借用したものである。しかし経済学と違い、社会物理学の目的は経済の動きの研究ではなく、アイデアの流れがどのようにして行動へと結びついていくのかを明らかにすることだ。言い換えれば、経済学ではいかに市場が通貨の交換によって機能するかを研究するのに対して、社会物理学はいかに人間の行動がアイデアの交換によって促されるのか( 人々がどのようにして戦略の発見・選択・学習を協力して行い、行動の調整を行うか)を研究する学問である。
他にも社会物理学が表面上の類似性を持つ学問領域がある。認知科学はそのひとつだ。ただし、認知科学と社会物理学の間には大きな違いがあることを理解しておかなければならない。社会物理学では個人の思考や感情に焦点を当てるのではなく、社会的学習が習慣や規範をもたらす力に注目する。その根底にあるのは、他人の行動( およびその背景に関する情報)を模範として学習するという行為が、人間の行動変化をもたらす主要なメカニズムであるという仮説だ。社会物理学では、人間の内側にある認知の過程までは追わない。そのため社会物理学は本質的に確率的であり、人間の思考がいかに形成されるかを検討外とすることで生まれる不確実性が、その中核に存在している。
データ駆動型社会の実現と「プロメテウスの火」
本書で使用される言葉
探求…探求とは、新しい( そして価値があると考えられる)「アイデア」を探すプロセスのことで、多様な人々から形成されるソーシャルネットワークを構築しながら、あるいはその中を動き回りながら行われる。企業においては、外部から多くのアイデアを取り入れているグループの方が、より革新的なアイデアを生み出す傾向にある。
アイデア…アイデアとは、望ましい状態を生み出すための戦略( 行動およびそれが生み出すもの、そしていつ行動を取るかを判断する仕組み)を意味する。互いに矛盾しない、価値のある一連のアイデアは、「行動習慣」となり、「速い思考」を実現するために使われる。
アイデアの流れ…社会的学習や社会的圧力といった手段により、ソーシャルネットワークを通じて行為や考え方が伝播していくこと。アイデアの流れを左右するのは、ソーシャルネットワークの構造、アイデアを伝える人物の社会的影響力の強さ、そしてアイデアを伝えられる側の人物の新しいアイデアに対する感受性の強さといった要因である。 情報…情報は観察によって得られる知識のことで、意見の中に組み込まれたり、アイデアを構築したりするのに使われる。
インタラクション( 相互作用)…インタラクションには直接的なもの( 例:会話)と間接的なもの( 例:会話の立ち聞き)が存在する。
社会的影響…ある人物の行為が、別の人物の行為に何らかの変化を及ぼす公算( 尤度・確率)のこと。
社会的学習…社会的学習は、( 1) 他人の行動を観察したり、印象的な物語を聞かされたりすることを通じて、新しい戦略( 状況や行動、結果など)を学ぶこと、もしくは( 2) 経験や観察を通じて新しい考え方を学ぶことを意味する。
ソーシャルネットワーク・インセンティブ…2人の人物の間にあるやり取りのパターンを変更させるようなインセンティブのこと。 社会規範…社会規範は、社会を構成するメンバーからやり取りの価値を最高に高めるものとして認められた、互いに矛盾しない戦略のセットである。通常、社会的学習を通じて形成され、社会的圧力によって拡散される。
社会的圧力…社会的圧力は、交渉において、ある人物が別の人物に対して行使することのできる影響力のことである。しかしその効果は、彼らの間のやり取りが持つ価値の大きさによって制限される。
社会…社会物理学では、人間の社会の大部分は、個人同士が何らかの交換を行うネットワークによって構成されているという前提に立っている( 階級や市場によって形成されているという説明のしかたは取らない)。
戦略…状況を把握する仕組みと、その状況の中で取ることのできる行動、さらにその行動から生まれることが期待される結末をまとめたもの。
信頼…安定的な交換価値が維持されると期待すること。 Part1社会物理学
第2章 探求
いかにして良いアイデアを発見し、優れた意思決定に結びつけるか
創造性は個人の才能ではなく群衆の英知
社会的学習のネットワークを見る
アイデアの流れの速さと群衆の英知
自分の周囲のアイデアの流れを改善する方法
ネットワークのチューニングで成果が向上
良い結果を生む「探究」のポイント
第3章 アイデアの流れ
集合知の土台となるもの
「アイデアの流れ」が組織の能力を決める
習慣、選択の優先規準、好奇心は何で動かされるか
新しい習慣が根付くのに必要なこと
集団的合理性はあるが個人的合理性はほぼない
常識がもつ意味
第4章 エンゲージメント
なぜ共同で作業することができるのか
人はなぜグループの一員として行動するか
社会的圧力を利用する「インセンティブ」
SNSを通じての影響の広まり方
やり取りがあっても支配と対立が発生する理由
エンゲージメントを成功させるルール
次のステップ──社会を計測し繁栄へ導く/[トピックス]
社会的影響の数学
Part2アイデアマシン
第5章 集団的知性
交流のパターンからどのように集団的知性が生まれるのか
集団を賢くするのは何か
人々の集団を測定する
エンゲージメントと生産性
探究とエンゲージメントの反復と創造性
アイデアの流れを改善する
第6章 組織を改善する
交流パターンの可視化を通じて集団的知性を形成する
誰と誰が会話しているかを可視化する
エンゲージメントを可視化で調節させる
探求も可視化で改善できる
アイデアの多様性を評価する方法
社会的知性 カリスマ的リーダーは何をしているか
第7章 組織を変化に対応させる
ソーシャルネットワーク・インセンティブを使用した
迅速な組織の構築と、破壊的な変化への対応
迅速な組織編成と「レッドバルーン・チャレンジ」
組織化が素早く行われ、しかも効率的に動く
ストレス下の組織はエンゲージメントを高める
信頼が組織の能力を高める
次のステップ/[トピックス]
社会的シグナル
Part3データ駆動型都市
第8章 都市のセンシング
モバイルセンシングによる「神経系」が都市をより健全・安全・効率的に
都市の状態を把握する「デジタル神経系」
データで「行動に基づく人口統計」を構築する
交通を安全で効率的にし、都市の生産性を上げる
感染症の流行を個人単位で追跡して対策する
ソーシャルネットワークへ介入し、人々に働きかける
デジタル神経系のデータが都市を劇的に改善する
第9章 「なぜ人は都市をつくるのか」の科学
社会物理学とビッグデータが、都市の理解と開発のあり方を変える
都市の生産性はなぜ高いのか
社会物理学の数理モデルは都市の規模へ拡張可能
都市の社会的絆のパターンから推測できること
都市で行われる探究の興味深いパターン
都市のアイデアの流れから生産性を予測する
社会物理学による「良い都市」の再発見
物理的な近さの重要性と都市
次のステップ/[トピックス]
デジタルネットワークか、対面でのコミュニケーションか
Part4データ駆動型社会
第10章 データ駆動型社会
やがて来るデータに基づいて動く社会とは、どのような姿になるのか
データ利用とプライバシーの両立をはかる
データのニューディールとは
データのニューディールを実施させる
ネットの無法地帯にあるパーソナルデータ
データ駆動型システムの課題
社会物理学と自由意思、人間の尊厳との関係
第11章 社会をより良くデザインする
社会物理学が人間中心型社会の設計を支援する
「市場」はそれほど優れたモデルなのか
人類の自然状態は市場ではなく交換
社会物理学に基づいた社会デザインの規準
データ・フォー・デベロップメント(D4D)
おわりに──プロメテウスの火
解説 野和男(日立製作所フェロー
付録1 リアリティマイング
付録2 オープンPDS
付録3 早い思考、遅い思考、自由意思
付録4 数学