IPO時の公開価格
IPO時の公開価格
公開価格を決めるのは、分析と経験だ。SECに提出する目論見書には、公開価格案が書かれている。ピクサーに対する投資として妥当であると投資銀行が評価した価格である。投資銀行があれこれ子細に調べるのは、この数字を出すためだ。実際に株が取引されるまでは、この価格がピクサーの価値を決める基礎として使われる。
だが、この価格はあくまで案であり、投資家はこのくらい払うだろうと投資銀行が思った数字にすぎない。実際の数字は、SECに書類を提出した何週間もあと、取引初日まで決まらない。その間に投資家巡りをし、購入意欲をヒアリングし、公開価格を提案価格より高くすべきなのか、変えないべきなのか、安くすべきなのかを判断する。ネットスケープ社のIPOを例に取ると、公開価格案は 14 ドル前後だったが、ロードショー後、実際の公開価格は倍の 28 ドルとなった。そして、株式公開後、数時間で株価はその倍に到達した。
我々は、IPOのロードショーとして2週間あまり、サンフランシスコ、ロサンゼルス、ニューヨーク、ボストン、ロンドンなどの投資家に対し、会社を紹介して歩く予定だ。説明を受けた投資家からは、後日、ピクサーに対する興味の度合いが投資銀行に伝えられる。この情報をもとに、公開価格を調整するわけだ。興味関心が強ければ価格を引き上げるし、逆なら引き下げる。大幅な引き下げが必要な場合、IPOを取りやめることも考えられる。
IPOの公開価格案は微妙なバランスで決められる。安くすればピクサーが調達できる資金は減るが、投資家の買い意欲は高まる。逆に高くすると調達資金は増えるが、投資家の買い意欲が高まらず、価格に下押し圧力がかかる。だから、スティーブと私はこの数字についてくり返しくり返し議論した。
ピクサーを投資家に紹介できるようになった。
ピクサーのストーリーを語るスライドショーも用意しなければならない。ピクサーの歴史、志、事業計画、リスクなどを語るためのスライドだ。過去の作品を紹介する映像も必要だろう。なにをどう語るべきか、全体的な流れをスティーブと私で作ったあとは、スティーブがひとりで作業を進めた。映像やデータや数字が必要になると、いついつまでに用意してくれと言ってくる。ひととおり完成すると、私も一緒に見直して改訂していく。
スティーブは、スライドのあらゆる点にこだわった。文字間隔を調整するカーニングや文字をなめらかに描くスムージングなど、私には違いがわからないほどの細部にいたるまで、だ。細部の詰めを確実に行うため、また、プレゼンテーションと動画を完璧な状態で見せるのに必要な機材がロードショーの訪問先に必ずそろっているようにするため、ウェイン・グッドリッチというプレゼンテーションのプロフェッショナルも雇った。