製造物責任法(PL法)
3Dプリンターで自作した商品の危険性
3Dプリンターは製造時にできる積層痕で細菌が繁殖する、金属摩耗でノズル片が混入する等のリスクがあります。また、耐熱性が低く、煮沸消毒ができないため、衛生面に問題があります。
例えば3Dプリンターで自作したクッキー型やケーキ型のような食品器具に該当する商品を購入し、実際に購入品を使用して調理した場合、細菌や金属片が食べ物に混入し、経口摂取することで健康被害が発生するおそれがあります。
食品器具以外にも、自作したランプシェードやライトホルダー等の商品の場合、3Dプリンターの材質はPLA樹脂という植物由来のプラスチック素材で熱に弱いため、使用方法によっては溶けたり発火する可能性があり、事故に繋がるおそれがあります。
3Dプリンターで製造したハンドメイド商品について
無過失責任としての製造物責任
製造物責任法が採用した「無過失責任」という新たな責任類型としての製造物責任は、製造業者等が欠陥による製品の危険を最もコントロールしやすい立場にあること(危険責任)、製造業者等は製品の製造・販売で利益を上げていること(報償責任)、製造業者等は積極的な宣伝活動で自己の製品の品質について消費者に信頼を与えていること(信頼責任)を根拠とするものとされています*5。
製造業者等が欠陥による製品の危険を最もコントロールしやすい立場にあること(危険責任)
製造業者等は製品の製造・販売で利益を上げていること(報償責任)
製造業者等は積極的な宣伝活動で自己の製品の品質について消費者に信頼を与えていること(信頼責任)
消費者が製品事故による損害を被った場合に、その賠償を受けられなければ、その損失は被害者であるその消費者のみが負担することになります。ところが、製造業者などの事業者にその賠償責任を負わせるならば、事業者はあらかじめ損害賠償責任保険(生産物賠償責任保険)をかけることで、製品価格にその保険料を転嫁し、損失を広く社会に分散することができます。現代社会において、消費者は、高度な科学技術を応用した製品の利便性を享受する一方、専門的な知識や情報を有しないためにそれらの製品に内在するさまざまな危険を回避できない場合も少なくありません。そして、このような損失は、被害者である個々の消費者が甘受すべきものではなく、前述のように、製造業者など流通にかかわる事業者による損害賠償責任保険の加入や製品価格への転嫁など、社会全体で分散して負担することが合理的であると思われます。また、これによって事業者には、製品価格の転嫁を回避し、価格の上昇を抑えるというインセンティブが生じることから、損害の抑止効果をも期待することができます。
「欠陥」の判断基準(評価基準)
製造物責任法は、「欠陥」を「当該製造物の特性、その通常予見される使用形態、その製造業者等が当該製造物を引き渡した時期その他の当該製造物に係る事情を考慮して、当該製造物が通常有すべき安全性を欠いていることをいう」(2条2項)と定義しており、製造物が社会的に許容することのできない危険性を有するものと評価された場合に、製造物の欠陥性が認められるということができます。すなわち、「当該製造物が通常有すべき安全性を欠いていること」という製造物の客観的評価をもって欠陥の判断基準(評価基準)として、その判断要素(評価根拠)となる(1)製造物の特性 (2)通常予見される使用形態 (3)製造物を引き渡した時期 (4)その他の製造物に係る事情という4つの考慮事情を規定しました。
製造物の特性
通常予見される使用形態
製造物を引き渡した時期
その他の製造物に係る事情
しかし、この4つの考慮事情は具体性を欠くものであり、どのような事情が欠陥の評価根拠事実あるいは評価障害事実となるのかが不明確であるといわざるを得ません。製造物責任法の立法過程において1993(平成5)年12月に提出された第14次国民生活審議会の答申は、「欠陥の判断の基準ないし要素を、例えばEC指令*6が例示している以外にも重要なもの(具体的には、製品の効用・有用性、製品の価格対効果、技術的実現可能性、被害発生の蓋然性とその程度、「欠陥」の判断基準(評価基準)使用者による損害発生防止の可能性、製品の通常使用期間・耐用期間等)があれば示すなどして、欠陥概念を可能な限り明確化することが望ましい」*7と述べていました。そこで、製造物責任法の立法担当者は、同法の解説で、これら4つの考慮事情について、より具体的な判断要素を例示したのです(参考1)。
そして、欠陥は、「安全性を欠いていること」を要件としており、通常有すべき性状の欠如であっても、人の生命・身体あるいは財産に対する侵害の危険性を伴わないものは、品質上の瑕疵に過ぎず、安全性欠如としての「欠陥」には当たりません。製造物責任法 1 条は、「財産」にかかる被害が生じた場合の製造業者等の損害賠償責任を規定しており、財産に対する侵害の危険性についても「安全性」の欠如に当たるものとしてとらえています。
なお、欠陥については、従来からこれを(1)製造上の欠陥 (2)設計上の欠陥 (3)指示・警告上の欠陥という3つの類型に分類し、その類型に応じた判断基準が示されてきました。しかし、製造物責任法は、このような欠陥類型に基づくことなく、「当該製造物が通常有すべき安全性を欠いていること」という1つの判断基準のみを定めています。これは、包括的な判断基準を定めることで、被害者に柔軟な判断要素の主張を許容し、欠陥の評価を裁判所の裁量に広く委ねたものであるということができます*8。
製造上の欠陥
設計上の欠陥
指示・警告上の欠陥
欠陥の判断要素(評価根拠)
https://gyazo.com/1239d8b53fdb72a269cc8f85c6cfbc3d
立法担当者がその解説で例示した欠陥の具体的な考慮事情(参考1)は、製造物責任にかかるEU 指令 6 条 1 項*9のほか、アメリカのヴァンダービルト大学ロースクールの学部長であったウェード(John W. Wade)特別教授が示した欠陥の 7 要素(参考2)を製造物責任法 2 条 2 項の定める4つの判断要素に合わせて整理したものということができますが、これらについては次のようにまとめることができるでしょう。
(1)「当該製造物の特性」
① 製造物に内在する危険の性質と程度
② 製造物の効用・有用性
③ 製造物の表示
④ 製造物の危険に関する明白さと消費者の認識
⑤ 製造物の耐用期間
⑥ 代替設計の可能性
⑦ 消費者による危険の回避可能性
① 製造物に内在する危険の性質と程度
「製造物に内在する危険の性質と程度」に含まれる事情には、製造物によって引き起こされる被害の性質(爆発、火災、感電、中毒など)、被害の程度(死亡、人身傷害、物的損害など)、被害発生の蓋然性(頻度)などが挙げられます。
② 製造物の効用・有用性
「製品の効用・有用性」は、「製造物に内在する危険の性質と程度」との比較衡量による危険効用分析(risk-utility analysis)の考慮事情とされるものであり、製造物に内在する危険の性質と程度」とともに欠陥判断の最も基本的な要素として位置づけることができます。
③ 製造物の表示
「製造物の表示」は、その表示によって製造物の危険が惹起あるいは拡大されているか、また製造物の危険が除去あるいは軽減されているかという事情で、「製造物に内在する危険の性質と程度」を評価するに当たり考慮されます。
④ 製造物の危険に関する明白さと消費者の認識
「製造物の危険に関する明白さ」とは、製造物の形状や色などの視覚的な属性によって消費者がその危険を認識することができるかという事情であり、「製造物の危険に関する消費者の認識」とは、明白ではない危険について、社会通念上、消費者がその危険を一般に認識しているかという事情を意味しています*10。そして、ここにいう「消費者」とは、その製造物を使用することが合理的に予見される消費者を意味し、一定の資格や免許を有する者によってのみ使用される産業機械などについては、それらの者が通常有すべき知識を基準として判断すべきことになります。
⑤ 製造物の耐用期間
製造物は、少なくとも、その製造物の耐用期間については「通常有すべき安全性」が確保されるべきであることから、欠陥の判断要素として「製造物の耐用期間」が考慮されることになります。しかし、耐用期間の経過をもって、当然に欠陥性が否定されるものではありません。
⑥ 代替設計の可能性
製造物の効用・有用性を著しく損なうことなく、より安全な代替設計が可能な場合には、製造物の危険が効用・有用性を上回り、製造物の欠陥性が認められることになります。「代替設計の可能性」として考慮すべき事情には、「代替設計の技術的可能性」「代替設計の効用・有用性」「代替設計によって生じる新たな危険」「代替設計にかかる費用」「代替設計の市場性」などが含まれます。
しかし、製造物責任法は、「過失」という製造業者等の主観的な事情に代えて、製造物の客観的な性状や属性である「欠陥」をもって責任要件としており、欠陥の判断要素として、損害の発生に対する製造業者等の認識可能性や予見可能性といった主観的事情を考慮することは、製造物責任法の立法趣旨に反するものといわざるを得ません*11。また、4 条 1 号で「当該製造物をその製造業者等が引き渡した時における科学又は技術に関する知見によっては、当該製造物にその欠陥があることを認識することができなかったこと」をもって免責事由とする「開発危険の抗弁」を規定しており、ここにおける「科学又は技術に関する知見」が「入手可能な最高水準における科学技術の知見」と解されていることを踏まえるならば、損害発生の認識可能性・予見可能性を欠陥の判断要素とすることは、開発危険の抗弁が機能する余地が無くなり、立法趣旨にそぐわないことになります*12。
⑦ 消費者による危険の回避可能性
消費者の行為によって製造物の危険が現実化することを回避できるならば、その製造物の効用・有用性との比較衡量において、製造物の欠陥性を否定する余地が認められます。しかし、製造物の効用・有用性を大きく損なうことなく、より安全な代替設計が可能である場合には、その代替設計によって製造物の危険を除去あるいは軽減すべきであり、消費者の行為に期待して製造物の安全性を確保することは許されないといわなければなりません。
(2)「通常予見される使用形態」
「通常予見される使用形態」は、判断要素を考慮するに当たっての前提を示すものであり、判断要素を示すものではありません。
そして、製造物の「通常予見される使用形態」とは、製造業者にとって可能な予見ではなく、社会的に可能な予見を意味しています。
(3)「当該製造物を引き渡した時期」
「当該製造物を引き渡した時期」も、欠陥の判断時期を定めたものに過ぎず、判断要素を示すものではありません。
(4)「その他の当該製造物に係る事情」
「その他の当該製造物に係る事情」として、立法担当者による解説は、「製品のばらつきの状況」「天災等の不可抗力」「危険の明白さ」などを掲げています。しかし、これらの要素は、いずれも「当該製造物の特性」に含まれるものというべきでしょう。
歴史
製造物責任の源流