労働補完性
人間は道具を作ることによって
生まれ持った能力を劇的に増幅できるんだ
"パソコンは脳の自転車"と広告を出したことすらある
これまでの歴史を通し 人類が発明したものの中で
コンピューターが一番か それに近い重要性を持つ
我々が生み出した史上最高の道具だよ
人がやらなくなった行為
計算
電卓
繰り返される計算
コンピュータでのexcel
翻訳
機械翻訳
昔は義足、劣化した手足
今は義足は性能が高くなりすぎている
知能増大技術
「チェスは99パーセントが戦術だ」と言われる。戦術とは短い打ち手の組み合わせで、プレーヤーがチェス盤上でその時々に優位に立つためのものだ。プレーヤーがこうした打ち手のパターンをすべて学んだら、戦術をマスターしたと言える。一方で、それよりも大きなゲームの全体像を計画すること、つまり、小さな戦いを組み合わせてゲームに勝つことは「戦略」と呼ばれる。スーザン・ポルガーはこう記している。「チェスで大きく進歩するには、戦術に長けることだ(注14)」。つまり、パターンを多く知ることが重要で、「戦略は基本的な理解があればよい」という。
コンピューターは、その計算能力のおかげで、戦術面では欠点がない状態だ。グランドマスターは対局中に近い未来を予測するが、それはコンピューターのほうがうまくできる。そこでカスパロフは、「もしコンピューターの戦術の腕前を、人間の全体像を考える力、戦略的思考と組み合わせたらどうなるだろうか」と考えた。
カスパロフは、1998年に初めての「アドバンスト・チェス」のトーナメントを企画した。このトーナメントでは、カスパロフも含めた人間のプレーヤー一人がコンピューター一台と組む。すると、人間が何年間もかけて学んだ戦術は不要になる。パートナーとなったコンピューターが戦術を担当し、人間は戦略に集中する。これはまるで、タイガー・ウッズが最強のゲーマーを相手に、ゴルフのゲームで戦うようなものだ。ウッズの長年の評価も無関係になり、競争は戦術の実行から戦略にシフトする。
チェスでは、このトーナメントで即座に順位が変わった。「人間のクリエイティビティーは、このような状況では、弱まるどころか、さらに強力になる(注15①)」と、カスパロフは言う。彼は3勝3敗という成績だった。対戦相手は、わずか1カ月前に通常の対局で4回戦いカスパロフが圧勝したプレーヤーだった。「僕の戦術面での強みは、コンピューターによって無価値になった(注15②)」。専門的なトレーニングを長年続けて得られた主な成果はアウトソースされて、人間が戦略に集中する戦いでは、彼は無敵ではなくなった。
その数年後、初めての「フリースタイル・チェス(注16)」のトーナメントが開かれた。このトーナメントでは、複数の人間と複数のコンピューターを組み合わせたチーム同士が戦う。アドバンスト・チェスでは、人間のプレーヤーが人生をかけて築いた専門能力が弱められたが、フリースタイル・チェスではそれが消え去った。3台の一般的なコンピューターを使った二人組のアマチュアが、チェスのスーパーコンピューターのヒドラを破っただけでなく、コンピューターを使ったグランドマスターのチームも破ったのだ。カスパロフの分析によると、勝利チームの人間は複数のコンピューターに何を検証すべきかを「コーチする」ことに優れており、その情報を全体的な戦略と統合した。人間とコンピューターを組み合わせたチームは「ケンタウロス」(ギリシャ神話に登場する半人半馬の怪物)として知られるようになり、それ以前には見られなかった高レベルのチェスを展開した。