マルサスの罠
Malthusian trap
マルサスの罠(マルサスのわな、英: Malthusian trap)または人口の落とし穴(英: population trap)は、トマス・ロバート・マルサスに因んで付けられた、飢餓に導くような食料供給の不足に従い、過剰な人口が増加を停止するであろうとの予想が適切かどうかという内容の問題である。
社会の資源の供給を技術の利益によって増大させるとき、また食糧のような生活水準を改善させる資源の豊かさは、人口増加を可能にする。それは結局は資源の資本当たりの供給を元の水準に戻す。
https://ja.wikipedia.org/wiki/マルサスの罠
#システム
from S.『テクノロジーの世界経済史 ビル・ゲイツのパラドックス』
マルサスの罠
よりよい技術が人口の増加しかもたらさなかったという見方はなかなか魅力的だ。というのも、そう考えれば人類の歴史の大半にわたって成長が滞っていた理由も説明がつくからである。他の新たな生産性向上技術の発明も、農業の導入同様、追加的な人口増のみに寄与したと考えるわけだ。この見方の理論的根拠は、トマス・ロバート・マルサスが一七九八年に考案したマルサス・モデルである。このモデルが記述するのは、人間の経済活動を統べる法則が動物社会のそれとまったく同じであるような有機的な社会だ。すなわち人口規模は入手可能な消費資源に依存する。マルサス・モデルによれば、長期的には人々の所得すなわち入手可能な消費資源は、出生率と死亡率のみによって決まる。出生率のほうが死亡率より高ければ、人間の数が増えるため、一人当たりの資源の分け前は減る。逆に疫病や旱魃などで死亡率のほうが出生率より高くなれば、生き残った人はより多くの分け前にありつく。産業革命前にも累積すれば大幅に技術が進歩したにもかかわらず、その導入がなかなか進まなかったため、恒久的な所得増は実現しなかった。人口の調整には時間がかかるため、技術の進歩が短期的には所得を押し上げた可能性はある。だが長期的には、所得増により死亡率が押し下げられ、出生率が死亡率を上回るようになると、人口は増え始める。そして最終的には、技術の進歩によって達成されたのは人口規模の拡大だけとなり、経済成長は止まって所得は最低生活水準に回帰する(20)。
多くの歴史家の見るところ、マルサスはタイミングが悪すぎた。彼のモデルは、まさにそれが成り立たなくなるときに発表されたからだ。産業革命が始まるとついにイギリスは賃金の鉄則、すなわち実質賃金は生活維持に必要な最低賃金に向かうという鉄則を打ち破り、マルサスの罠から脱する(21)。一部の経済学者や歴史学者は、産業革命以前の世界は人口調整の負の影響で一人当たり所得が伸びないという悪循環に陥っていた、といまも考えている(22)。この見方には一抹の真実が含まれているにしても、マルサス・モデルが産業革命前のすべての社会に当てはまると考えるのは行き過ぎだろう。第一に、産業革命前の社会における出生率と死亡率の変動を決定づけた主要因が賃金ではなかったことが実証研究で確かめられている(23)。第二に、一部の地域では産業革命前にすでに持続的な所得増が実現していた(24)。中世後期より前の賃金データはごくわずかしかないが、ローマ皇帝ディオクレティアヌスが紀元三〇一年に価格統制令を布告しており、そこにローマ人の賃金が含まれている。経済史家のロバート・アレンはこの統制令に基づき、ローマの未熟練労働者は生活必需品を買うのにぎりぎりの賃金しか得ておらず、その実質賃金水準は一八世紀の南欧・中欧・アジアの未熟練労働者とほぼ同じだったと推定している(25)。それでも一五〇〇年にはすでに、イギリスとオランダの賃金水準は西ヨーロッパの他の国々からも世界からも乖離し始めた。そして一七七五年までにはロンドンとアムステルダムの労働者の賃金は、他国を大幅に上回っている(図3参照)。
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