Augmentation
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拡張、共進化
UI論考では「直感性」という言葉が多く使われます。現実世界の物理法則や既にある道具からの類推で自然と使いこなせるUIは、さぞかし直感的でユーザー・フレンドリーなものだと。しかしそうした直感性という正義の裏に、人間の操作系に対する高い順応能力が見過ごされていると感じることもあります。
そもそも、その機能を目に見えて明らかな因果関係として理解できる道具はほとんどありません。「包丁を振り下ろすとキャベツが2つ切れる」はメカニズムとして自明でも、壁の照明スイッチの「出っ張っているところを押し込むと頭上が明るくなる」という不思議な因果関係を直感的に感じられるのは単に経験によるものです。「ギターの弦を弾くとジャーンと音がなる」のは物理現象として感覚的に理解できますが、「手元の並んだ白鍵を押し込むと、対応した高さの音が筐体の奥の方から鳴る」という操作性は、ピアノを生まれて始めて見る人には魔法のように映ります。しかし、どれだけ入力と出力の対応関係が奇妙に感じられても、その道具を使い込むうちに、感覚的なものとして受け入れる順応性が人間には備わっています(要出典)。Ctrl + Xで文を切り取る操作さえ、baku89.iconの頭のなかでは「何かを切り取る身体感覚」と不可分に結びついています。このように、学習によって無意識にこなせるようになることもまた、長い目でみた直感性といえるのではないでしょうか。 UIデザインにおける「直感性」が人の順応能力を信頼せず語られるのは、多くの場合ユーザーがそのアプリに四六時中触れるわけでも、熟達にかけるゆとりがあるわけでも無いからです。ATMで出金操作をするためにチュートリアルなんかこなしてられないですよね。しかし、デザインツールはアーティストにとって付き合いの長い道具になりますから、こうした目先の直感性の欠如は比較的些末なことです。物理法則や既にある道具からのアナロジーは、新しいツールに慣れやすくする補助輪として機能し、学習曲線を急にしてくれます。しかしそれゆえに、そのアナロジーで扱える範囲に機能を制限してしまうのであれば、たとえ学習曲線は緩やかでも、慣れによって際限なく上り坂になり続けていくような操作系を選ぶべきです。3Dマウスはどの既存の道具とも似つかず、使いづらく感じられます。しかし熟達したCADオペレーターは、まるでモデルを手にとって舐め回すように自然に使いこなすことができます。デザインツール開発については常に、それが直感的かどうかを心配するよりも慣れの力を信頼するべきです。
(補足:最も避けたい、そして少なくないデザインツールが陥っている罠は、直感性の名のもとにツールを不用意にシンプルにした結果アーティストの選択肢を奪ったり、それ以前に主流だった道具のメタファーとして機能を設計してしまうことで、その使われかたの可能性を狭めてしまうことかもしれません。)
関連項目