パースペクティヴィズム
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石倉敏明.icon 人類学におけるパースペクティヴィズムも、それこそ大掛かりな比喩であるわけですよね。人類学者のエドゥアルド・ヴィヴェイロス・デ・カストロがあげている有名な例だと、アメリカ大陸の先住民のコスモロジーでは、人間にとってのマニオク酒がジャガーにとっては血である。人間にとっての蛆虫は、ハゲワシにとっては美味しそうな焼き魚である。こういう他種の視点の交錯関係による世界像を、僕たちはパースペクティヴィズムと呼んでいます。この考え方は、人間以外の種に「他者」の資格を与え、それぞれの身体から捉えられる世界の在り方を理解しようという、人間中心主義に対する根本的な批判を伴っています。ヴィヴェイロス・デ・カストロの研究は人間性の理解にとって深い洞察を含んでいるのですが、彼自身はそれを、アメリカ大陸の先住民研究の文脈に限定しています。しかし、そこで話を止めてしまうのではなくて、我々自身にとってのパースペクティヴィズムを考えていくことも必要ではないでしょうか。(p341) 辻村伸雄.icon 奥野さんによれば、パースペクティヴィズムとは「異種間のパースペクティヴの交換/交感」のことであり、それは生き物たちが、自分が捕まえる獲物の視点、あるいは自分を食べようとする捕食者の視点に立って行動し、生き延びてきたことにその原点があります。そういうことでいうと、ビッグヒストリーはもちろん人間史を超えたスケールから歴史を見ていこうとする、脱人間中心主義の志向をもっている。だからそこには人間以外の視点というものが存在する。『オリジン・ストーリー』には、世界を認識し、周囲の情報を集め、分析することはあらゆる生物にとって必要なことであり、現代の科学も、元をたどれば単細胞生物に始まるそうした営為に起源する、と書かれています。(p342-343)