欠如がなくなるから不安になる
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精神分析家のジャック・ラカンの不安論です。それをジジェクが「斜めから見る スラヴォイ・ジジェク」のなかで簡潔にまとめているのですが、それによれば、何かが失われるから人は不安になるのではなくて、何かに近づきすぎて「欠如がなくなる」から不安になる、というのです。ラカンの精神分析理論によれば、人間にとって欠如とは悪いものではなく、むしろ欠如が維持されている状態が必要なのです。欠如があれば、人は不安にはならない。人は対象に近づきすぎて不安になる。(…)欠如があるということは、いま自分の置かれている状況の、さらにその先があることを意味しています。いま自分が置かれている状況であっぷあっぷなのではなくて、まだその先に余地がある。その余地に向けて、新たなことを継ぎ足したくなる。ラカン的には、それが「欲望」なのです。まだ満たされてない欠如があり、そこを埋めようとする。逆に、欠如がなくなるというのは、欲望できなくなることと同義であり、それが不安なのです。(p143-144)