B:甲殻の騎兵リュキダス
雲海のどこかを彷徨う、古代アラグ文明の人工浮遊大陸。そこには禁断の知識によって生み出された被造物が、今も彷徨っておるそうな……。さまざまな生物を掛け合わせて造られた、キメラ生物とかいう化け物も、そのひとつじゃ。
じゃが、その材料に獣人が含まれていたとしたら……。
南方大陸から誘拐してきた、蜥蜴に似た獣人を、甲鱗綱の魔物と掛け合わせたという記録が見つかったそうじゃ。名は「リュキダス」……まさに狂気の産物よな。
~クラン・セントリオの手配書より
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ショートショートエオルゼア冒険譚
アバラシア雲海の西側に浮かぶ人工の浮島、アジス・ラー。
古代アラグ帝国の魔科学研究施設が数多く残り、アラグ帝国が南方大陸遠征で捕獲した闘神が封印され、七大天竜の一翼、闇竜ティアマットが拘束されている。また南方大陸で捕獲し持ち帰った竜族をはじめとした様々な生物が生息している。
またそこでは禁断の知識による神の領域に踏み入る様な研究も数々成されていたという。その一つが生物を掛け合わせて新たな生物を創り出すキメラ技術だ。しかも古代アラグ文明を研究している聖コイナク財団によれば新たに発見された文献によれば、そのキメラ技術の実験においては南方大陸より拉致してきた獣人を魔物と掛け合わせたという記録が見つかったらしい。人種でなければ問題ないという話ではないが、やはり人型の生物を魔物と掛け合わせることには倫理的に抵抗があるのが普通だと感じる。
魔物と掛け合わされたのは南方大陸に暮らす蜥蜴をルーツに持つ種族だという。そう聞くとマムージャ族を連想してしまうが、南方大陸には蜥蜴をルーツに持つ獣人種族は複数あるそうだ。マムージャ族はその中でも最も人の遺伝子とのバランスが保たれていて知性と言語能力が高く、かつ数も多く勢力が強い。そして知性が低くなればなるほど蜥蜴の遺伝子が強くなり、凶暴性が増していき言語能力が低くなり話が通じなくなるためモンスターとして扱われる。因みに、最も知性が低いとされる蜥蜴をルーツももつ獣人種族はと言えばリザードマンという事になる。
古代アラグ帝国の魔科学研究の目的を考えれば使われたのはリザードマンとは考えられない。上官の指揮命令を理解し、状況を考えて統制を取って行動できなければ意味がないことを鑑みれば、リザードマンよりは数段上の知性や言語能力を備え、反乱の危険をパージするためマムージャよりは数段下の強者に絶対服従するような知性レベルの種族を選択したことはあたしにでも理解できる。それを考えればやはり彼らはマッドサイエンティストであるといわざる得ない。
あたしと相方は浮島間を移動できるように準備して魔大陸アジス・ラーへと侵入した。
浮島群を取り巻く風が巻き上げた砂埃が浮島を包んで隠すように常に舞っていて空が黄色っぽく見える。大気の光線反射の影響だろう、太陽は常に夕日や朝焼けのように赤い。あたしと相方は浮島を転々と回り始めた。浮島の一つ一つに機械仕掛けの兵やおそらくは南方大陸から連れてこられたのであろう見たことのない生物が徘徊している。
浮島を回り始めて4時間、4つ目の島に降り立った。そこは他の島にあったような構造物や植物が見当たらない島だった。ゴツゴツした岩肌と乾燥した大地。所々の崖に洞窟が口を開いているが、不思議とその洞窟の中が明るく見えた。
「ねぇ」
隣を歩く相方があたしに肩をぶつけて来ながら言うと、顎で視線の先を指した。あたしは相方の見ている方向を目を細めて見た。そこにオオトカゲのような太い胴体に陸竜のような太い四つ足。それを下半身としてその前足の上にリザードマンの上半身を乗せたような歪な生物が見えた。
「あれで間違いなさそうね」
あたしは言った。
相手もこちらに気付いている様子でじっと蜥蜴のような顔でこちらを見ながら太い四つ足を動かして砂埃を立てながら移動している。その手には先端部が大きいハルバードのような武器を携えて。
お互いの距離はおそらく50mほどだろうか。あたし達が自分を倒しに来たのだと若手居るのだろうか。こちらから目を離そうとしなかった。あたしは奴に向かって歩き出した。奴もあたしの方に体の正面を向けると歩き出した。40m、30mと近くなるにしたがって歩みが早くなりついにはあたしも奴も走り出した。あと10m、奴は上体を起こすと両手でハルバードを振りかぶった。その振りかぶった軌道から袈裟懸けに斬り付けようとしていることが読める。間合いが詰まり奴がハルバードを振り下ろした瞬間、あたしは両手で杖を持ち、その柄で振り下ろされるハルバードを受け止めた。鍔迫り合いになり、奴の顔がよく見える。不老の魔法を施され気が遠くなる長い年月を彷徨ったせいなのか、単に魔法が体を生かしながらも魂は死んでしまっているのか判断が付かないが、奴には既に精神と呼べるようなものがないことはその淀み切って白くなった目を見ればわかる。
あたしは全身を使ってハルバードを押し返し、弾くと地面を横に転がるようにして移動する。立っていたあたしの体の陰から相方が奴に向かって飛び掛かり斬り付けた。奴は一瞬目であたしを追ったことで回避が遅れた。それでもすんでの所で斬撃を躱すと後ろに3mほど飛び下がった。
「これを躱すなんて…ちょっと驚いた」
相方は相手を睨みつけたまま、少し嬉しそうに呟いた。