A:幻の古代花センチブロッサム
花を摘んでほしい、という依頼が舞い込んできとる。といっても、リスキーモブに指定されるほどだから、並みの花じゃないのはわかっておろう?
絶滅したはずの人喰い妖花が、人工浮遊大陸で栽培されておったという情報があるんじゃ。その種が風に乗り、仮にエオルゼアの大地に撒かれたら……。
考えたくもない未来を、思わず思い描いてしまったわい。
危険の芽を摘んでもらいたいということじゃ。
~クラン・セントリオの手配書より
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ショートショートエオルゼア冒険譚
コーヒーの苦手な相方が寝巻にしているシャツを下着の上に羽織っただけの姿でホットミルクを片手に、欠伸しながら部屋に入ってきた。買い込んでいた古い本を机の上に山積みにして、本に埋もれるようにして読み漁っていたあたしに気が付くと目を丸くした。
「夜中に抜け出したと思ったら。ずっと読んでたん?」
「ん、アジス・ラーに酒場はないからね…」
あたしは読みかけの本から目を離さずに答えた。
「その本、役に立つん?」
相方は古本に占拠されたテーブルまでは来ないでサイドボードにもたれかかってホットミルクに口を付けながら半ば呆れたように聞く。
いやいや、この本たちを馬鹿にしてはいけない。花火が打ち上がりエオルゼア中を沸かせる紅蓮際や新生祭の時期に冒険者居住区で有志が開く夏祭りのフリーマーケットには冒険者が各地で集めた様々な品が出品される。その古本の屋台には冒険者しか立ち入らないような危険な場所で手に入れた貴重な文献や魔導書などが出品されていることがある。これらはあたしが毎年通って呆れ顔の相方を尻目に目を皿のようにして、なおかつ厳選して掻き集めた貴重な資料なのだ。普段はあまり立ち入らないあたしの書斎の隅に乱雑に積まれているし、中には落書きだらけでまともに読めない物があることは認めるが、だからと言ってその本の価値が変わるものではない。
「流石に何の情報もなく挑むわけにはいかないから…」
あたしはスケッチブックほどの大きさもある分厚い本の文字を追いながら答えた。
調べているのはアラグ帝国が魔科学で手を加えた植物で過去にアジス・ラーで栽培されていた人喰い花の情報だ。だがアラグ滅亡後の比較的早い段階で絶滅したと考えられていたため情報自体が少なく、また伝聞を記したものが多く「人喰いと言っても実際は吸血なんだ」とか「蔦で巻き取って普段は隠れている口でバキバキ食べる」だとか。掻かれている内容が本によってだいぶ違う。
Bランクの魔物であればまだしも流石にAランクの魔物と対峙するにはある程度相手の性質や手の内も知る必要がある、とはいえ…。
「あ~~、もぅ。書いてることがバラバラじゃない」
あたしは両手で頭を掻き、そのままソファの背もたれに体を預けた。
「絶滅種の話だから検証されないと思って、みんな好き放題適当に書いている」
あたしは背もたれにもたれ天井を見上げながら愚痴った。
「でも現存したんよね」
相方が言った。
あたしは体を起こし相方の方に体を向けて座りなおした。
「まさか現存する個体がいるなんて夢にも思っていなかったんだろうね。だけど一点、どの文献にも共通していて間違いないと思える情報がある」
相方は愛用のマグカップに口を付けたままあたしを見ていた。
「このセンチブロッサムっていう植物は球根じゃなくて種子で繁殖するの。自分が倒した者の死体に沢山の種子を仕込んで、それを啄む鳥や昆虫に運ばせる。もし鳥や虫がいない場合はその死肉を養分としてその場で自生する。つまりクラン・セントリオや依頼主が心配するようにその種子が魔大陸からエオルゼアに運ばれてしまったら一大事ってこと。」
「放っておける状況でない事だけは確かなんだ…」
「そういう事」
あたしは開いていた大きくてぶ厚い本をバタンと閉じた。
「ホント、アラグって碌なことしないね」
相方が溜息を吐く。
「そ。やっぱりアラグのせい」
あたしはそう答えてソファから立ち上がった。