A:傀儡の妖竜キャムパクティ
アラグ帝国は、その末期に南方大陸メラシディアを攻めた。そこで多くのドラゴン族を捕らえ、おぞましい技術で、傀儡のように操ったそうじゃ……。ドラゴン族を意のままに操る……。
嘘か誠かわからぬがそんな技術が本当にあるとすれば喉から手が出るほど欲しがる者もおろうて。この真偽を確かめるため、記録に残る「傀儡と化した妖竜」を仕留めてほしいそうな。
~クラン・セントリオの手配書より
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ショートショートエオルゼア冒険譚
約5000年前、衰退していくアラグ帝国を憂いた魔道士アモンの施した禁術により始皇帝ザンデは蘇生し復活を遂げた。覇権を誇示し征服することにのみ生の喜びを感じているようなザンデはアラグ帝国をみる間に復活させ、南方大陸の大国メラディシアへの侵略を始めた。
その一進一退の戦いの中、南方大陸の少数民族たちが顕現させた闘神々を捕えて封印し、七大天竜である光竜バハムートを封印し、闇竜ティアマットを捕獲拘束した。それと同時に南方大陸に生息する光修や闇竜の眷属たる竜族を操る技術の確立のため、大量に鹵獲しアジス・ラーへと連れ帰った。
そして神の領域を侵すようなおそましい研究の結果、アラグ文明の魔科学の力で竜の眷属を傀儡としたのだという。
傀儡となった竜の眷属達はアラグ帝国の手先雑兵となり下がり、故郷である南方メラディシアとの戦いの最前線で自国を守ろうとする故郷を守ろうとする軍勢戦った。中には身内を戦死させたものも居ただろう。蹂躙される故郷や友人を目にしたものも居ただろう。アーテリスの有史を遡ってもこれほど残酷な戦いはそうはなかったはずだ。
「そんな技術が本当にあるとすれば、喉から手が出るほど欲しがる者もおろうて。」
そう言った老齢のクラン・セントリオの担当者の言葉に心がざわついた。
確かに竜族をチェスの駒のように動かせればそれは強力な戦力となる。だがそれは人間より長寿故に知識も見識も優れていて、生物として強者である故の慈しみや視野の広さを持つ種もいる竜族を単なる兵器として考えているからこその発想だ。その愚かな奢りや野心から竜の目を奪い祖国を1000年にわたる戦乱に巻き込んだトールダンは何を得たのだろう。その発想と何が違うというのか。人はどこまでも傲慢で愚かだ。
「その喉から手が出るくらい欲しがっているのはどこの誰?」
あたしは感情を押し殺した抑揚のない声で聞いた
「さぁな、それを金にしようとする者か、それとも覇権を得ようとする者か…」
老齢の担当者は遠くを見るように目を細めて言った。
「はたまた学術的興味から知識を得んとする者か。いずれにせよ、その昔話が真実かどうかを知りたがっている者がいる。それを確かめるためにアラグの傀儡と化したことが文献に残っているこの竜の骸が欲しいらしい」
あたしは黙っていた。
ここで断るのは簡単だが、断ればお金に目が眩んだほかの冒険者が受注し、いずれ骸を持ち帰るだろう。そうなれば儲けようとしているのか力が欲しいのか、単に興味があるだけなのかは知らないが、その者の手に骸が渡り、真偽は明かされこの人類にも竜族にも不幸しか運ばない技術が確立されるかもしれない。ならばいっそあたしが受注してその竜族の骸を完全に焼いてしまえば悪魔のような技術は闇のうちに葬ることができるのではないか。
「お前さんの考えてることは間違っちゃいないよ」
あたしは驚いて担当官の顔を見た。
「顔色を見ればわかる。受注窓口の担当としたら失格かもしれんがあんな技術はない方がいい」
立場上いうべきではない事を言っているからだろう、老齢の担当者がコソコソ目配せしながら下を向いてボソボソ言った。
「まったく、アラグっちゅうのは碌なことをしない」
あたしは思わず噴き出した。
「なんじゃ、おかしいことを言ったか?」
老齢の担当者はいぶかし気にあたしを見た。
「前にあたしが相方と同じ事話してたのを思い出したの」
そういうと、あたしと老齢の担当者は顔を見合わせて笑った。