作りたい曲がない/曲が思いつかない場合にできること
最終更新:2022/05/08
Q.「自分も曲作れたらたのしそ〜だな〜」からDTM始めたんですけど、作りたさだけが先行してどんな曲が作りたいか等の気持ちは全くありませんでした。今は自分の作りたいものをゆっくりさがしています。
フロクロさんはよく誰かの曲を聴いて衝撃を受けてそれに没頭する現象(失礼だったらすみません)があるように感じましたが、私は好きな音楽を聴いても「好きだな〜」くらいです、感受性が低いのでしょうか…
作りたいけど作りたいものが無い、みたいな気持ちはあったりしましたか?
まず、「作りたいのに、作りたいものがない」という気持ちについてですが、私自身超~~~~~~~~~~わかります。
音楽でその状態に陥ることは実はそんなにないのですが(といいつつあるのですが)、何かというと絵の練習をしているときに同じ現象がすごく起きました。つまり「描きたいけど、描きたいものはない」のです。「描きたいものがないなら描きたいわけでもないのでは」とも思ったのですが、多分そういうわけでもないっぽく、モチベを乗せるためのレールが明確化していない状態なのが原因っぽいです。そして、これはおそらく感受性の問題ではないです(「これは好き!」「これは微妙……」「これきらい!」という基準が自分の中にあれば感受性の問題はクリアしていると私は考えています。「好き」がない状態で創作をするのは多分ムズいですが、何かしら「好き」があれば大丈夫です)。
なので、「作りたいのに、作りたいものがない」というときはいかにモチベを乗せるレールの取っ掛かりを見つけるか、が鍵になる気がします。そのために有効なのが音楽のインプットの方法についてのページでも書いた「好きなもの集め」です。 好きを集めるフェーズを作る
インプットの仕方に迷った場合とりあえず好きなものを集めるというところから始めると効果的です。まず自分が何を「好き」と感じるのか把握するのが創作の第一歩で、そしてその私的な「好き」を大量に集めて作った作品は必ずオリジナルになるし、必ず作り手にとっても好きなものになるはずだからです。自分の好きなものを通して自分の輪郭を明らかにしていく作業です。ブルーピリオドの1巻でも夏休みの課題でやってましたが、美術だけでなく音楽でも効果あると思います。
https://gyazo.com/53ef2137f6faf0ad17c9c1c18c615ef3
記録方法はプレイリストでもメモ帳でもいいですが、まとめて見れるようにしておくのが良い気がします。そしてもし余裕があれば分析して、あるいはアイデアに困ったら上から聴いていく、みたいに使えればベストです。
この方法を使って「作りたい音楽がない!」や「描きたいイラストがない!」という状態に陥ることがむちゃくちゃ減りました。
上には書かなかったですが私はメモ帳に「パクりたい音楽」という身も蓋もないページを作っていて、聴いてて「ずるいずるい私もこういうカッコいい音楽作りたい!!!」となったものを全部そこに記録しています。そして、次作るものに迷った場合はとりあえずそこの曲を一個決め打ってパクるようにすると、作るもの困ることはとりあえずなくなる、というワケです(これは音楽でも映像でもイラストでも同じです)。まあ、当然全部パクったらパクリになってしまうので、ひとつの作品をベースのリファレンスにしつつ他の好きな曲の要素も沢山取り入れてみる、という風にすると必然的にオリジナルなものになります。この方法は創作を進める上で一生使える手段のひとつです。
ちなみにこの際、自分が制作するフィールドからより遠いものからパクったほうがよりオリジナルなものに(あるいはよりオリジナルと見做されやすいものに)なります。ボカロを作る際、別のボカロ曲をリファレンスにしてボカロ曲を作ると似すぎてしまうことが起きるんですが、別の畑からリファレンスを持ってきてボカロ曲を作るとこちらはかえって斬新なものとして受け入れられる可能性があるのです。ビリー・アイリッシュ的なスタイルをボカロに持ち込んで唯一無二のスタイルを確立しているなきそさんとかはその好例です(カッコいい!!!大好き!!!)。 これについては、アメリカのラッパーであるRakimがインタビューで語っている以下の一節がすごく象徴的だと思います。
KRS-ONE:インタビューで初期のラキムのインスピレーションはジャズのホーンから来てるってのを読んだんだけど本当?
ラキム:そうだね。ジョン・コルトレーンから来てるよ。実際にサックスを吹いてフローを考えていたんだ
KRS-ONE:え、ちょっと待て、今サックスを実際に吹いていたって言った!?(会場が盛り上がる)
ラキム:そうなんだよ。母さんが元々ジャズシンガーで兄貴がピアノから木管楽器を全部やっていた。その時から昔の良い音楽というものにインスパイアされるようになったんだ。だから幼稚園から小学校にかけてはリコーダーをやってて、小学校4年生でサックスをやりはじめたんだ。それでジョン・コルトレーンの音楽に恋をしたんだ。彼のリズムが俺の中で生きている
ラキム:サックスを吹いていた時の経験からリズムを大きく1.2.3.4.で取るのではなく、もっと細かく区切り、その間のスペースに色々入れる。言葉でジョン・コルトレーンと同じリズムが作れると気がついたんだ。
Rakimの持つ独創的なフローは当時HIPHOPのシーンに衝撃を与えたのですが、幼い頃からジャズの変則的なリズムに慣れ親しんでいたRakim当人にとってはむしろ当時のHIPHOPのリズムが単調に聴こえていて、そこでコルトレーン的なリズム(いわばジャズ的なルール)をまるっとHIPHOPに持ち込んだだけで(この"だけで"がすごいんですが)シーンを変える革命的なアイデアとしてその音楽が結実したのです。すごくカッコイイですよね。(私はこういう「組み合わせの妙」みたいなのにテンションが上がるタイプで、変な組み合わせをとりあえず試して、あわよくば新しくて気持ちのいいものを作りたい、という欲求が制作のモチベとしても大きいです。なので組み合わせが思いつくとそれがそのまま「作りたいもの」になったりします。)
ちょっと脱線しましたが、要するに、アンテナを張って「好き」「カッコいい」「ブッ刺さる」「ずっと聴きたい」「自分が作ったことにしたい……」と思える作品を探しまくり、記録し、パクり、組み合わせるというのが作りたいものを探す最短経路だと考えています。
とここまで書いたものは制作のモチベを走らすレールの設計でしたが、「作りたいもの」の取っ掛かりを探す方法(あるいはとりあえず曲を作り始める方法)はこの他にもいくつかあるので、手短に紹介します。
自分を形作っているものを書き出す
これから紹介する方法のうちこの手法だけは上で紹介したものよりメタい(より根本的)です。
これは上の「好き探し」に近いんですが(そして微妙に自己啓発っぽくてアレなんですが)、制作に詰まった際にものすごく使える手法として「自分の人生に影響を与えてそうなものをすべて書き出す」というものがあります。衝撃を受けた作品、めちゃくちゃ影響を受けたクリエイター、何ヶ月も熱中したゲーム、映画館に複数足を運んだ映画、読んでからものの見方がガラリと変わった本、あるいは子供の頃すごく好きだった場所やすごく好きだった人やすごくハマった遊びでもいいです。引っ越しとか人間関係で受けたショックとか、そういうのでもいいかもしれません。とにかく人生の分岐に作用してそうなことがらを書き出して、自分の人生の中で何が自分に刺さっていて、何が自分に影響を与えていて、何が自分を形作っているのかを明らかにするのです。そういうのを書き出すと何が自分を突き動かすかが見えてきて、作品の方向性がパッと開けたりします。
「パラッパラッパー超ハマったなー」とか、「デザインあ大好きだったなー」とか、「藤本タツキの漫画に性癖を破壊された……」とか、そういうのです。そういう痕跡は自分を強く動かすパワーを持っている部分でもあるので、そこを見つめ直すと自分が作るべきものが近くにあったりする可能性が高いです。(これは千葉雅也が『勉強の哲学』で紹介していた「欲望年表」に近い実践です。創作って労働と違って外から目的が与えられず必然的に内側に潜って目的を探す必要があるので、目的が見つからない場合にめちゃ有効なのです。)
耳コピして破壊する
ここからはもう少し具体的になります。
音楽のインプットの方法についてで紹介している方法で、好き探しで集めた曲のひとつをとりあえず耳コピして、その上で要素を少しずつ交換したり破壊したりオリジナルの比重を増やすことで作品にしていく方法です。 この方法の利点はとりあえず手を動かせるという部分にあります。最悪オリジナルに結実しなくても100%勉強になることが約束されているので、とりあえず耳コピしてみるというのは最もおすすめの方法のひとつです。
破壊の方法としては「メロディを変える」が一番ベタでしょうか。ギターの弾き語りやってた人とかは好きな曲のコードを鳴らしたままオリジナルの歌詞・メロディを歌って考える、みたいなことしてる人も多そうという印象(私は弾けないので印象でしかない!)ですが、メロディを改変して考え始めるのは普遍的に使える方法のひとつだと思います。(みんなメロディのパクリには敏感ですがコードやリズムのパクリにはあまりツッコまないという事情もありそうです。)
耳コピがめんどくさい人は私がYoutubeの概要欄で配ってるMIDIとかDLしてメロディ変えて遊んでみてください。
とりあえずSpliceを漁る
私が愛用している素材サービスSpliceを起動して、とりあえず適当なドラムのループを素材をDAWに置くところから始める方法です。ドラムが置いてある状態で適当にピアノでコードを鳴らし、適当にベースを入れるだけでもうけっこう曲に聞こえます。マジで。やってみてください。やはり曲作ってる感が出るというのは作業のテンションを保つ上で重要で、その意味でループ素材に一旦頼って曲の盤面を一気に進めるのはけっこう大事です。最初入れたループ素材は気力があればあとで自分で打ち込み直したりしてもいいし、別にそのまま完成でもいいです。 spliceにわざわざ契約しなくても「ドラム ループ素材」とか「サンプルパック フリー」とかでググれば無料でも大量のサンプルが手に入るはずなので、サンプルに触れたことがない場合はためしにDLしてみると良いかもしれないです。
コードから考える
とりあえず好きな曲のコードをそのまま打ち込んで、そのコードを聴きながらメロディを考える方法です。
私はこの方法をとることがけっこう多いですが、うまくいく確率はあまり高くないです。というのも鳴らしたコードのトップノート(一番高い音)に引っ張られて自由なメロディがあまり出てこないのです……(これは私の素養の問題です)。
なのでコードから考える場合は同時に好きな曲で似たコードの曲のメロディをいくつかコピーして「ふむふむこういうパターンがあるのか」と確認する作業を結構します。これをやると手癖や固定観念から抜け出す糸口が見つかってとてもいいです。
例えば、コード進行が4361(丸サ進行)の曲を作ろう!となったらサビの最初のコードはⅣ(key=Cmajの場合構成音は「ファ・ラ・ド」)となるわけですが、ここで同じⅣ始まりの曲のメロディを見比べてみるわけです。すると、1音目だけとってもすごく個性が出ることがわかります。
■Ⅳ(=ファ・ラ・ド)で始まる曲の1音目
・ラ(3rd)……情感強め。少し暗く響く。
うっせぇわ/Ado サビ1音目
夜に駆ける/YOASOBI Aメロ1音目
・ド(5th)……かなり穏やか。落ち着きを感じる。
うちで踊ろう/星野源 サビ1音目
・ミ(7th)……大人っぽい響き。たゆたう感じ。
能動的三分間/東京事変 サビ1音目
脳漿炸裂ガール/れるりり サビ1音目
第六感/Reol サビ1音目
・ソ(9th)……複雑で掴みづらい。
丸の内サディスティック/椎名林檎 サビ1音目
・シ(11th)……垂直水平ともに不安定。泣ける。
嘘つき犬が吠える/ぼっちぼろまる サビ1音目 (フロクロ注:これマジで真似したい!!!!!)
・レ(13th)……上品。sus感。つめたい。
キリトリセン/40mP サビ1音目
reiji no machi/パソコン音楽クラブ サビ1音目
こう書き出すことで、目的に応じてメロディを書き進めやすくなります。「今回は気持ちを前に出したいからラ始まりにしよう」とか、「クールな感じにしたいからミから考え始めよう」とか。ちょっと理論的でガチガチすぎるかもしれないですが、本当にメロディを書き始める取っ掛かりがない場合はこういう地道なけっこう効くのです……。
メロディから考える
メロディをまず考え、それにコードとかをつけていく方法です。割とうまくいきますが、私はメロディセンスがある方ではないのでこの方法が取れることは多くないですが、多くの人にとってはやりやすい方法なのではないかと推測します。書けることが思いついたら追記します。
歌詞から考える
とりあえず言葉から考える方法です。
これはすごくやりやすく、歌詞が決まるとメロディもすごく考えやすく、メロディにコードを付けるのもそんなに難しくないためです。ただ、歌詞に引っ張られメロディが平凡になるというリスクもあります。