ルカ伝正教口語訳
まだうつしきってない
第 一 章
1私たちの間に明らかに知られたこと、2すなわち始めから言(こと
ば)の目撃者と奉仕者だった人たちが私たちに伝えたことについて多
くの人が物語をつくり始めたので、3尊敬すべきフェオヒルよ、私も一
切のことを始めから綿密に調査し、順序をたててあなたのために書こ
うという気になった。4あなたが学んだ教えの堅い基礎を知るためで
ある。
5イウデヤ(猶太)王イロドのとき、アビヤの班の司祭で、名をザハ
リヤという人がいた。彼の妻はアーロンの子係で、彼女の名はエリサ
ペタである。6二人とも神の前に正しい者で、主の一切のいましめと
掟(おきて)を落度なく行なっていた。7彼等には子がなかった。そ
れはエリサべタが不妊の女性だったためであり、二人とももはや高齢
であった。8あるときザハリヤがその班の順序で神の前につとめをす
るにあたり、9いつも司祭たちがしていたように、くじを引いて主の
殿に入り、香を焚くことになった。10香を焚いているとき、多くの民
衆はみな外で祈祷していた。11そのとき主の天使が彼に現われて香壇
の右側に立った。12ザハリヤはそれを見て不安になり、また恐怖が彼
を襲った。13天使は彼にいった“ザハリヤ、恐れるではない、あなた
の祈祷はききいれられたからである、あなたの妻エリサベタはあなた
の子を生み、あなたはそれにイオアンと名をつけるだろう。14あなた
には喜びとたのしみがあり、多くの人はその誕生をよろこぶだろう。
15何故なら彼は主の前に大いなる者となり、ぶどう酒や強い酒を飲む
ことなく、その母の胎内から聖神に満てられるだろう。16またイズラ
イリの多くの子らをその主神に帰らせるだろう。17彼はイリヤの精神
と能力をもって主の前を行くだろう。それは父の心を子らに、さから
う者たちには義人たちの考えかたを帰すためで、準備のできた民を、
主の前に立たせるためである”18ザハリヤは天使にいった“私にはど
うしてそれがわかるでしょうか。私は老年で、私の妻も高齢です”19
天使は彼に答えていった“私は神の前に立つガウリイルで、あなたと
話してあなたにこの福音を告げるため派遣された者である。20そこであ
なたは啞(おし)になり、それが成就するまで、ものが言えなくなる
だろう。時が来て成就するところの私の言葉を信じなかったからであ
る。21その間民衆はザハリヤを待っていて、彼が殿のなかに永い間い
るのを不思議に思っていた。22彼は出てきたが、ものが言えなかっ
た。そこで彼等はザハリヤが殿のなかで異象を見たことを梧った。彼
は手真似で彼等に説明し、ずっと啞(おし)になっていた。23つとめ
の日が終ったとき、彼はわが家へ帰った。
24この日の後、その妻エリサベタは懐妊し、五ヶ月引籠っていたが彼
女はいった、25“主はこの日私にこうなさいました。主は私をかえり
み、人々の間に私の恥を取り除いてくさいました”
26六ヶ月目に、天使ガウリイルは神から派遣されて、ナザレトという
ガリレヤの町に、27ダビードの家の人で名をイオシフという人と婚約
した一人の処女に現われた。処女の名はマリヤである。28天使は彼女
の部屋へ入っていった”恩寵をみちこうむる人、よろこびなさい、主
はあなたと一緒におわします。あなたは女のうちで祝福された方であ
る“29彼女は天使を見て、その言薬に不安をいだき、この挨拶は何事
だろうと考えていた。30すると天使は彼女にいった”マリヤ、恐れる
でない、あなたは神の前にめぐみを得た、31あなたは懐妊して、子を
生み、その名をイイススと名づけるだろう。32彼は偉大な人になっ
て、至上者の子と呼ばれ、主神は彼にその父ダビードの宝座を与える
だろう。33また彼は永久にイアコフの家に君臨し、その国は終りがな
いだろう“34マリヤは天使にいった”私に夫(おっと)がないのに、
どうしてこの事がありましょうか?“ 35天使は彼女に答えていった
“聖神があなたに臨み、至上者の力があなたを蔽う、だから生まれる
聖者も神の子と呼ばれるだろう。36あなたの親戚エリサベタも老年
で、不妊の女性といわれていたが、子を宿してもはや六ヶ月である。
37神にあっては、いかなる言葉も無効にはならない“38そのときマリ
ヤはいった“私は主の婢(しもめ)です。あなたので言葉通り私の身に
なりますように“そして天使は彼女から離れた。
39そのころマリヤは立ち上って、急いで山里に向い、イウダの町へ行
ぎ、40ザハリヤの家へ入って、エリサベタに挨拶した。41エリサベタ
がマリヤの挨拶をきいたとき、胎児はその胎内で踊った。エリサベタ
は聖神に満てられ、42大きな声で歓呼していった“あなたは女性のな
かで祝幅されたお方、あなたの胎の果も祝福された方であります。43
私の主の母が私のところへ来られたのです。どこからこれが私に得ら
れたのでしょう。44あなたの挨拶の声が私の耳に聞えたとき、胎児は
私の胎内でうれしく踊りました。45信仰したあなたは幸福です。主か
ら告げられたことは成就するからです″46マリヤはいった″私の心は
主をあがめ、47私のたましいは。わが救主の神をよろこびます。48主
はその婢のへりくだりをかえりみたまいました。今から後、代々の人
は私を幸福な女性というでしょう。49強い神は私に大きいことをなさ
いました。その名は神聖です。50その恵みは代々神を畏れる人に及び
ます。51神はその腕の力を現わし心の思いの傲慢な人を四散させまし
た。52強い者を王座からおろし、へりくだる者を高くあげ、53飢える
者に幸福をみたし、富んでいる者には何もなしに帰らせました。54そ
の子供のイズライリを受けて下さいましたが、それは恵みのことを思
い出されたからです。55また私たちの先祖、アウラアムやその子孫に
永久に約束されたとおりです。56だがマリヤは約三ヶ月エリサベタと
一緒にいた後、わが家へ帰った。
57エリサベタに産期がきて、彼女は男の子を生んだ。58彼女の隣人や
親戚たちは、主がそのあわれみを彼女に垂れたことをきいて、彼女と
共によろこんだ。59八日日に人々は幼児の割礼のためにきて、その父の
名に因んでザハリヤという名にしたかった。60これに対し彼の母はい
った″いいえ、イオアンという名にします″61彼等はいった″あなた
の親戚のうちに、一人もこの名をつけた者がありません″62そこでザ
ハリヤに対し、どんな名をつけたいかと手真似でたずねた。63彼は小
板の持参をたのみ、それにその名はイオアンと書いたので、みんな不
思議に思った。64すると彼の口はすぐにひらけ、舌がとけ。彼はもの
を言い始めて神を讃美するのであった。65彼の近所に住む人はみな恐
怖に捉われ、このことが全部イウデヤの山里一帯に語りつがれた。66
これを聞いた者はみなその心にこれを収め、この子はどうなるのだろ
うと話し合うのであった。そして主の手は彼と共にあった。
67彼の父ザハリヤは聖神に満てられ、予言していった。68″崇むべき
は主、イズライリの神、彼はその民をかえりみてそのあがないをおこ
ない、69われらのために救いの角(つの)をその子ダビードの家に高
く立て給うた。70古世からあったその聖予言者の口をもって告げられ
たとおりである。71それはわれらをその神から、またわれらを憎むす
べての者の手から救い、72われらの祖先にめぐみを賜い、その神聖な
約東、73われらの父アウラアムに誓った誓いを記憶し、74毅然として
われらを敵の手から救ったのも、75われらの生命のある限り、清く正
しく主に仕えさせるためである。76おさな子のお前も、至上者の子と
呼ばれよう。それはお前が主の面前を行き、その道を整備し、77主の
救いは、彼等の罪の赦しにあること、78それはわれらの神の深い仁慈
によることを知らしめるだろう。その神によって東は上からわれらに
臨んだ。79それは暗黒と死の蔭に坐る人たちを照らし、われらの足を
平和の道に向けるためである″80幼児は漸く成長し、精神はますます
強健で、自分がイズライリに出現する日まで荒野に居った。
第 二 章
1その日ケサリ、アウグストから全国の人口調査をせよとの勅命が出
た。2この人口調査はキリニイがシリヤを治めていたとき始めて行な
われたものである。3そこで全部の者が登録のために出かけ、どの人
も自分の町へ行った。4イオシフもダビードの家と血統なので、5婚
約した妊娠中のその妻とともに登録のため、ガリレヤからイウデヤの
ビフレームというダビードの町へ行った。6彼等がそこにいる時、彼
女に産期がきた。7彼女は初子を生み、むつきに包んで槽(かいばぶ
ね)においた。それは旅館には彼等の居るところが無かったためであ
る。8この地に牧者たちがいて、その羊の夜番をしていた。9突然、
主の天使がひとり彼等の前に立ち、主の光栄が彼等を照らしたので、
彼等は大きな恐怖を抱いた。10天使は彼等にいった″恐れるでない、
私はすべての人に与えられる大きな喜びをあなたがたに伝える。11今
日あなたがたのためにダビードの町で救世主が生まれた、それは主ハ
リストスである。12そこであなたがたに証拠を与える。あなた方はむ
つきに包まれたみどりごが槽(かいばぶね)にねているのを見るだろ
う″13たちまちこの天使とともに多数の天軍が姿を見せ、神を讃美し
ていった。14いと高きところには光栄神に、地には平和、人にはめぐ
み″と。15天使らが彼等をはなれて天に昇ったとき、牧者たちはたが
いにいった″ビフレームヘ行って、そこにあったこと、主が私たちに
伝えたことを見ましょう″16彼等はいそいで来て、マリヤとイオシ
フ、槽(かいばぶね)にねているみどりごを見た。17見たので、彼等
はこの子について告げられたことを語り合うのであった。18聞いた人
はみな牧者たちの話したことを不思議に思った。19ただマリヤはこれ
らの言葉をみなその心におさめて大切にしていた。20牧者たちは、告
げられた通りに見たり聞いたりしたことのために神を讃美し、ほめ頌
えて帰っていった。
21八日たって、みどりごに割礼をする時がきたので、その名をイイス
スと名づけたが、これは彼が母の胎内に宿るまえに天使のつけた名で
ある。22モイセイの律法で、きよめの日が満ちたとき、みどりごは主
に捧げられるためイエルサリムヘ連れていかれた。23それははじめて
胎を出る初子の男子は主に捧げられるという主の律法にしるされた通
りである。24また主の律法にいわれたように二羽の山鳩または二羽の
ひな鳩をいけにえに持参するためである。25そのときイエルサリムに
シメオンという名の人がいた。彼は正しい敬虔(けいけん)な人で、
イズライリの慰さめを待ち望み、聖神が彼にのぞんでいた。26彼には
聖神によって、主のハリストスを見るまでは死を見ることがないと予言
されていた。27彼は霊感で聖殿へきた。律法の儀式を行なうため、両
親がみどりごイイススを連れてきたとき28彼はみどりごを手に抱き、
神を讚美していった。29″主よ、いまあなたの言葉に従って、あなた
の僕(しもぺ)を安らかに逝世させて下さい、30私の目はあなたの救
いを見ました。31それはあなたが万民の前に準備したもので、32異邦
人を照らす光りであり、あなたの民イズライリの光栄です″33イオシ
フとみどりごの母は彼についていわれたことを不思議に思った。34シ
メオンは彼等を祝福し、その母マリヤにいった″ごらんなさい、この
子はイズライリの多くの者が倒れたり、おきたりするために置かれ、
また論争の対象になります、35多くの者の心の思いが現われるためで
あり、あなた自身にも剣がたましいを突きさすでしょう″36そこには
また予言女アンナがいた。彼女はアシル支派ファヌイルの娘で、処女
のときから夫と七年くらしただけで高齢に達していた。37約八十四才
になるやもめで、殿を離れることなく、断食と祈祷とで日夜神に奉仕
していた。38彼女もこのとき近づいてきて主を讃美し。イエルサリム
であがないを待ち望む人たちにみどりごのことを物語った。39彼等は
主の律法によって一切を済ませたので、ガリレヤのふるさとナザレト
ヘ帰った。40みどりごは次第に成長し、精神がますます強健で、智慧
に満ち、神の恩寵が彼にのぞんでいた。
41彼の両親は毎年パスハになるとイエルサリムヘ旅行していた。42彼
が十二才になったとき、慣例で祭のためイエルサリムヘ行ったが43祭
の日が終って帰路についていたが、少年イイススはイエルサリムに残
つていた。イオシフと彼の母はそれに気がつかなかった。44しかし彼
が他の人たちと行っていると思っていた。一日の道程(みちのり)を
行ってから、親戚や知人の間に彼をさがし始めた。45彼が見つからな
いので、イエルサリムヘ帰って彼をさがした。46三日経って両親は、
彼が聖殿の中で教師たちの中に坐って、その話を聞いたり、問うたり
しているのを見つけた。47彼の話をきいていた者はみな彼の智慧と返
事に感心していた。48両親は彼を見て驚いた。彼の母も彼にいった
″子よ、どうして私たちにこんなことをしたのです。ごらん、あなた
の父と私は大変心配して、あなたを探していたのです″49彼は両親に
いった″どうして私をさがしたのですか、それとも私の父に属すると
ころに私ががいなければならぬことが判らなかったのですか?″50し
かし彼等は彼のいった言葉を悟らなかった。51イイススは彼等ととも
に出かけてナザレトヘ来た。また彼等に従順であった。彼の母もこれ
らの言葉を全部自分の心に収めていた。52イイススは智慧と年齢、ま
た神と人々の愛情のうちに成長していた。
第 三 章
1チウェリイ王在位の十五年目、ポンチイ・ピラトが猶太の総督、イ
ロドがガリレヤの領主、その兄弟ヒリップがイトレヤ、トラホニダの
領主、リサニイがアビリニヤの領主であり、2アンナとカイアファが
司祭長のとき、2神のことばが荒野にいるザハリヤの子イオアンにの
ぞんだ。3彼はイオルダン近隣の地を全部まわって、罪の赦しのため
悔改の洗礼を伝道していた。4それは予言者イサイヤの書にしるされ
た通りである。野に呼ぶ者の声がいう「主の道を準備し、その小路を真
直にしなさい、5一切の谷はうづめられ、一切の山と丘は低くせられ
曲っているのは真直に、けわしいのは平らかになるだろう。6こうし
てすべての肉身は神の救いを見るだろう」7イオアンは、彼から洗礼
をうけるために来た民衆にいった″まむしの類よ、君たちに迫ってい
る怒りを避けることを誰が教えたか。8だから悔改にふさわしい果を
結びなさい、私たちの父がアウラアムだと自分の心に思ってはいけな
い。私は君たちにいう、神はこの石からアウラアムの子たちを出すこ
とが出来ると。9もはや斧も木の根におかれている、よい果を結ばな
い木はみな切られて火を投げられるのである″10民衆は彼に問うてい
った″では私たちは何をすればよいのですか?″11彼は答えていった
″二枚のきものを持っている者は、持たないものにあげなさい、食糧
を持っている者も、同じようになさい″12取税人も洗礼をうけるため
に来て彼にいった″先生、私たちは何をしたらいいですか?″13彼は
答えていった″君たちに規定された以上に取りたててはいけません″
14兵士たちもまた彼に問うていった。私たちは何をすればいいのです
か?彼は彼等にいった″人をおどしてはいけない。人を非難してはい
けない、自分の給料で満足しなさい″15だが民衆が期待していて、イ
オアンがハリストスではないかとみな考えていたとき、16イオアンは
一同に答えていった″私は水で君たちに洗礼をさずける、しかし私よ
り強い者が来る、私はその靴のひもをとくにも当らない、その人は聖
神と火とで洗礼をさずけるであろう。17その箕はその手にある、彼は
そのうちばをきよめ、麦をその倉におさめ藁は消えない火で焼いてし
まうだろう″18彼はその他多くのことを福音して衆を教えた。19領主
のイロドは、自分の兄弟の妻イロデアダのため、またイロドの行なっ
た一切の悪事のため彼に責められていたが、20そのほかイオアンを投
獄したことで悪事を重ねた。
21民衆がみな洗礼をうけたとき、イイススも洗礼をうけて祈祷してい
た。すると天がひらけ、22聖神が見える形で鳩のように彼の上にくだ
り、また天から″あなたは私の愛する子、私のめぐみはあなたの上に
ある″という声があった。
23イイススがそのつとめを始めた時は約三十才で、人々にが考えて「いた
ように、イオシフの子であった。24イオシフの父はイリイ、それから
さかのぼると、マトファト、レウイ、メルヒ、イアンナ、イオシフ、
25マツタフイィ、アモス、ナウム、エスリム、ナゲイ、26マアフ、マ
ッタフィイ、セメイ、イオシフ、イウダ、27イオアンナ、リサ、ヅロ
ワウェラ、サラフィイリ、ニリ28メルヒ、アディ、コサム、エルモダ
ム、イル、29イオシイ、エリエゼル、イオリム、マトファト、レウ
イ、30シメオン、イウダ、イオシフ、イオナン、エリアキム、メレ
ア、マイナン、マツタファ、ナファン、ダビード、31イエッセイ、オ
ウイド、ウォオズ、サルモン、ナアッソン、32アメナダフ、アラム、
エスロム、ファレス、イウダ33イアコフ、イサアク、アウラアム、ナ
ホル、34セルフ、ラガフ、ファレク、エベル、サラ、35カイナン、ア
ルファクサド、シム、ノイ、ラメフ、36マフサラ、エノフ、イアレ
ド、マレレイル、カイナン、エノス、シフ、アダム、神となる。
第 四 章
1イイススは聖神にみてられてイオルダンから帰り、聖神にみちびか
れて荒野へ行き、2四十日のあいだ悪魔にこころみられたが、これら
の日には何の食事もしなかった。それが終ると、ついに空腹をおぼえ
た。3悪魔は彼にいった″もしあなたが神の子ならば、この石に命令
してパンにならせなさい″4イイススは彼に答えていわれた″人間は
ただパンだけでなく、神のことばで生きると書いてある″5悪魔は彼
を高い山へ連行し、一瞬間に世界の万国を彼に見せ、悪魔は彼にいっ
た″この万国の支配と栄光とをあなたに差しあげる。これは私にまか
せられており、私は好きな者にこれをあげる。6そこでもしあなたが
私を拝むなら、みなあなたのものになる″7イイススは彼に答えてい
われた″悪魔、私から離れよ、主なる汝の神を拝し、神だけにつかえ
よとの聖句がある″8さらに悪魔は彼をイエルサリムに案内し、聖殿
の頂上に立たせて彼にいった″もしあなたが神の子ならば、ここから
下へ飛びおりなさい。9神はあなたのため、自分の天使に命令してあ
なたを護らせる、10また天使等はその手であなたをささえ、あなたの
足を石につまずかせないようにするとの聖句がある″11。イイススは
彼に答えていわれた″主なる汝の神をこころみてはならぬとの聖句が
ある″12悪魔は主の誘惑を終ったので、しばらく彼から離れた。13イ
イススは聖神の力にみてられて、ガリレヤに帰り、その名声は近隣に
あまねくひろまった。
14彼は各所の会堂で教えを述べ、すべての人から讃美されていた。15
彼は自分が養育されていたナザレトにきたが、例のごとくスボタの日
に会堂へ入り、読もうとして起立した。16彼に予言者イサイヤの書を
渡す人があったので、彼は同書をひらき、次のように書いたところを
見つけた。17″主の神(しん)は私にある。主は私に油をつけて、貧
しい人たちに福音をつたえさせ、また私を派遣して心の痛む人たちを
立ちなおらせ、捕われた人たちには釈放、盲人たちには視力回復を宣
伝し、苦しめられる人たちには自由をかえし、18主のよろこぱしい年
を宣伝させた″19彼は書を閉じ、係の者に渡して着席すると、会堂の
中にいる全部の人の眼が彼に集中されていた。20彼は彼等に教え始め
ていった″あなた方のきいたこの聖句がいま実現したのである″21一
同はそれを承認した。また彼の口から発した恩寵の言葉に感心して。
これはイオシフの子ではないかといった。22イイススは彼等にいわれ
た″あなた方は、医者よ自分をなおせという諺をひき出して、勿論私
にいうであろう、私たちの聞いたこと、カぺルナウムであったことを
この自分の故郷でもやりなさいと″23また彼はいわれた″私は本当に
あなた方にいう、どんな予言者でも、自分のふるさとではいれられな
いのである、24私は本当にあなた方にいう、イリヤの時代に三年六ヶ
月天が閉じて、全土に大ききんがあったとき、イズライリには沢山の
やもめがいたが、25イリヤはその一人にも派遣されず、ただシドンの
サレプタのやもめにだけ派遣された。26また予言者エリセイの時、イ
ズライリには多くの癩患者がいたが、その一人も浄められず、ただシ
リヤのネーマンだけが浄められたのである″27これをきいて、会堂に
いる者はみな非常に怒り、28立ちあがって彼を町のそとに追い出し、
彼等の町のあった山の崖に連行して彼を突き落そうとした。29しかし
彼は彼等の間を通り抜けて、立ち去られた。
30そしてガリレヤの町カぺルナウムヘ来て、各安息日に彼等を教えら
れた。31彼等はその教えに感動した。その言葉に権威があったからで
ある。32会堂の中には汚鬼につかれた人が一人いて。大きな声で叫ん
だ。33″ああ、ナザレトのイイススさま、あなたと私と何の関係があ
りますか、あなたは私たちを亡ぼすために来たのですか、私はあなた
が誰であるかを知っています。あなたは神の聖者です″34イイススは
彼に禁じていった″黙ってこの人から出よ″すると魔鬼は彼を会堂の
中央で倒し、少しも被害を与えないで、彼から出た。35恐怖が一同を
------(襲い、互いに言い合った。″この言葉は何だ)(原文に欠けているので推測)
″彼は権威と能力とで汚鬼等に命令し、彼等は出ていく″37こうして
彼の名声はあまねく近隣の地方につたわった。
38彼は会堂を出て、シモンの家へ入った。シモンの岳母(しうとめ)
は烈しい熱に冒されていたので、人々は彼女のために願い出た。39彼
は彼女の側へきて、熱を禁止すると、熱は退いた。彼女はすぐ起き上
って彼等の世話をするのであった。
40日が沈んだとき、色々の病気をもった者たちがみな彼の許に案内さ
れてきた。彼はいちいち手をその上に按(の)せて、彼等を治した。
41汚鬼等も多くの人から出て、叫んでいった″あなたは神の子ハリス
トスである″しかし主は、彼等がハリストスを知っているというのを
禁止された。
42朝になると、イイススは家を出て、荒野の場所へ行った。また民衆
は彼をさがし、彼の許にきて、彼等から立ち去らないよう引き留める
のであった。43しかし彼は彼等にいわれた″私は他の町にも神の国を
福音せねばならない。私はそのために派遣されたのである″44そして
ガリレヤの各会堂で伝道された。
第 五 章
1民衆が神の言葉をきくため彼の許へ殺倒したとき、彼はゲニサレト
の湖畔に立っていた。
(5章2節がかけていて、以降節番号がひとつずつずれている。
推測: 彼は二つの舟が湖にあるのをみた。漁師は舟をはなれて網をあらっていた。 )
2彼はシモンの所有だった一つの舟に乗り、少
し岸から離れるように求め、坐って舟の中から民衆を教えた。3話が
済んだとき、彼はシモンにいった″深い場所へ移って漁(りよう)の
ため網をおろしなさい″4シモンは彼に答えていった″先生、私たち
は一晩中、苦労して何もとれなかったのです、しかしあなたの言葉ど
おり網をおろしましよう″5すると彼等は大変な数量の魚をとって、
その網さえ裂けるほどだった。6そこで他の舟にいる友だちに合図し
て、彼等を助けにくるようにした。彼等は来て、魚を二つの舟に満載
したため、舟は沈みそうになった。7シモン・ペトルはこれを見ると
イイススの膝下に伏していった″主よ、私から離れてください、私は
罪人だからです″8この魚の大漁(たいりよう)のため、恐怖が彼と
また彼と一緒にいた一同を捉えた。9シモンの友だったゼウェデイの
子イアコフ、イオアンもそうだった。そこでイイススはシモンにいわ
れた″恐れるでない、今から後あなたは人間の漁(りよう)をするよ
うになるだろう″10彼等は二つの舟を岸につけ、すべてを放棄して彼
に従った。
11イイススがある町にいたとき、全身が癩病の人がひとり来て、イイ
ススを見ると、ひれ伏して彼に願っていった″主よ、もしあなたか希
望されるなら、私をきよめることがお出来になります″12主は彼に手
を伸ばし、体にさわっていわれた″私は希望する、浄まりなさい″す
ると癩病はすぐに彼から離れた。13イイススは彼に対し、誰にもいわ
ぬこと、司祭のところへ行って、自分が浄まったことを見せ、モイセ
イの命じた通りその証拠として捧げものをするように命令された。14
しかし彼の名声はますますひろまり、多数の民衆が教えをきくため、
彼から自分の病気がなおされるため彼のもとに参集するのであった。
15しかし彼は荒野の場所へ去って祈祷されていた。
16ある日、彼が教を述べているとき、そこにガリレヤとイウデヤの各
地、イエルサリムから来たファリセイや教法師たちが坐っていたが主
の力は病者の治癒にあらわれていた。17するとある人たちは中風の者
をひとり牀(とこ)に乗せてかつぎ、家の中へ持ち込んでイイススの
前に置こうと努力していた。18しかし人が多くて、彼を運びいれる場
所が見つからないので、屋根の上へのぼり、屋根を開けて。牀のまま
彼を吊りおろし、中に居られるイイススの前に置いた。19イイススは
彼等の信仰を見、その人にいわれた″あなたの罪は、あなたに赦され
る″20学士らとファリセイらはひそかに話していった″この神をけが
す言葉をいうのは誰か、神以外に誰が罪を赦すことが出来よう?″21
イイススは彼等の思いを知って、彼等に答えていわれた″あなた方は
心の中で何を考えるのか?22″あなたの罪があなたに赦される″とい
うのと、″立ち上って行きなさい″というのと、どちらがやさしいの
か?23しかし人の子が地上で罪を赦す権のあることをあなた方が知る
ため″ー彼は中風の者にいわれたー″私はあなたにいう、立ち上っ
て、あなたの牀(とこ)を取り、わが家へ帰りなさい″24彼は彼等の
前で立ち上り、ねていた牀(とこ)を片づけ、神を讃美しつつ、わが
家へ向った。25恐怖が一同を捉え、一同はまた神を讃美した。また彼
等は恐怖に満てられて″今日私たちは不思議なことを見た″と話すの
であった。
26その後、イイススは出て、名をレウイという取税人が税関に坐って
いるのを見て彼にいわれた″私に従いなさい″27すると彼は一切を棄
て、立ち上って彼に従った。28レウイは彼のため自分の家で盛大な宴
会を設けたが、そこには多数の取税人、それと同席した他の人たちも
いた。29学士らとファリセイらは恨んで、彼の門徒たちにいった″ど
うしてあなた方は取税人や罪人どもと一緒に食事するのですか?″30
イイススは彼等に答えていわれた″健康な人は医者を必要としないが
病人には必要である。31私が来たのは、義人を召すためでなく、罪人
を悔改させるためである″32彼等は彼にいった″イオアゾの弟子はよ
く斎をして祈祷するし、ファリセイの弟子もそうであるが、何故あな
たの門徒たちは食事しますか?″33彼は彼等にいわれた″花聟が彼等
と一緒にいるのに、婚宴の客たちに斎させることが出来ようか?34し
かし彼等から花聟の取り上げられる日がくる、そのときには斎するで
あろう″35なお彼は次の譬を彼等にいわれた″新しい衣の布(きれ)
をとって、古い衣につぎをする人は誰もない。でないと新しいのは破
れ、新しい衣から取ったつぎきれは古い衣に合わない。36また新しい
酒を古い皮袋に注ぐ人はいない、でないと新しい酒は皮袋を破り、酒
が漏れ、皮袋は駄目になる。37新しい酒は、新しい皮袋に注ぐべきで
ある。そうすれば両方とも大丈夫である。38また古い酒を飲んで、す
ぐに新しい酒を欲しがる人はない。古いものの方がよいといわれてい
る通りである″
第 六 章
1逾越節(パスハ)の二日後の最初の安息日(スボタ)に、イイスス
が畑を通って行かれたが、彼の門徒たちは穂を摘み、手でもんで、食
べていた。2あるファリセイらは彼等にいった″どうしてあなた方は
安息日にしていけないことをするのですか?″3イイススは彼等に答
えていわれた″ダビードが自分と従者が空腹のときにしたこと、4彼
が神の家にはいって、司祭たちのほか誰も食べていけない供前(そな
え)のパンを取って食べ、またそれを従者に与えたということを、あ
なた方は読まなかったのか?″5そこで彼等にいわれた″人の子は、
はまたスボタ(安息日)の主でもある″
6また別のスボタ(安息日)に彼は会堂へ入って教えたことがある。
そこには右の手の枯(な)えた人が一人いた。7学士等とファリセイ
らは彼に対する非難を見出すため、彼がスボタにこの人を医すかどう
かを注視していた。8しかし彼は彼等の考えを知っているので、手の
枯(な)えた人にいわれた″起って真中へ出なさい″。彼は起ちあが
って出た。9そのときイイススは彼等にいわれた″私はあなた方に問
う、
スボタには何をすべきか、善か悪か、たましいを救うことか、亡
ぼすことか?″彼らは黙っていた。10そこで遂に彼は一同を見廻して
その人にいわれた″あなたの手を伸ばしなさい″彼がその通りにする
と、その手はもう一つの手のように健やかになった。11彼等は激怒し
イイススに対し何をしようかと互いに語り合っていた。
12それらの日に、彼は祈祷のため山へ登り、終夜祈祷していた。13夜
が明けたとき、彼はその門徒たちを召し、その中から十二人を選び、
これを使徒と名づけられた。14それはペトルという名をつけたシモン
その兄弟アンドレイ、イアコフ、イオアン、フィリップ、ワルフォロ
メイ、15マトフェイ、フォマ、アルフェイの子イアコフ、別名をジロ
トというシモン、16イアコフの兄弟イウダ、後に彼を売ったイウダ・
イスカリオトである。
17イイススは彼等と共に山をおりて平地に立った。そこには多数の門
徒、イウデヤの各地、イエルサリム、またチールやシドンの海辺から
きた多数の民衆がいた。18彼等は彼の教をきき、また多くの病気の愈
されるためにきた者である。また汚鬼に苦しむ人たちもあったが、彼
等は愈された。19民衆はみな彼に触れようと、彼を探していた。それ
は彼から力が出て、全部を愈したからである。
20そこで彼はその門徒たちに眼を注いでいわれた″神(しん)の貧し
い者はさいわいである、神の国はあなた方のものであるから。21いま
空腹の者はさいわいである、あなた方は満腹になるであろうから。い
ま泣く者はさいわいである、あなた方は笑うようになるから。22人の
子のため、人々があなた方を憎み、あなた方を仲間はずれにし、あな
た方の名を、恥ずべきものとして悪口し、罵るとき、あなた方はさい
わいである。23その日には喜んで楽しみなさい、天にはあなた方の報
酬が大きいからである。彼等の先祖は予言者たちに対し、そのように
行動していた。24これに反し、富めるあなた方はわざわいである、あ
なた方はすでに慰さめを受けたから。25いま満腹の者はわざわいであ
る、空腹になるだろうから。いま笑うあなた方はわざわいである、泣
いて号泣するだろうから。26人が皆あなた方のことをよく云うときあ
なた方はわざわいである、彼等の先祖も偽予言者等にそのように振舞
っていたから。27しかし私は、きいているあなた方にいう″あなた方
の敵を愛し、あなた方を憎む者によいことをしなさい、28あなた方を
呪う者を祝福し、あなた方をいじめる者のために祈祷しなさい、29あ
なたの頬を打つ者には、もう一つの頬をも向けなさい、またあなたの
外衣を取りあげる者には、下衣をとる邪魔をしてはならない。30あな
たから願う者には、誰にでも与え、あなたのものを取る者からはとり
戻すことを要求してはならない。31人々があなたにしたように、あな
た方もその人たちにしなさい。32もしあなた方が、あなた方を愛する
人を愛するならば。何の感謝があろうか? 罪人等も、彼等を愛する
者を愛しているから。33もしあなた方が、あなた方によいことをする
人たちによいことをするならば何の感謝があろうか? 罪人等も同じ
ことをしているから。34もしあなた方が、返されるあてのある人に金
(かね)を貸すならば、何の感謝があろうか? 罪人等も当然の返金
を貰うために金(かね)を貸しているから。35しかしあなた方は、あ
なた方の敵を愛し、よいことをしなさい、また何をも期待しないで、
金(かね)を貸しなさい。あなた方の報酬は大きく、あなた方は至上
者の子となるであろう。至上者は、恩知らずの者、悪い者に対しても
慈悲ふかいのだから。36だからあなた方も。あなた方の父が慈悲深い
ように慈悲深くなりなさい。37人を非難してはならない、そうすれば
非難されないだろう、人をさばいてはならない。そうすればさばかれ
ないだろう、人を赦しなさい、そうすれば赦されるだろう。38人に与
えなさい、そうすれば与えられるだろう、それは立派な枡(ます)で
押し揺って一杯にしてあなたのふところに入れられるだろう。あなた
方がはかったと同じ枡(ます)ではかられるだろうから。39また彼等
に次の譬をいわれた″盲人が盲人を案内できようか? 二人とも、穴
に落ちるではないか? 40弟子はその教師より上ではない。しかし磨
きがかかったら、みなその教師のようになるだろう。41どうしてあな
たは、あなたの兄弟の眼に塵のあるのを見るが、自分の眼にある丸太
に気がつかないのか? 42あるいはまた自分の眼にある丸太を見ない
でいて″兄弟! あなたの眼の塵を私に出させなさい″と、どうして
いえるだろうか?偽善者よ、まず丸太を自分の眼から出しなさい、そ
のときあなたの兄弟の眼からどのように塵をとり出せるかが判るであ
ろう。43悪い果を結ぶであろうよい木はない、またよい果を結ぶであ
ろう悪い木はない。44すべての木は、その果によって知られる。いば
らから、いちぢくを集めないし、あざみから葡萄を採ることもない。
45よい人はその心のよい庫からよいものを出し、悪い人はその心の庫
から悪いものを出す。心の中に満ちているものを、その心がいうので
ある。46何故あなた方は「主よ、主よ」と私を呼んで、私のいうこと
を実行できないのか?47私のところへ来て、私の言葉をきき、これを
実行する人が誰に似ているかを私はいわう。48その人は、家を建てる
に当り、土を掘ってこれを深くし、基礎を岩のうえにおいた人に似て
いる。だから洪水がきたとき、水流はその家をついたが、これを動か
すことは出来なかった。家の基礎が岩の上にあったからである。49し
かし聞いて実行しない人は、基礎なしに土の上に家を建てた人に似て
いる。水が家にあたったとき、すぐに崩れ、家の破壌も甚大であった。
第 七 章
1イイススはその言葉を全部民衆にきかせ終ったので、カベルナウム
ヘ入られた。2ある百夫長のところで、その可愛がっていた僕(しも
べ)が一人病気で死に瀕していた。3彼はイイススのことを聞いて、
イウデヤの長老等を彼の許に派遣し、彼の僕(しもべ)を医しに来ら
れるように願った。4そこで彼等はイイススの許にきて、懇願してい
った″彼は、あなたが彼にこうしていただく値打があります。5彼は
わが国民を愛し、私たちのためこの会堂を建てたのです″6イイスス
は彼等と共に行った。もう家に程遠からぬところに来たとき、百夫長
はその友人たちを派遣して彼にいった″主よ、ご足労くださらないよ
うに、私はあなたが拙宅にお入りになるだけの資格がございません。
7だから私自身もあなたのところへ来る資格があるとは考えませんで
した。ただ一言いっていただけば、私の僕(しもべ)は治りましよう
8私は人の配下にある者ですが、私にも部下の兵卒があって、私がそ
れに「行け」といえば行き、また他の者に「来い」といえば来ます。
また私の僕(しもべ)に「これをしなさい」といえばします″9イイ
ススはこれを聞いて感心し、彼についてくる民衆にいわれた″私はあ
なた方にいう、私はイズライリの中にも、こんな信仰を見たことがな
い″10派遣された人たちが家に帰ると、病気の僕(しもべ)がもはや
治っているのを見出した。
11その後イイススはナインという町へ行かれた。その多くの門徒と多
数の民衆も彼と一緒に行っていた。12町の門に近ずいたとき、そこで
は死者の出棺があった。死んだのは母のひとり子で、母は未亡人であ
った。町の多くの民衆も、彼女と一緒に町がら出るのであった。13主
は彼女を見て同情し、彼女にいわれた″泣くでない″。14そして近ずい
て棺に触れた。がつぐ人は停止した。彼はいわれた″若者よ、あなた
にいう、起きなさい″15死者は起きあがって坐り、ものをいいはじめ
た。イイススは彼をその母に渡した。16恐怖が一同を捉えた。一同は
神を讃美していった″大予言者が私たちの間に出現しました。神はそ
の民をがえりみたもうたのです″17彼についての名声は、全イウデヤ
と近隣全土にひろまった。
18そこでイオアンの門徒は、そのことを全部イオアンに知らせた。19
イオアンはその門徒のうち二人を呼び。イイススのところへ派遣し、
″来るべきお方はあなたですか、それとも他の人を私たちが待つべき
でしょうが″と尋ねさせた。20彼等はイイススのところへ来ていった
″授洗者イオアンが私たちをあなたたのところへ派遣しましたが、そ
れは″来るべきお方はあなたであるか、または私たちが他の人を待っ
べきか″を訊くためです。21しかしこのとき彼は多くの者を種々の病
気やわずらい、悪鬼から治し、多くの盲人を眼が見えるようにされて
いた。22イイススは彼等に答えていわれた″行ってあなた方が見た
り、聞いたりしたことをイオアンに話しなさい。それは盲人が見える
ようになり、びっこが歩き、癩病人は静まり、つんぼは聞えるように
なり死者は復活し、貧者には福音が伝えられているということ。23ま
た私のことで迷わない人は幸いである″
24イオアンの使者が去った後、イイススはイオアンのことを民衆に話
し治めた″あなた方は何を見ようとして荒野に出てきたのか? 風に
揺られる葦か? 25また何を見ようとして出てきたのか? 柔らかい
服をきた人か? しかし錦をきて、派手な暮らしをする人は王の宮殿
にいる。26ではあなた方は何を見ようとして出てきたのか? 予言者
か? 左様、私はあなた方にいう、彼は予言者以上の者である。27彼
は「われ、わが使いを汝の面前に派遣し、汝に先だって汝の道を準備
させる」と書かれたその人なのである。28私はあなた方にいう″女か
ら生れた者のうち授洗者イオアン以上の予言者は一人もいない。しか
し神の国においては、いと小さい者でも彼以上である″29これをきい
た民衆と取税人たちは、神に光栄を捧げて、イオアンの洗礼をうけ
た。30しかしフアリセイ等と律法師等は、自分についての神の旨を拒
否し、彼からは洗礼をうけなかった。 ゜
31主はまたいわれた。″それでは私はこの世の人々を誰に譬えようか?
彼等は誰に似ているか? 32彼等は、街路に坐って叫びあい「私たち
はあなた方に笛を吹いたが、あなた方は踊らなかった、私たちはあな
た方に悲しみの歌を唄ったが、あなた方は泣かなかった」という子供
等に似ている。33授洗者イオアンがきて、バンを食べず、酒を飲むこ
とがない。するとあなた方は「彼が魔鬼につかれている」という。34
人の子がきて、食べもするし、飲みもする。するとあなた方は「食べ
たり、酒をのむのが好きなこの人は、取税人や罪人の友だ」という。
35しかし英智は、英智の子等によって実証されている。
36フアリセイの中の或る人が、一緒に食事するよう彼に願った。そこ
で彼はフアリセイの家へ行って、着席した。37するとその町の罪人だ
った女がひとり、彼がフアリセイの家で席についているのを知ると、
香油をいれた雪花石膏の容器を持参し、38彼の足の後に立ち、涙を流
して涙で彼の足を濡らし、自分の頭髪で拭い、その足に接吻して香油
を塗っていた。39彼を招いたフアリセイは、これを見て心の中でいっ
た″もしこの人が予言者なら彼、にさわる者が誰で、どんな女か判る
筈だ、彼女は罪人なのだから″40イイススは彼の方をふり向いて、い
われた″シモンよ、私にはあなたにいうことがある″シモンがいうに
は″先生、おっしやって下さい″41イイススはいわれた″ある貸主に
二人の負債者があって、一人は銀五百枚、一人は五十枚借りていた。
42しかし彼等はどうしても払えなかったので、彼はこの二人とも免し
てやった。するとこの二人のうち、どちらが多く彼を愛するようにな
るか? をいいなさい″43シモンは答えていった″余計に免された者
だと思います″主はこれにいわれた″あなたの判断は正しい″44そこ
で女の方を向いて、シモンにいわれた″あなたはこの女を見るか?
私があなたの家に入ったとき、あなたは私の足に水をくれなかった。
だが彼女は涙で私の足を濡らし、自分の頭髪で拭うてくれた。45あな
たは私に接吻しなかったか、彼女が来たときから、私の足への接吻を
やめない。46あなたは私の頭に油を塗らなかったが、彼女は私の足に
香油を塗った。47だから私はあなたにいう、彼女は多く愛したため、
その多くの「罪が赦される。少く愛する者には赦されるのも少いのであ
る″48そこで彼女にいわれた″あなたの罪は赦これます″49彼と一緒
に席についていた人たちは、心の中でいい始めた″罪を赦すというこ
の人は一体誰だろう?″50しかし彼は女にいわれた″あなたの信仰は
あなたを救った、安心して行きなさい″
第 八 章
1その後彼は方々の町や村を巡って伝道し、神の国を福音していた。
彼と一緒にいたのが十二門徒、2またかつて悪鬼と諸病を彼に愈され
た数人の女たち、すなわち七つの魔鬼が出たマグダラのマリヤ、3イ
ロドの家令フーザの妻イオアンナ、およびスザンナ、自分の資産で彼
に奉仕していたその他多くの者である。4多数の民衆が集まり、また
方々の町から住民が彼の許に参巣した時、彼は次の譬を話し始めた。
5″一人の播く人が、その種をまきに出た。彼がまいていた時、ある
種は路傍に落ちたので、人に踏吐れ、また空の鳥たちがそれをついば
んだ。6ある種は石の上に落ちたので、萌え出したが、枯れてしまっ
た。水分がなかったからである。7ある種は、いばらの中に落ちたの
で、いばらが伸びて、それを蔽うてしまった。8ある種は、よい土地
に落ちたので、萌え出てから百倍の果をむすんだのである″ここまで
いって、彼はおごそかにいわれた″耳があって聞ける者は、きくがよ
い!″9門徒たちは彼に尋ねた″この譬はどういう意味ですか?″10
彼はいわれた″あなた方は神の国の奥義を知ることが与えられている
が、他の人たちには譬で話す。それは彼等が見て見ず、聞いて悟らな
いからである。11この譬の意味はこうである。種とは神の言葉であり
12路傍に落ちた種とは、よく聞いてはいるが、後で悪魔が来て、彼等
が信じないよう、また救われないようにその心から言葉を奪っていく
者である。13石の上に落ちた種とは、言葉を聞くときは喜んで受けい
れるが、根がないので、しばらく信仰し、誘惑のときに脱落する者で
ある。14いばらの中に落ちた種とは、言葉を聞くが、立ち去ると浮世
の配慮と財宝と快楽とに圧迫されて果を結ばない者である。15よき地
に落ちた種とは、言葉を聞くと、それを善い清い心にこれを守り、忍
耐して果を結ぶ者である。こういって彼は声をあげていわれた″聞く
耳をもっている者は、聞くがよい16誰も蝋燭に火をつけて、これを器
物で隠したり、寝台の下に置く人はいない、入って来る者が光を見る
ように燭台の上に立てる。17かくれているものでも、現われないよう
なものは何もない、かくされているものでも、知られずに済むもの、
明るみに出ないものはないのである。18それゆえにあなた方がどんな
に聞いているかに気をつけなさい。それは持っている者には与えられ
持たない者からは、持ちたいと思うものをも取りあげられるからであ
る″
19そのとき彼の母と兄弟たちが彼のところへ来たが、民衆が多いため
彼に近ずくことが出来なかった。20そこで″あなたの母上と兄弟たち
が、あなたにお会いしたいと外に立っています”と彼に知らせる人が
あった。21彼はこれに答えていわれた″私の母、私の兄弟というのは
神の言葉を聞いて、それを実行する人たちである″
22ある日、彼は門徒たちと一緒に舟の中に入り、彼等にいわれた″湖
の対岸へ渡ろう″そして船出した。23彼等の航行中、彼は寝入っでい
た。湖上では颶風が吹き荒れ、彼等は水をかぶって危険になった。24
彼等は近寄って彼をよび起していった″先生、先生、私たちは死にそ
うになっています″しかし彼はたち上って、風と荒波とを禁止され、
それが止んで、凪(なぎ)になった。25そのとき彼は彼等にいわれた
″あなた方の信仰は、何処にあるのか?″彼等は恐れおどろいて互い「
にいった″これは一体どなただろう、風も水も命令されてこの人に従
うとは?″26こうしてガレリヤ対岸のガダラの地に着いた。
27彼が岸へあがった時、町の一人が彼を迎えた。それはながい間魔鬼
につかれ、服を着用せず、家ではなく墓地に住んでいた者である。28
彼はイイススを見ると叫び、その前にひれ伏し、大きな声でいった。
″至上の神の子イイススさま、あなたは私に何の関係がありますか、
お願いですから、私を苦しめないで下さい″29それはイイススが汚鬼
に対し、この人から出るよう命令されたからである。何故ならば汚鬼
は永い間彼を苦しめたので、人々は彼を保護するため彼を鎖と梏(か
せ)で縛っていたが、彼は梏(かせ)を断ち切り、魔鬼に追われて荒
野にいた有様だった。30イイススは彼に問われた″あなたの名は何と
いうか?″彼はいった″大隊(レギオン)です″それは多くの魔鬼が
彼に入っていたからである。31そこで彼等は、深海へ行く命令をしな
いようイイススに願っだ。32そこでは山の上に多数の豚が放牧されて
いた。そこで魔鬼どもは豚に入る許可を彼に願った。彼はこれを許さ
れた。33魔鬼どもはこの人から出て豚へ入った。すると豚の群は崖か
ら湖へ突進し、溺死してしまった。34牧者たちは出来事を見ると、駈
け出して町や村々でこの話をした。35人々は出来事を見に出かけた。
イイススのところへ来ると、魔鬼の出ていったこの人が服をつけ、正
気のままイイススの足許に坐っているのを見て、戦慄した。36見てい
た人たちは、魔鬼につかれたこの人が、どうして治ったかを彼等に話
した。37そこでガダラ地方の全民衆は、イイススが彼等から離れるよ
うに願った。それは彼等が非常な恐怖におそわれたからである。彼は
舟に乗って帰路についた。38魔鬼の出ていったその人は、彼と一緒に
いくことを願った。しかしイイススは彼を帰らせていわれた。39わが
家へ帰って、神があなたに何をしたかを話しなさい″彼は出かけて、
町全体にイイススが彼にしたことを宣伝するのであった。
40イイススが帰ってきたとき、民衆は彼を歓迎した。何故ならばみな
彼を待っていたからである。41このとき会堂の長で、名をイアイルと
いう人が来て、イイススの足許にひれ伏し、彼の家においで下さるよ
うに願った。42それは彼に約十二歳の一人娘がいて、死に瀕していた
からである。そこで彼は出かけていたとき、民衆が彼に殺倒した。43
すると十二年間も血友病をわずらって全財産を費消したが、誰にも治
して貰えなかった一人の女があった。44彼女は後から近ずいて、彼の
衣服の裾にさわると、彼女の出血はすぐに止まった。45イイススはい
われた。私にさわったのは誰か?”みなが否定したとき、ペトルと、
イイススと一緒にいた人たちはいった″先生、民衆があなたを囲んで
殺倒しているのに、あなたは″私にさわったのは誰か?″とおっしゃ
るのですか?46しかしイイススはいわれた”誰かが私にさわった、私
は力が私から出たのを感じる″47女は隠しきれないのを見て、ふるえ
ながら近ずき、彼の前にひれ伏し、何の理由で彼にさわったか、また
どうしてすぐに治ったかを全民衆の前で公表した。48彼は彼女にいわ
れた″むすめよ、安心なさい、あなたの信仰はあなたを救った、安心
していきなさい″
49彼がまだこれを話しているとき、会堂長の家から人が来て″あなた
の娘はもう死にました。先生をわずらわすには及びません″と主人に
いう。50しかしイイススはこれをきいて彼にいわれた″恐れるではな
い、ただ信じなさい、娘は救われるだろう″51家へ来たとき、彼はペ
トル、イオアン、イアコフ、それから少女の父母のほか、誰にも入る
ことを許さなかった。52みんな彼女のために泣き、号泣していた。し
かし彼はいわれた″泣くでない、彼女は死んだのでなく、眠っている
のである″53人々は彼女の死んだことを知っているので、彼を笑って
いた。54彼は一同を外へ出し、彼女の手をとって大声でいわれた″む
すめよ、起きなさい″55すると彼女のたましいが帰り、彼女はすぐに
起き上った。彼は彼女に食事を与えるように命令された。56彼女の両
親は驚いた。彼は彼等に対し、出来事を誰にも話さないように命じら
れた。
第 九 章
1イイススは十二門徒を呼び集め、すべての魔鬼を制し、病気を治す
力と権利を彼等に与えられた。2また神の国を伝道し、病人たちを治
すため彼等を派遣された。3また彼等にいわれた。旅行のために杖も
袋もパンも金銭も持っていくな、衣服も二枚持つな。4どの家へ行っ
ても、そこに滞在し、そこからまた旅に出なさい。5もしあなた方を
歓迎しない者があれば、その町を出るとき、彼等に対する証拠のため
あなた方の足の塵をも払い落しなさい。6彼等は出かけて村々を巡り
歩き、随所に伝道し、病人を治すのであった。
7領主イロドは、イイススのしていたことを全部聞いて迷っていた。
それはある人たちが、それはイオアンが死者の中から復活したのだと
いい、8他の人たちは、イリヤが再現したのだといい、また別の人た
ちは、昔の予言者の一人が復活したのだといっていたからである。9
そこでイロドはいった″イオアンは私が首を切った、今私が聞いてい
るこの人は一体誰なのであろう″そして彼に会ってみようと探してい
た。10門徒たちは帰ってきて、彼等のしたことをイイススに話した。
そこでイイススは彼等をひきつれて、ウィフサイダという町に近い無
人の場所へ退ぞかれた。11しかし民衆はそれを知って彼に従ったので
彼は彼等を歓迎し、彼等と神の国のことを話し、また治療を乞う人た
ちを治されていた。
12日が暮れ始めた。十二門徒は彼のところへ来ていった″民衆を解散
して、彼等がまわりの村々へ行って宿をとり、食物を入手させて下さ
い。何故ならば私たちはこの人気のない場所にいるからです。13しか
し彼は彼等にいわれた″あなた方が彼等に食事をやりなさい″彼等は
いった″私たちには五つのパンと二匹の魚以外にありません。この大
ぜいの人のため、私たちが食物を買いに出かけるのでしょうか?″14
彼等は約五千人だったからである。しかし彼はその門徒たちにいわれ
た″彼等を五十人づつの組にして坐らせなさい″15そこでそのように
して全員を坐らせた。16彼は五つのパンと二匹の魚を手に取り、天を
仰いでそれを祝福し、これを裂いて門徒たちに与え、民衆に分けさせ
られた。17全員はこれを食べて満腹になった。また彼等に残った屑は
十二籠あった。
18イイススが人里はなれた場所で祈祷していたある日、門徒たちも彼
と一緒にいたが、彼は彼等に尋ねられた″民衆は私のことを誰と思っ
ているか?″19彼等は答えていった。″授洗イオアンだという者があり
他の者はイリヤだといいます。また他の者は昔の予言者の一人が復活
したのだといっています″20が彼は彼等に尋ねられた″ではあなた方
は私のことを誰と思っているのか?″ペトルは答えた″神のハリスト
スです″
21しかしイイススはこのことを誰にもいわないように命令さ
れた22″人の子は多く苦しみを受け、長老、司祭長、学士等に棄てら
れ、殺され、三日目には復活すべきである”といわれた。23また全民
衆にはいわれた″もし私に従いたい者があれば、自分を棄て、自分の
十字架を負うて私に従いなさい。24自分の生命を救いたい者は、生命
を失い、私のために自分の生命を失う者は、生命を救うであろう。25
人間は全世界を手に入れても、自分自身を殺したり、損じたりしたら
何の利益があろうか。26私と私の言葉を恥じる者があれば、人の子も
自分の光栄と、父と聖天使たちの光栄のうちに来るとき、その人を恥
じるであろう。27私は本当にあなた方に告げるが、ここに立っている
者の中には、神の国を見るまで死を味わない者がる″
28これらの言葉の後、約八日たって、彼はペトル、イオアン、イアコ
フをつれて、祈祷のため山へ登られた。29彼が祈祷していたとき、彼
の顔は変化し、その衣服は白く、まばゆく輝やいた。30見ると、二人
の人が、彼と語り合っていた。それはモイセイとイリヤであった。31
光栄のうちに現われて、彼等はイエルサリムでイイススの逐げるべき
その逝世のことを述べていたのである。32ペトルと、一緒にいた二人
は疲れて眠っていた。しかし目を醒ますとイイススの光栄、彼と共に
立っている二人の人を見た。33そして二人が彼から離れるとき、ペト
ルはイイススにいった″先生、私たちが此処にいるのは素晴らしいこ
とです。そこで私たちは二つの小屋を建てましょう、一つはあなたの
ため、一つはモイセイのため、一つはイリヤのためです″彼は何をい
っているのかわからなかった。34彼がこういっていたとき、雲が出現
して彼等をさえぎった。彼等が雲の中に入ったとき、彼等は恐れた。
35そして雲の中から。これは私の至愛の子である。彼のいうことを聞
きなさい″という声があった。36この声の終ったとき、イイスス一人
が残っておられた。彼等は沈黙して、その当時はこの見たことを誰に
も話さなかった。37あくる日、彼等が山からおりたとき、多くの民衆
が彼を迎えた。
38突然。民衆の中の一人が叫んだ″先生、お願いですから私の子を見
てください、あれは私の一人子です。39悪鬼が彼につくと、急に叫び
出します。また悪鬼が彼をひきつけさせるので、彼は泡をふきます。
悪鬼は彼を苦しめた揚句、漸く離れるのです。40私はあなたの弟子た
ちに悪鬼の追い出しをお願いしましたが、あの人たちは出来ませんで
した。41イイススは答えていわれた″ああ、信仰のない曲った世だ!
いつまで私はあなた方と一緒にいて、あなた方のことを我慢するので
あろう?あなたの子をここへつれてきなさい″42その子がまだ歩いて
きていたとき、悪魔は彼をひき倒して、ひきつけさせた。しかしイイ
ススは悪魔に禁止して子供を治し、その父に彼を渡された。43みなの
者は神の偉大さに驚いていた。皆イイススのされたことに驚いたとき
彼はその門徒たちにいわれた。44″あなた方は、人の子は人々の手に
渡されんというこの言葉を自分の耳にいれなさい″45しかし彼等はこ
の言葉を悟らなかった。言葉は彼等に隠されているので、彼等はそれ
に到達しなかったのである。だが彼等はこの言葉について聞くのを恐
れていた。
46そのとき彼等には、彼等のうち誰がいちばんえらいかという考えが
起った。47イイススは彼等の心の思いを見て、一人の子供を手にとり
これを自分の前に立たせて48彼等にいわれた″私の名のゆえにこの子
を受けいれる者は、私を受けいれる者である。私を受けいれる者は、
私を派遣した者を受け入れる者である。あなた方のうちいちばん小さ
い者こそ偉大な者となるであろう″49このときイオアンはいった″先
生、あなたの名で悪魔を追い出す人を私たちを見ました。そこでその
人に禁止したのです。何故ならば彼は私たちと一緒に行っておりませ
ん″50イイススは彼にいわれました″禁止するでない。あなた方に反
対しない者は、あなた方の味方である″
51彼がこの世から取られる日の近ずいたとき、彼はイエルサリム行き
を熱望した。52彼はその使者を面前に派遣したが、彼等は出かけてサ
マリヤの村に入り、彼のために準備しようとした。53しかしそこでは
彼を受け入れなかった。何故ならば彼はイエルサリムヘ旅行する様子
だったからである。54それを見て、彼の門徒イアコフとイオアンはい
った″先生、何なら私たちは天から火が降ってきて、イリヤがしたよ
うに彼等を焼き亡ぼすようにしますか?″55しかし彼は彼等の方を向
いて、彼等に禁じていわれた″あなた方は、どんな神(しん)に属し
ているかを知らない、56そもそも人の子が来たのは、人々のたましい
を亡ぼすためでなく、これを救うためである″そして他の村へ出かけ
た。
57彼等がなお旅行中のことであったが、ある人が彼にいった″主よ、
あなたが何処へ行かれても、私はあなたについていきます”58主イイ
ススは彼にいわれた″狐には穴がある、空(そら)の鳥には巣がある
が、人の子は頭を枕するところがないのである″59また他の者にいわ
れた″私について来なさい″その人はいった″主よ、先ず私がいって
私の父の葬式をさせて下さい″60しかしイイススは彼にいわれた″死
人に自分の死人の葬式をさせなさい。だがあなたは行って、神の国を
福音しなさい″61また他の人がいった″主よ、私はあなたについて行
きます。しかし先づ私にわが家の者たちに別れを告げさせて下さい”
62しかしイイススは彼にいわれた″自分の手を犂(すき)につけて後
(うしろ)をふりかえる者は、誰も神の国には有望でない″
第 十 章
1その後、主は別に七十人の門徒を選び、彼等を二人づつ、自分が
行こうと思ったすべての町や場所に派遣し、2彼等にいわれた″収穫
は多いが、働き人が少ない、だから収穫の主に対し、働き人をその収
穫のため派遣するように願いなさい、3行きなさい、私があなた方を
派遣するのは小羊を狼たちの中に送るようなものである。4財布も袋
も靴も持つでない、道で誰にも挨拶するでない。5どこかの家へ入っ
たら、先づ″この家に平安あれ!といいなさい。6もし平安の子がそ
こにおれば、あなた方の平安はその人の上に宿るであろう、もしそう
でなかったら、それはあなた方の上に帰ってくるであろう。7あなた
方はその家に逗留して、その人たちにあるものを飲み食いしなさい、
働き人が自分の働きのための報いを得るのは当然である、家から家へ
と渡り歩くでない。8どの町へ入っても、人々があなた方を迎えてく
れるなら、あなた方に出されるものを食べなさい。9そしてその町に
いる病人を治して、その人達に。神の国はあなた方に近ずいた″とい
いなさい。10だがどこかの町へいって、人々があなた方を迎えないな
らば、街路へ出ていいなさい、11″私たちにっいているこの町のちり
も、ふり振っていく、しかしながら神の国があなた方に近ずいたこと
は知っておきなさい″12私はあなた方にいう、その口にはその町より
もソドムの方が耐え易いであろう。13ホラジンよ。お前はわざわいで
ある!ウイフサイダよ、お前はわざわいである!お前たちの中で現わ
された力が、もしチールとシドンで現わされていたら、彼等はずっと
前に麻布をきて灰をかぶり、坐って悔い改めたであろう。14しかしチ
ールもシドンも審判のとき、お前たちよりも耐え易いであろう。15天
にまで挙げられたカペルナウムよ、お前も地獄まで落されるだろう。
16あなた方に聞く者は、私のいうことを聞き。あなた方を拒む者は、
私を拒む、また私を拒む者は。私を派遣した者をも拒むのである″
17七十門徒は喜んで帰ってきて、いった″主よ、あなたの名で、悪鬼
も私たちに従います″18彼は彼等にいわれた。私は悪魔が電光のよう
に天から落ちるのを見た。19見なさい、私はあなた方に、蛇やさそ
り、あらゆる敵の力を打倒する権力を与え、何物もあなた方に害を及
ぼさないだろう。20しかしながら悪鬼があなた方に服従するのを喜ぶ
でない、あなた方の名前が天に記入されたことを喜びなさい″21その
ときイイススは神(しん)に満てられて喜んでいわれた。父、天地の
主よ、私はあなたを讃美します、あなたがこれを、賢者、智者に隠し
て、幼な子に顕わしたまうたからです。ああ、父よ、あなたの意志は
こうだったのです″22また門徒たちの方を振り向いていわれた″万物
は私の父から私に授けられている、誰が子であるかは父の他に誰も知
らない。また父が誰であるかは子、また子が顕わそうと思う者の他に
誰も知らない″23また門徒たちの方を振り向いて、特に彼等にいわれ
た″あなた方が見ているものを見る眼はさいわいである!24私はあな
た方に告げる、多くの予言者と君主は。あなた方が見ているものを見
ようとしたが見なかった、またあなた方が聞いていることを聞こうと
したが聞けなかった″
25すると一人の律法師が起ち上って。彼を試みていった″先生、永遠
の生命を受けつぐに私は何をしたらいいですか?″26彼はこれにいわ
れた″律法には何が書いてあるか、あなたはどう読むのか?″27彼は
答えていった″汝は全心、全霊で、また全力、全智をつくして、主な
る神を愛せよ、また汝の隣人を愛すること自分自身のようにせよ”28
イイススは彼にいわれた″あなたの答えは正しい、そのようにしなさ
い、そうすれば生きるであろう″29しかし彼は自分を弁護しようとし
て、イイススにいった″私の隣人とは誰のことですか?″30これに対
しイイススはいわれた″ある人がイエルサリムからイエリホンに下っ
ていたとき強盗等に襲われた。彼等は彼から衣服をはぎ取り、傷を負
わせ半死半生にしたまま立ち去った。31たまたま一人の司祭がその路
を下っていたが、彼を見ると横を通り過ぎてしまった。32同じくレウ
ィトもその場所を通り、近づいて眺めたが横を通り過ぎてしまった。
33ただ或るサマリヤ人は通り過ぎるとき彼を見て不憫に思い、34近づ
いてその傷にオリーブ油と葡萄油を注いで繃帯をしてやり、彼を自分
のろばに乗せ、旅館へつれていって彼を介抱した。35翌日、出発する
ときには銀二枚を出し、旅館の主人に渡して彼にいった「この人を介
抱して下さい、もし費用がこれより多くなったら、私が帰るときあな
たにお返しします」36この三人のうち、強盗等に襲われた人の隣人は
誰だとあなたは思うか″37彼はいった″彼に親切をした人です″その
ときイイススは彼にいわれた″あなたも行って、そのように行動しな
さい″
38彼等が旅を続けているうち、彼は或る村へ入られた。ここではマル
ファという女性が彼を自分の家へ迎えいれた。39彼女にはマリヤとい
う姉妹があり、イイススの足許に坐ってその言葉に聞き入っていた。
40マルファは接待のことで心配し、近づいてきていった″主よ、私の
姉妹が私だけを残して奉仕させているのを何とも思われませんか?彼
女に私を助けるようおっしゃって下さい″41イイススは彼女に答えて
いわれた″マルファよ、マルフフよ、あなたは多くのことに心を配っ
て苦労している。42しかし必要なのはただ一つである。マリヤはよい
方を選んだ。これは彼女から取りあげてはならない″
第十一章
1イイススはある場所で祈祷することがあった。それが終ったとき、
門徒たちの一人が彼にいった″主よ、イオアンがその門徒たちに教え
たように、私たちにも祈祷することを教えて下さい″2彼は彼等にい
われた″あなた方は祈祷するとき、こういいなさい「天にいます我等
の父よ、あなたの名が聖にせられるように。あなたの国が来るように
あなたの意志が天におけるごとく、地にも行なわれるように。3私た
ちの日用の糧(かて)を毎日私たちに与えて下さい。4私たちの罪を
私たちにお免し下さい。私たちに負債(おいめ)のある者をみな私た
ちも免します。また私たちを誘惑に引き入れないで、私たちを兇悪者
からお救い下さい″と。
5また彼等にいわれた″私たちのうちに誰か友人があるとする、夜中
にその友人のところへ来て「友よ、私にパンを三つ貸して下さい、6
私の友人が旅の途中私のところへ寄ったのだが、私にはこれに提供す
るものがないから」という。7だがその友人は答えて「私に世話をか
けるな、戸はもうしまっている、また私の子供らは私と一緒に寝床に
はいっている、起きてあなたに差し上げられない」というだろう。8
私はあなた方に告げる″もし彼との友情があっても起きることなく、
また与えないとしても、せがまれると起きあがって、願うものを与え
るであろう。9だから私はあなた方にいう、求めなさい、あなた方に
与えられるだろう。探しなさい、会うだろう。門を叩きなさい、あな
た方に開かれるだろう。10それは求める人はみな受け、探す人は会い、
門を叩く人には開かれるからである。11あなた方のうちで、子供がパ
ンを願うのに石を与える父があろうか?魚を願っているのに、魚の代
りに蛇を与える父があろうか?12また玉子を願っているのに。さそり
を与える者があろうか?13だからあなた方が悪い者であっても、子供
にはよいものを与えられるのだから、まして天の父は願う者に聖神を
与えない筈がないのである″
14あるとき彼は魔鬼を追い出したが、それは唖者(おし)だった。魔
鬼が出て、唖者がものを言い始めたので民衆は感嘆した。15しかし彼
等のうちのある者がいっていた″彼は魔鬼の首領ウェルゼウルの力で
魔鬼を追い出すのだ″16またある者らは彼をこころみて、天からくる
休徴を要求した。17しかし彼はその悪意を知り彼等にいわれた″分裂
した国家はみな荒廃し、自分で分裂した家は倒れる。18サタナも若し
自分で分裂したら、その国はどうして立ち行くだろう。ところがあな
た方は、私がウェルゼウルの力で魔鬼を追い出すという。19私が若し
ウェルゼウルの力で魔鬼を追い出すなら、あなた方の子らは誰の力で
それを追い出すのか?だから彼等はあなた方にとって裁判官になるだ
ろう。20私が若し神の指(ゆび)で魔鬼を追い出すなら、勿論、神の
国はあなた方に臨んだのである。21強い者が武器をとって自分の家を
守るとき、その所有は安全である。22しかし彼より強い者が彼を攻撃
し、彼に勝つとき、彼があてにしていたその武器を全部奪い、掠めた
物を分けるであろう。23私と一緒にいない者は私の敵であり、私と一
緒に集めない者は、散らす者である。24汚鬼が人から出るとき、彼は
水のない各地を巡って安住を求めるが、それを見出さないので″私が
かつて出てきた私の家へ帰ろう″という。25帰ると家が掃除され飾ら
れているのを見出す。26そのとき彼は自分より更に悪い他の七つの魔
鬼を引きつれ、ともに入ってそこで暮らす。するとその人にとっては
後者は前者よりもさらに悪い″
27彼がこれを話していたとき、一人の女性が民衆の中から声を揚げて
彼にいった″あなたを宿した胎(はら)とあなたを養った乳はさいわ
いです!″28だが彼はいわれた″神の言葉をきいて、それを守る者は
さいわいである″
29民衆が多数集まり始めたとき、彼は述べ始めていった〃この世は、
ずるくて休徴を探し求めている。そして予言者イオナの休徴のほかに
休徼は世に与えられないだろう。30イオナがニネビヤ人のために休徴
となったように、人の子もこの世のため休徴となるだろう。31南方の
女王は、審判のとき、この世の人々と共に起ち上って、彼等に判決を
下すだろう。彼女は地のはてからソロモンの智慧をきくために来てい
た。しかし此処にいるのはソロモンよりも偉大である。32ニネビヤ人
は審判のとき、この世の人と共に起き上って彼等に判決を下すであろ
う。そもそも彼等はイオナの伝道によって悔改したのである。しかし
此処にいるのはイオナよりも偉大である。33蝋燭に点火して、これを
隠れた場所に置く者はない。入った人に光りが見えるように燭台の上
に置くのである。34体のともしびは眼である。もしあなたの眼が澄ん
でおれば、あなたの体はみな明るい。もし眼がわるければ、あなたの
体も暗い。35だからあなたにあるところの光りが、暗黒ではないかと
注意しなさい。36もしあなたの体がみな明るく、暗い部分がひとつも
ないなら、ともしびが光りであなたを照明したように、みな明るいで
あろう″
37彼がこれを話していたとき。一人のファリセイが食事のため自宅へ
と願ったので、彼はいって同席された。38彼が食事の前に手を洗わな
かったのを見、そのファリセイは驚いた。39しかし主は彼にいわれた
″あなた方ファリセイは、現在杯と皿の表面をきれいにするが、あな
た方の内部はむさぼりとずるさに満ちている。40無智な者たちよ、外
部を造った者は、内部をも造ったのではないか?41あなた方にあるも
めの中からほどこしをした方がよい、そうすればあなた方にあるもの
はみな清いであろう。42しかしファリセイたちよ、あなた方はわざわ
いである。薄荷、ういきよう、あらゆる野菜の十分の一を納めている
が、正義と神の愛とをなおざりにしている。これは行なうベきである
が、それも棄ててはならない。43ファリセイたちよ、あなた方はわざ
わいである。あなた方は会堂では上座、集会では挨拶を好んでいる。
44あなた方律法学者やファリセイ、偽善者はわざわいである。あなた
方は隠れた墓のようなもので、人はその上を歩いても、それが判らな
い。45律法学者の中のある者は、これに対していった″先生、あなた
はこれを話して、私たちを侮蔑するのですか?″46しかし彼はいわれた
″あなた方律法学者はわざわいである。人には負えそうもない荷を人
におわせ、自分は一本の指ふれようとはしない。47あなた方はわざわ
いである。予言者たちの墓を建てるが、その予言者たちはあなた方の
先祖に殺されたのである。48このことによってあなた方はその先祖の
したことを証明し、また彼等と同調している。それは彼等が予言者た
ちを殺し、あなた方はその墓を建てるからである。49だから神の英智
もいわれた″私は予言者や使徒等を彼等に派遣するが、彼等はそのう
ち或る者を殺し、或る者を追放するだろう。50世界の創造以来、流さ
れたすベての予言者の血は、51アベリの血から、祭壇と殿との間で殺
されたザハリヤの血に至るまで、この世から求められるであろう。52
あなた方律法学者はわざわいである。あなた方は智識の鍵を取って、
自分が入らず、入る者にも邪魔をしていた″53彼がこれを話していた
時、律法学者とファリセイたちは彼に迫ってきて、多くの答を強制し
始めた。54また彼を狙って、彼の口から出る何かを捉え、彼の有罪を
認めようと努力するのであった。
第十二章
1やがて数万の民衆が集まって、たがいに押し合っていた時、彼は先
ずその門徒たちに述べ始められた。ファリセイのぱんだねに気をつけ
なさい。これは偽善である2蔽われていて現われないようなものは無
い、また隠れていて知れないようなものはない。3だからあなた方が
暗黒のなかで言ったことは、光りのなかできこえ、家のなかで耳うち
して言ったことは、屋根の上で宜伝されるだろう。4私はわが友であ
るあなた方にいう、肉体を殺すが、その後はそれ以上何も出来ない者
を恐れるでない。5しかし私はあなた方に誰を恐れていいかを話すで
あろう。殺した後、地獄へ落し得る者を恐れなさい。そうだ、私はあ
なた方にいう、その者を恐れなさい。6五羽の雀は二銭で売られるで
はないか。そしてその中の一羽も神の前で忘れられることはないので
ある。7またあなた方の頭の毛も全部数えられている。だかろ恐れる
でない。あなた方はたくさんの雀よりも貴い。8私はまたあなた方に
いう、人々の前で私を認める者があれば、人の子も神の天使たちの前
で彼を認めるであろう。9また人々の前で私を否定する者があれば、
神の天使たちの前で否定されるであろう。10また人の子に敵して言葉
を出す者は、赦されるであろう。しかし、聖神に対して悪口をいう者
は、赦されないだろう11。あなた方が会堂に引き出され、上役や為政
者の前に、立たされるとき、何を答え。何を言おうと気にかけるでな
い。12そのときは聖神があなた方に何をいうかを教えるだろう。
13民衆のうちの一人が彼にいった。先生、私の兄弟に話して、彼が私
と遺産を分けるようにさせて下さい″14彼はその人にいわれた″誰が
私を立てて裁判官や分配者にしたのか?″15同時に彼は彼等にいわれ
た″気をつけて、むさぼりを防ぎなさい。人間の生命は財産の豊富と
一は関係がないのである″16また彼等に次の譬をいわれた″ある金持ち
に田畑のよくみのったのがあった。17彼は自分の心にいいきかせてい
た″私は何をしたらよいのか?私には私の作物をおさめろ所がない″
18そこで彼はいった″こうしよう、私の倉をこわして、もっと大きい
のを建てよう、そこへ私の全作物と全財産を集めよう。19そして私の
たましいにいおう、たましいよ、お前には多年分の財宝がたくさんあ
る、休んで、食べて、飲んで、楽しむがよい″20しかし神は彼にいわ
れた″無智な者よ、今夜お前のたましいをお前から取りあげる、する
とお前の準備したものは一体誰のものになるのか?21自分のために宝
を集めても、神のために富んでいない者は、こうなるのである″
22彼はまたその門徒たちにいわれた″だから私はあなた方にいう、あ
なた方の生命のため何を食べ、肉体のために何を着るかと心労するで
ない。23生命は食物より大切、肉体は衣服より大切である。24鳥(か
らす)を見なさい、彼等は種蒔きも、刈取りもしない、彼等には倉も
納屋もないが、神は彼等を養っておられる、あなた方はどれだけ鳥よ
り貴いことだろう。25またあなた方のうちで、一生懸命になって自分
の身長を一尺でも仲ばせる者があろうか?26そこで、最小のことも出
来ないのに、何でほかのことを苦労して考えるのか27百合(ゆり)が
どうして生長していくかを見なさい、彼等は働らかず、紡ぐこともし
ない、しかし、あなた方にいう、ソロモンもその栄華の頂点でも、。百
合(ゆり)の花のように着飾ってはいなかった。28今日あっても、明
日は炉(いろり)に投げられる野の草でも、神はこのように着せてく
ださるのである。信仰のうすい人よ、ましてあなた方も同じことでは
ないか。29だから、あなた方は何を食べ、何を飲むかを求めるでない
また心配するでない。30何故ならば、これらはみなこの世の人々が求
めているもので、あなた方の父はあなた方が困っているものを知って
おられるからである。31何よりもまず神の国を求めなさい。そうすれ
ばこれらのものはみなあなた方に加えられるであろう。32小さき群よ
恐れるでない!あなた方の父は、あなた方に国を与えることを認めら
れたのである。33あなた方の所有を売って、施与をしなさい。古びる
ことのない袋、尽きることのない宝を天に準備しなさい。そこへは盗
賊が接近せず、そこには、しみが害しないのである。34そもそもあな
た方の宝のある所には、あなた方の心もあるだろう。
35あなた方の腰には帯をしめ、あなた方の灯は燃えているようにしな
さい。36あなた方はその主人の婚宴からの帰りを待つ人のようにしな
さい、主人が来て戸を叩けばすぐ開けられるように。37主人が帰って
きて、その僕(しもべ)たちが眼を醒ましているのを見れば、その僕
(しもべ)たちはさいわいである。ほんとうにあなた方にいう、主人
自身が帯をしめ、彼等を食卓につかせ、側にきて給仕をしてくれるで
あろう。38もし主人が第二交代の時間に帰宅、また第三交代の時間に
帰宅して、彼等がそうしているのを見るとき、その僕(しもべ)たち
はさいわいである。39あなた方の知っている如く、もし家の主人が何
時に盗賊の到来があるかを知ったなら。眼を醒ましていて、自分の家
の攻め込みを許さないだろう。40あなた方も準備していなさい。思い
もよらぬ時に人の子が来られるからである。
41そのときペトルは彼にいった″主よ、この譬を話されるのは、私た
ちにですか、それともみんなの者にですか?42主はいわれた″主人が
召使たちの上に立て、時に応じて定めの食事を配らせる忠実で分別あ
る家令は誰であろう?43主人が帰ってきて、そのようにしている僕
(しもべ)を見れば、その僕(しもべ)はさいわいである。44本当にあ
なた方にいう、主人はその僕(しもべ)を立てて、自分の全財産を管
理させるだろう。45もしその僕(しもべ)がその心に主人の帰りが遅
いと考え、男女の召使を殴打したり、食べたり、飲んだり、酔ったり
し始めるならば、46その主人は、彼の思いがけない日、気のつかぬ時
間に帰ってきて、彼を厳罰に処し、不忠実な者たちと同じ目にあわせ
るだろう。47主人の心を知っていて準備せず、その意志通りにしなか
った僕(しもべ)は多く打たれるであろう。48だが知らないでいて罰
に当ることをした者は、打たれかたがもっと少ない。多く与えられた
者からは多く要求せられ、多く任せられた者からは、さらに多く要求
されるのである。
49私は火を地上に投ずるために来た。この火がすでに燃えあがるのを
いかに私は望んでいることか!50私には受けねばならない洗礼がある
のだ。また私はそれが行なわれるまで、いかに悩んでいることか!51
あなた方は、私が地上に平和をもたらすために来たと思っているの
か?あなた方にいう、そうではない、むしろ分離である。52今後、一
家の中の五人は分離、三人は二人に、また二人は三人に対立するだろ
う。53父は子に、子は父に対立し、母は娘に、娘は母に対立するだろ
う。姑(しうとめ)は嫁に、嫁は姑(しうとめ)に対立するだろう。
54彼はまた民衆にいわれた″あなた方は、雲が西から起るのを見ると
すぐに″雨が降るだろう″といい、その通りになる。55南風が吹けば
″暑くなるだろう″といい、そうなる。56偽善者等よ、あなた方は天
地の模様を見分けることが出来るのに、どうしてこの時代が見分けら
れないのか?57またあなた方は、どうしなければならぬかを、何故自
分で判断できないのか?58あなたは、その訴訟人と一緒に上官へ行く
とき、途中で彼から赦しをうけるよう努力しなさい、それは彼もあな
たを裁判官に渡さないためであり、また裁判官があなたを下役に渡し
下役があなたを入獄させないためである。59私はあなたにいう、あな
たは最後の一銭まで返さぬうちは、そこから出られないだろう″
第十三章
1このとき数人がきて、ガリレヤ人たちのことを彼に話した。ピラト
が彼等の血を彼等の祭物に混人したというのである。2イイススはこ
れに対して彼等にいわれた″あなた方はこのガリレヤ人たちがこんな
に受難したからといって、すべてのガリレヤ人より罪が多いと思って
いるのか93私はあなた方にいう、そうでない、もしあなた方が悔改
しないならば、みなこのように亡ぶであろう。4あるいはまたあのシ
ロアムの塔が倒れて殺された十八人が、イエルサリムの全住民より罪
過が多いと思っているのか?5あなた方にいう、そうではない、しか
しもし悔改しないなら、みなこのように亡ぶであろう″
6また次の警をいわれた″ある人が自分の葡萄園のなかに、給えたい
ちじくの木を持っていた、そこでその果を探しにきたが、見つからな
い。7彼は園丁にいった″ごらん、私はもう三年もこのいちじくの果
を探しにきたが見つからない、これを切ってしまいなさい、何のため
にいちじくが土地をふさいでいるのか″8しかし園丁は彼に答えてい
った″主よ、今年もこれをそのままにしておいて下さい、私はそのま
わりを掘って、肥料をやります、9果を結ばないでしょうか?
もし結ばないなら、次の年にこれを切ってしまいましょう″
10スボタに彼はある会堂で教を述べておられた。11そこには十八年も
病気の鬼をもっていた女があった。彼女は腰がかがんで、のびあがる
ことが出来なかった。12イイススは彼女を見ると、彼女を呼んでいわ
れた″女よ、あなたはその病気から解放されます″18そして彼女の上
に手をのせられた。すると彼女はすぐ伸びあがって、神を讃美し始め
た。14そのとき会堂の長はイイススがスボタに治したのを不満に思っ
て民衆にいった″仕事をする日は六日ある、スボタの日でなく、それ
らの日に来て、治して貰いなさい″15主は彼に答えていわれた″偽善
者よ、あなた方のうちで、スボタに自分の牛やろばを小屋から放し、
水を飲ませにこれを連れていかぬ者があろうか?16もう十八年間もサ
タナに縛られたこのアウラアムの娘を、スボタの日にその束縛から解
放すべきではなかったか?″17彼がこれを話していたとき、彼に反抗
した者たちはみな恥かしくなった。また全民衆は彼の立派な仕事をよ
ろこんでいた。
18また彼はいわれた″神の国は何に似ているか、私はこれを何に譬え
ようか?19それは人間が採取して自分の庭園に植えたからし種に似て
いる。それは成長して大きな木になり、空の鳥たちがその枝に棲ひよ
うになったのである。20またいわれた″私は神の国を何に譬えようか
?21それはぱんだねに似ている。女がそれを取って三斗の紛に入れる
と、全部が発酵したのである″。
22彼は諸市諸村をめぐって教を述べ、道をイエルサリムに向けておら
れた。23ある人が彼にいった″主よ、救われる人は本当に少ないので
すか?″しかし彼は彼等に向っていわれた24″狭い門を通ってはいる
ように努めなさい。私はあなた方にいう、それは多くの人がはいろう
として永めるが、出来ないからである。25家主が立って門を閉じた後
あなた方は外に立って門を叩き″主よ、主よ、私たちのために開けて
下さい″というだろう。しかし彼はあなた方に答えて″あなた方がど
こから来たか私は知らない″というだろう。26そのときあなた方はい
うだろう″私たちはあなたの前で飲食していたし、またあなたは私た
ちの街路で教を述べられました″27しかし彼は″私はあなた方がどこ
から来たか知らない、不正をしている者はみな私から離れなさい″と
いうだろう。28あなた方は、アウラアム、イサアク、イアコフまた全
予言者が神の国にあり、自分が外に追い出されているのを見る時、そ
こには号泣と歯ぎしりがあるだろう。29また人々が東西南北から来て
神の国に着席するだろう。30そして後の者が先きになり、先きの者は
後の者になるだろう″
31その日、あるファリセイたちが来て彼にいった″出て、ここを去り
なさい、イロドがあなたを殺そうとしているからです″32すると彼等
にいわれた″行って、この狐にいいなさい、ごらん、今日と明日私は
魔鬼を追い出し、治癒をするが三日目には終る。33但し私は今日、明
日、その次の日も私は行かねばならない。何故ならば予言者がイエル
サリム以外で亡ぶことはないからである。34予言者たちを殺し、あな
たに派遣された者を石撃するイエルサリムよ、イエルサリムよ、私は
幾度か母鶏がその雛を羽根の下に集めるように、あなたの子たちを集
めたかったが、あなた方は欲しなかった!35ごらん、あなた方の家は
空虚になって残される。私はあなた方にいう、今後あなた方が″主の
名によって来たる者は祝福せらる″という時の来るまで、あなた方は
私の姿を見ないであろう″
第十四章
1あるスボタに、イイススがあるファリセイの上役の家へ行って、食
事をすることがあった。彼等は彼の様子をうかがっていた。2すると
水気を痛むひとりの人が彼の前に立った。3これを機会にイイススは
律法学者やファリセイたちに訊かれた″スボタに人を治すことは許さ
れようか?″4彼等は沈黙していた。そこで彼はその人に手を触れて
冶癒し、帰宅させられた。5同時に彼等にいわれた″もしあなた方のう
ち誰かのところで、ろばとか牛とかが井戸に落ちると、スボタの日で
もすぐにそれを引きあげないだろうか?″6彼等はこれに答えること
が出来なかった。
7招待された客たちが上座を選んでいたのを見て、彼は次の譬を彼等
にいわれた。8あなたは人から婚宴に招かれるとき、上座につくでな
い、それはあなたより身分の高い人が招かれることがあり、9あなた
とその人を招いた人がそばにきて″あの人に席をゆづりなさい″とい
わないためである。そのときあなたは恥かしく未席につかねばならな
いだろう。10しかし招かれるときは、行って未席につくがよい。それ
はあなたを招いた人が来て″友よ、もっと上座にかわりなさい″とい
うためである。そのときあなたは同席者の前で面目を施すだろう。11
およそ自分を高くする者は低くせられ。自分を低くする者は高くせら
れるであろう″12また彼を招待した人にいわれた″あなたは昼食や晩
餐を催すとき、あなたの友人をも、兄弟をも、親戚をも、金持ちの隣
人たちを招待するでない。それは彼等もあなたを招待して、あなたが
その返報をうけるからである。13しかし宴を催すときは、貧乏人、片
輪、びっこ、めくらを招待しなさい。14すると彼等に報いることが出
来ないから、あなたは幸福である。義人たちの復活のとき、あなたは
報いをうけられるからである″
15彼と一諸に着席していた一人が、これをきいて彼にいった″神の国
で食事する人は幸福です″16彼はこの人にいわれた″ある人が大晩餐会を開いて、多くの人を招待した。17晩餐の時がきたので、彼はその
僕(しもベ)を派遣し、招待された人たちに″おいで下さい、もう一
切準備が出来ています″といわせた。18するとみな言い合せたように
辞退し始めた。最初の者は彼にいった″私は田地を買ったので、行っ
てそれを見なければなりません、お願いですから辞退させて下さい″
19次の者はいった″私は牛を五つがい買ったので、それを調べに行き
ます。お願いですから辞退させて下さい″20第三の者はいった″私は
妻を貰いました。だから行かれません″21その僕(しもべ)は帰って
このことを主人に報告した。すると家の主人は激怒してその僕(しも
ベ)にいった″はやく町の街路と小路に出て、貧乏人、片輪、めくら
たちをここへ連れてきなさい″22僕(しもべ)はいった″主よ、あな
たの命令の通りにしましたが、まだ余った席があります″23主人は僕
(しもべ)にいった″道路と生垣の間へ出て、私の家が一杯になるよ
う説得しなさい″24私はあなた方にいう″招待されたあの人たちの一
人も私の晩餐を味わうことがないだろう。およそ招待された人は多い
が、選ばれた人は少ないのである″
25多くの民衆は彼と一緒に行っていた。彼はふり向いて彼等にいわれ
た。26″もし人が私のところへ来ても、自分の父母、妻子、兄弟姉妹
さらに自分の生命をも憎まないならば、私の門徒となることは出来な
い。27自分の十字架を負わないで私に従う者も、私の門徒とはなり得
ない。28あなた方のうちで塔を建てる者があるなら、まず坐って、そ
の資金がその完成に必要なだけあるか否かを計算しない者はない。29
それは基礎を置くだけで完成できない場合、見ている人たちがみな笑
わないため、30この人は建て始めたが終ることが出来なかったといわ
ないためである。31あるいは何処かの王が、他の王との戦争に出撃す
るとき、坐って、先ず二万を率いて来攻する者に一万で対抗し得るか
否かを評定しない者はない。32でなければ彼は、敵がまだ遠くにいる
時、和を請うため使者を派遣するだろう。33このようにあなた方のう
らで、持っているものを全部捨てない人は、私の門徒となることは出
来ない。34塩は、よいものである。しかし塩がもし味を失うならば、
何でそれをなおされようか!35それは土地にも肥科にも役に立つこと
がない。これは外へ棄てるばかりである。耳があって聴ける者は、聴
くがよい。
第十五章
1すべての収税人と罪人たちは、彼の言葉をきくために近づいて来て
いた。2ファリセイと律法学者たちはこれを怨んで″彼は罪人たちを
歓待し、一緒に食事している″といった。3しかし彼は次の譬を彼等
にいわれた。4″あなた方のうちで、百匹の羊を持っていて、その一
匹を失う場合、九十九匹を荒野に残し、失った一匹を見つけるまで、
それを探しに行かない者があろうか?5見つけたなら、喜んで自分の
肩に乗せ、6家へ帰って友人や隣人たらをよび集め″私と一緒に喜ん
で下さい。私は失った羊を見つけたのです″と彼等にいうだろう。7
私はあなた方にいう″このように天では、一人の悔改する罪人のため
の喜びは、悔改を要しない九十九人の義人のための喜びにまさるので
ある。8あるいは何処かの女が銀十枚を持っていて、その一枚を失う
ならば、蝋燭に火をつけ、部屋を掃除し、見つけるまで丹念に探さな
いことはない。9これを見つけたなら、友人や隣人たちをよび集めて
″私と一緒に喜んで下さい。私は失った銀を見つけました″というだ
ろう。10私はあなた方にいう。このように一人の悔い改める罪人のた
めにも、神の使たちの前に喜びがあるのてある″
11またいわれた″ある人に二人の子があった。12その次男が父にいっ
た″父よ、私の貰える財産を私に下さい″すると父は彼に財産を分け
てやつた。13数日すぎて次男は遠国へ旅行し、そこで放蕩三昧の生活
をして財産を浪費してしまつた。14全部を使いはたした時、その地方
に大飢饉が起って、彼は困り始めた。15そこで出かけて、その土地の
住民の一人に身を寄せたが、その人は彼を自分の田に派遣して、豚を
飼わせた。16彼は豚の食う豆がらで自分の腹を満たしたいと思ったが
誰も彼に与える者がなかった。17ついに彼は反省していった″私の父
にはいくらも傭い人があつて、パンもあり余っているのに、私は空腹
のため死にかかつている。18立ちあがつて、私の父のところへ行き、
父にいおう″父よ、私は天とあなたの前に悪いことをしました。18
もはやあなたの子と呼ばれる資格がありません。私をあなたの傭い人
の数の中へいれて下さい″と。20彼は立ちあがって自分の父のところ
へ行った。彼がまだ遠くにいた時、彼の父は彼を見つけて不憫に思い
かけ寄って彼の首を抱き、彼に接吻した。21すると子は彼に対してい
った″は天とあなたの前に悪いことをしました。もはやあなたの子
と呼ばれる資格がありません″22しかし父はその僕(しもべ)たちに
いった″一番いい服をもってきて、彼に着せなさい。指環をその手に
はめ、靴をその足にはかせなさい。23また肥えた小牛をっれてきて、
これをほふりなさい。私たちは食べて楽しみましょう。24この私の子
は死んだのが生きかえり、いなくなつたのが見つかつたからです″そ
こで祝宴が始まった。25丁度長男は田にいたが、帰途について家へ近
ずくと、歌や舞がきこえてきた。26彼は一人の僕(しもべ)を呼んで
″一体これは何事だ?″ときいた。27その僕(しもべ)は彼にいった
″あなたの弟がこられたのです。あなたの父は肥えた小牛をほうりま
した。無事な彼をうけいれられたのです″28長男は立腹して入るのを
欲しなかった。が彼の父は出てきて、彼を呼んだ。29しかし彼は父に
答えていった″私は多年あなたにつかえて、あなたの命令にそむいた
ことは一度もありません。しかしあなたは、私が友人たちと楽しむた
め小さな小羊だって下さったことが一度もありません。30ところが自
身の財産を遊女どもと一緒に浪費したこのあなたの子が帰ってくると
あなたは彼のために肥えた小牛をほふったのです″31父は彼にいった
″子よおまえはいつも私と一緒にいる。私のものはみんなおまえのも
のだ。32ところがこのおまえの弟は、死んで生きかえり、いなくなっ
て見つかったのであるから、私たちのよろこび楽しむのは当然のこと
であった″
第十六章
1イイススはまたその門徒たちにいわれた″ある金持ちに一人の家令
があったが、彼は主人の財産を浪費していると彼に密告する者があっ
た。2そこで主人は彼を呼んでいった″私はあなたについて聞いてい
ることがあるが、あれは何事か?あなたの会計報告を出しなさい、あ
なたはこれ以上家令は出来ないからである″3そのとき家令は自分の
心にいった。私はどうしたらいいか?私の主人は私から家令の職をと
りあげようとしている。私は土を掘る力がなく、物乞いするのは恥づ
かしい。4私か家令の職を解かれる場合、人々が私を家にうけいれて
くれるため何をしたらよいかを私は知っている″5そこで彼はその主
人の負債者を一々よんで、最初の人にいった″あなたは私の主人にど
れだけ借金がありますか?″6彼はいった″油百樽です″そこで彼に
いった″あなたの証書を手にとり、すぐ坐って″五十樽と書きなさ
い″7次に他の一人にいった″あなたはどの位の借金ですか?彼は答
えた″小麦百石です″そこで彼にいった″あなたは証書をとって、八
十石と書きなさい″8主人は不正な家令をほめた。そのやり方が上手
なからである。この世の子らは(その時代に対しては)光りの子らに
くらべると、一層上手である。9私もあなた方につげる″不義の財で
自分の友人をつくりなさい。そうすればあなた方が困るとき、彼等か
あなた方を永遠の住居に迎えてくれよう。10小事に忠実な者は、大事
にも忠実である。小事に不忠実な者は、大事にも不忠実である。11だ
からもしあなた方が不正の富において忠実でなかったら、誰があなた
方に本当の宝を託そう。12もし他人のものについて忠実でなかった
ら、誰があなた方のものをあなた方に与えるであろうか?13どの僕(し
もべ)でも二人の主人に仕えることはできない。それは一方をにく
み、他の一方を愛するから、あるいは一方にしたしんで、他の一方を
軽んじるからである。あなた方は神と富とに兼ねつかえることは出来
ないのである。
14慾の深いファリセイ等もみなこれをきいて、彼を嘲笑した。彼は彼
等にいわれた″あなた方は人々の前で自分を正しいとする。しかし神
はあなた方の心を知っている。そもそも人々の間で尊ばれることは、
神の前では憎むべきことなのである。16律法と予言者らはイオアンま
でである。その時以来神の国が福音せられ、人々はみな努力してこれ
に入っている。17しかし天地の亡びるのは、律法の一部が没落するよ
りも更にやさしいのである。
18すべて自分の妻を出して他の嫁をとる者は、姦淫を行なう者であり
夫に出された女を娶る者も姦淫を行なう者である″
19ある金持があった。彼は紫の衣と薄い布を身につけ、毎日豪華に酒
宴を催していた。20同じくラザリという名の貧乏人があり、全身が腫
物に蔽われ、金持の門のところで横になっていた。21彼は金持の食卓
から落ちるパン屑で膓を満たしたいと望んでいた。犬どももきて、そ
の腫物をなめていた。22この貧乏人は死んだが、天使らにつれられて
アウラアムの懐へ送られた。この金持も死んで葬むられた。23彼は地
獄の苦しみの中でその眼をあげ、はるかにアウラアムと、その懐にい
るラザリを見た。24そこで声をあげていった″父アウラアムよ、私を
あわれみ、ラザリを派遣して、その指のさきを水に濡らし、私の舌を
ひやしてください。私はこの火災のなかで、苦しんでいるからです″
25しかしアウラアムはいった″子よ、あなたは生前よいものを受け、
ラザリは悪いものを受けたことを想起しなさい。今こそ彼はここで慰
さめられ、あなたは苦しむのです。26ただそればかりでなく、あなた
方と私たちの間には大きな渕があって、ここからあなた方に渡りたく
ても出来ないし、そこから私たちの所へも渡れません″27そのとき金
持はいった″父よ、ではお願いですから、ラザリを私の父の家へ派遣
してください。28私に五人の兄弟があるからです。彼等もこの苦しい
処に来ないように、彼に警告させてください″29アウラアムは彼にい
った″彼等にはモイセイと予言者たちがあります。それに聞くのがよ
いのです″30だが彼はいった″いいえ、父アウラアムよ、しかしもし
死者の中から誰かが彼等の所へ行けば、くいあらためるでしょう″31
そのときアウラアムは彼にいった″もし彼等がモイセイと予言者たち
に耳を傾けないなら、たとえ死者の中から復活した者があっても信じ
はしないでしょう″
第十七章
1イイススはまたその門徒たちにいわれた″誘惑は来ないわけにはい
かない。ただ誘惑を来させる者はわざわいである。2これらの小さい
一人を罪に誘惑するよりは、むしろ磨石(ひきうす)をその首にかけ
られて海中へ投げ入れられた方がましである。3自分のことをつつし
みなさい。もしあなたの兄弟が、あなたに対して罪を犯したならば、
彼に忠告しなさい。もしくいあらためたなら、彼を赦しなさい。4も
し一日に七度あなたに対して罪を犯し、また一日に七度反省して″私
は悔い改めます″というなら、彼を赦しなさい″
5門徒たちは主にいった″私たちの信仰を増してください″6主はい
われた″もしあなた方に芥種(からしだね)のような信仰があれば、
この桑の木に″抜けて、海に植われ”といっても、桑はいうことを聞
くだろう。7あなた方のうちに耕作したり、家畜を飼う者があって、
それが田から帰った後″すぐ来て、食卓につきなさい″という者があ
るだろうか?8却って次のように彼にいわないだろうか″私の晩餐を
用意し、私が飲食する間は帯をしめて私の世話をし、その後に飲食し
なさい″と。彼はその僕(しもべ)が命令を遂行したことに感謝する
だろうか?私はそうは思わない。10このようにあなた方も、命令を全
部遂行したときには″私たちは価値のない僕(しもべ)たちです。す
べきことをしたに過ぎません″といいなさい″
11イエルサリムへ行く途中、彼はサマリヤとガリレヤの境を通ってお
られた。12ある村へ入ったとき、十人の癩病患者が彼を迎え、遠くに
立って、13大きな声でいった″イイスス先生さま、私たちをあわれん
でください″14イイススは彼等を見ていわれた″出かけて、司祭たち
に見せなさい″彼等は行く途中で、潔まった体になった。15そのうち
の一人は、自分がなおったのを見ると、帰ってきて、大きな声で彼を
讃美し、16彼に感謝して、彼の足許にひれ伏した。そしてこれはサマ
リヤ人であった。17そのとき、イイススはいわれた″潔められたのは
十人ではないか?あとの九人は何処にいるのか?18この異族人のほか
にどうして光栄を神に捧げるため帰って来なかったのか?19そこで彼
にいわれた″起って行きなさい、あなたの信仰は、あなたを救ったの
である″
20神の国が何時くるかとファリセイ等に聞かれたとき、彼は彼等に答
えていわれた″神の国は顕著な形では来ない。21また″見よ、ここに
ある″あるいは″見よ、あそこにある″というものではない。すなわ
ち神の国はあなた方の中にあるのである″
22また門徒たちにいわれた "あなた方は一日でもいいから人の子を見
たいと思う日が来るが、見ないであろう。23人々があなた方に見よ
此処にいるあるいは見よ、彼処にいる"というだろう―だが行っ
ではならない、後を追ってはならない。 24稲妻が天の一方のから他
までめくように、人の子はその日にはそうなるだろう。25しか
し彼は先ず多く苦しみを受け、この世から棄てられるべきである。26
ノイの日にあったように、人の子の日にもそうなるだろう。27人々は
方舟(はこぶね)にノイが入った日まで飲んだり、食べたり、妻をと
ったり、嫁にいったりしていたが、洪水がきて全部の人を亡ぼしてし
まった。28ロトの目にもそうであった人々は食べたり、飲んだり、
買ったり売ったり、植えたり建てたりしていた。29しかしロトがソド
ムから出た日、天から火と硫黄の雨が降って全部の人を亡ぼしてしま
った。30人の子の現われる日にも、そうなるだろう。31その日、屋根
の上にいる者は、彼の物が家の中にあっても、それを取るためおりる
でない。 田にいる者も、同じく後へ戻るでない。32ロトの妻を思い出
しなさい。33自分の生命を救わうとする者は、それを亡ぼし、生命を
亡ぼす者は、それを生かすであろう。34私はあなた方に告げる、その
夜、二人が一つの床(とこ)にいるとして、一人は取られ、一人は残
るであろう。35二人の女が一緒に粉をひくとして、一人は取られ、一
人は残るであろう。36二人が田にいるとして、一人は取られ、一人は
残るであろう。37これに対して彼等はいった"主よ何処でそうなるの
ですか? 彼はいわれた死体のある所には鷲が集まるだろう"
第 十八 章
1イイススはまた、いつも祈祷し、失望してならぬことについて譬を
いわれた。2それは或る町に、神を恐れず、人を人とも思わぬ裁判官
がいた。3その町には一人のやもめがいたが、彼女は彼の所へきてい
うのであった私の敵から私を助けてください" 4しかし彼は永い間
いやだったが、後で自分の心にいった"私は神を恐れず、人を人とも
思わないが、5このやもめが私にうるさいので、これ以上私を悩まし
に来ないよう、彼女を助けてやろう" 6主はいわれた"不正な裁判官
のいってることを聞いているか?7神は、昼夜彼に叫ぶ自分の選民を
たとえ遅くなっても助けないことがあろうか?8私はあなた方に告げ
神は早く助けるであろう。しかし人の子が来ても、地上に信仰を
見出すだろうか?"
9また、自分が正しいと信じ、他人をみさげていたある人たちに、次
の譬をいわれた。10二人の人が祈祷のため聖殿へ入った。一人はファ
リセイ、もう一人は取税人であった。11ファリセイは立っていて、自
分の心でこう祈っていた"神よ、私はあなたに感謝します。私は他の
人たちのように残酷、 不正、放蕩でなく、 またはこの取税人のようで
ないからです。12私は一週間に二度断食し、全収入の十分の一を献金
しています" 13取税人の方は、遠くに立って、眼を天にあげることさ
えなく、自分の胸を叩きながら言っていた〝神よ、罪人の私をあわれ
んでください" 14私はあなた方に告げる"この人はあの人よりも正し
いとされて、わが家へ帰っていった。およそ自分を高くする者は低く
せられ、自分を低くする者は高くせられるであろう"
15彼にさわってもらうため、人々は幼児たちを彼のところへ連れてき
た。だが門徒たちはこれを見て、叱っていた。16しかしイイススは彼
等を呼んでいわれた子供たちを私のところへ来させなさい、また叱
ってはいけない。神の国はこのような者のものである。17私は本当に
あなた方に告げる”子供のように神の国を受け入れない者は、これに
入らないであろう"
18上司のうちの或る人が彼に問うた”善良な先生!永遠の生命を得る
ため、私は何をすべきですか?" 19イイススは彼にいわれた "どうし
てあなたは私を善良なというのか?ただ神以外に善良なものはないの
である。20あなたは、淫するな、殺すな、盗むな、偽証をするな、
あなたの父母を敬えという掟を知っている筈である"21そこで彼はい
った"私は小さい時からこれを全部まもっていました" 22イイススは
これをきいて彼にいわれた”あなたに足りないものがまだ一つある。
あなたの持っている物を全部売却して、貧乏な人たちに分けなさい、
宝を天に積むだろう。また来て私に従いなさい!" 23彼はこれをきくと
悄然とした。 それは彼が非常な金持ちだったからである。 24イイスス
は彼が悄然としたのを見ていわれた"富をもつ者たちが神の国に入る
のはなんとむづかしいことか!25らくだが針の穴を通るのは、金持ち
が神の国に入るよりさらにやさしい”26これをきいた人たちはいっ
た "では誰が救われるのでしょう?" 27彼はいわれた人間にできな
いことも、神には可能である"
28するとペトルがいった"そうです、私たちは一切(いっさい)を捨
あなたに従いました" 29イイススは彼等にいわれた"私は本当に
あなた方にいう、家、あるいは両親、あるいは兄弟、あるいは姉妹、
あるいは、あるいは子供らを神の国のために捨てたとしても30この
世では数倍、来世では永遠の生命を受けない者はないのである"
31また彼は十二門徒を呼びよせて彼等にいわれた"見よ、私たちはイ
エルサリムへのぼっていく、そして予言者たちによって人の子に関し
書かれたことは全部行なわれるであろう。32彼は異邦人の手にかか
笑せられ、侮辱され、つばきをかけられるだろう。33人々は彼
を殴打し、彼を殺すだろう。 そして三日目に彼は復活するであろう"
34しかし彼等はこれからは何も悟らなかった。 これらの言葉は、彼等
には隠され、彼等はいわれたことを理解しなかったのである。
35彼がイエリホンへ近づいていた時、ある盲人が道端に坐って物乞い
をしていた。 36民衆が彼のそばを通るのを聞いて、これは仕事ですか
と問うた。37人々は彼に、イイスス・ナゾレイが通っているのだとい
った。38そのとき彼は叫んだダビードの子、イイススさま、私をあ
われんでください"39前方を行っていた人たちが彼を黙らせようとし
たが、彼はなお大声に叫ぶのであった"ダビードの子よ、私をあわれ
んでください" 40イイススは立ち止り、自分のところへ彼をつれてく
るように命令された。その盲人が彼に近ずいたとき、41彼にたずねられ
"あなたは私から何がほしいのか?"彼はいった"主よ、私も
眼の見えるようになることです 42イイススは彼にいわれた"見える
ようになりなさい、あなたの信仰はあなたを救ったのである"43する
と彼はすぐ見えるようになり、神を讃美しながら彼に従った。 全民衆
もそれを見て、神に讃美を奉った。
第 十九 章
1それからイイススはイエリホンへ入り、その中を通っていた。2 す
ると取税人の上司で金持ちのザクヘイという名の人は、イイススが