退避症候群
進化心理学の観点から言えば、何万年にもわたって、私たちの祖先は比較的同じような環境で暮らしてきたのです。/ しかし、ここ数十年で起こった社会の変化、特にテクノロジーの進化スピードは、もはや人間の脳がついていけるレベルを超えています。/ フロリダ州立大学のボーマイスターによる研究では、急速な社会変化に晒されると、人々は「決断疲れ」に陥りやすくなることが示されています。/ スワースモア大学のシュワルツは、人は選択肢が増えることで自由が広がるどころか、むしろ満足度が下がり、決断への不安や後悔が強まり、うつ傾向すら高まる可能性があると指摘しています。/ つまり、あれこれ比較しすぎて「もっといい選択があったのでは」と思い続けてしまう。それが情報過多の落とし穴なのです。/ 豊富な選択肢が必ずしも行動を後押しするとは限りません。むしろ、選択肢が多すぎることで脳が疲弊し、「もう考えたくない」「やめておこう」という心理が働いてしまうこともあります。/ このような現象を、社会心理学者スタンレー・ミルグラムは「退避症候群 (withdrawal syndrome)」と名づけました。 / 彼は、都市部に住む人々が膨大な情報や刺激に囲まれることで、意識的・無意識的に自分を守るための回避行動を取るようになると指摘しました。/ 具体的には、以下の4つの特徴があるとされています。
情報を短時間で処理しようとする
他者との接触を必要最低限に抑える
重要度の低い情報を自動的に無視する
責任を他者に委ねて回避する
とりあえずやってみる技術 / 堀田秀吾pp32-4