足引きの山鳥の尾のしだり尾のながながし夜をひとりかもねむ
https://gyazo.com/c1b208019abd170fa714dd9ebfb78bb7
説明されまくってる歌だろうけど一応説明しておくと、「足引きの」は「山鳥」にかかる枕詞。枕詞というのは「習慣的になんか後ろのやつに情緒とかリズムを足す修飾句」のこと。たとえば「ぬばたまの」とあれば「夜」とか「黒」とかが続く。同じように「足引きの」と来たら習慣的に「山」とか「山鳥」が続く。そのような言葉で、足を引いてうんとこどっこいする感じのーくらいの意味なのだが、その「山鳥の尾」が今度は「しだり尾」にかかる。「しだる」、つまり下に垂れた尾のようなということで、これが「ながながし」、つまり「ながし」の「なが」を2回繰り返したものにかかる。まとめると「足を引きずってうんとこどっこい昇るような、山にいる山鳥の下にだらんと垂れ下がったしだり尾のようにながーいながーい夜を」という意味になる。解説長い。 そして、そんな夜を「ひとりで寝るのかあ......」と言ってると。こっちは短い。
言葉は意味を持つ。と同時に言葉は様々なプロパティを持つ。たとえば文字の長さ。Lenght。「短い(みじかい)」は短いという意味で「長い(ながい)」は長いという意味だが「短い」のほうが「長い」よりも長さが長いのは考えてみればおもしろい。色調というかトーン、ニュアンス、陰影。さまざまに呼ばれるがそのようなプロパティも持つ。自己紹介で「明るい性格です」と暗い口調で言われても「ウソやん」となる。言葉の意味と色調、トーンが「矛盾」しているのである。
https://youtu.be/ojw19k9wwNU?si=z_ZfqWGQ5x1d6FcY
https://youtu.be/tGAwp5syXyE?si=BdMRAkdqjzyY9LFK
ロビン西の『マインドゲーム』という作品では、死んだ主人公・西に対し、神様がオノマトペで呼びかけるシーンがある。ベタ一色の真っ暗闇に「カタカタカタ」という文字が浮かぶ。「カタカタ」は「そういう音がしている」という意味だろうが、同時にその音は漫画表現は視覚表現なので、視覚的に文字そのものとしても浮かびあがってしまう。漫画の世界では言葉は意味と同時に音だけでなく「見え」appearenceというプロパティも持ってしまう。 https://gyazo.com/7e7491dd51893313693639f63001e72c
「ショーモナイヤロ」という文字も「カタカタ」という文字もどちらも同じ文字であり言葉なのだが、「ショーモナイヤロ」は「作中人物に見える文字」であり「カタカタ」は「作中人物には見えず音としてだけ聞こえるものとして読者には聞こえないが見える」文字として現れる。
言葉には意味以外にさまざまなプロパティがあって、またその言葉が使われる媒体(ジャンル)によって、さまざまな約束事がある。それらを上手く利用した、逆手にとった表現に、自分はとても惹かれることが多い。
ーの、ーの、ーのと3回「の」をわざと繰り返してるのも「ながながし」い感じを高めてるし、夜の長さの説明に5757の24文字を使い「ひとりねるのかー」へは7文字というアンバランス、対照をそれ自体で作り出しているのもおもしろい。夜の長さに比べて「ひとりねるのかー」のつぶやきの短さ。そんな長い夜に一体何回「ひとりねるのかー」をつぶやかなければならないんだろう。「ひとりねるのかー」が短ければ短いほど、また夜の長さも強調されてしまう。てか、無粋なことを言ってしまうが、人麻呂、早く寝ろ。とはいえ、この時代、睡眠薬もスマホもSNSも何もないのである。
何かにたとえるということは、たとえられるものとたとえるものとのネクサスを生み出すということ。逆に言えば、この歌は、山鳥の尾の長さを「まるで独り寝の夜みたいだな」と思わせる。ご存知ない方はぜひググって見てください。かわいいですよ。ながながし解説であった。これにて失礼つかまつる。moriteppei.icon20240210