美
精神は自問する、「こんなものが美しいのだろうか? 自分の感じているのは、はたして賞賛の念といえるのか? このことなのか、精彩にあふれるとか、気品があるとか、力強いとかいうのは?」 そんなとき、またしても答えるのは、甲高い声であり、問いかけるような奇妙な口調であり、ある未知の人物から受ける暴君を想わせるまるで即物的な印象であって、それを「自由闊達な演技」などと見なす余地などありはしない。それゆえ真に美しい作品は、真摯に耳を傾けた場合、われわれをもっとも失望させることになる。われわれが所持する既成概念のコレクションのなかに、そんな個性的な印象に対応する概念などひとつも存在しないからである。失われた時を求めて 5巻 p.111