理想の読者
あなたがものを書くときにもっとも頼りにしている者のことを、ここでは “理想の読者” と呼ぼう。 “理想の読者" はつねにあなたのそばに寄り添っている。 書斎のドアをあけ、 夢の世界に光を当ててくれる現実を部屋に引きこんだときには、生身の姿で。 ドアを閉め、 ときに難渋しながら、たいていは感興のおもむくままに原稿を書いているときには、 気配として。 すると、 どうなるか。あなたは“理想の読者、 がまだ一行も読まないうちから原稿の手直しをしていることに気づくだろう。 “理想の読者はあなたが自分の殻から抜けだす手伝いをし、あなたが読者の目で書きかけの原稿を見る機会を与えてくれる。 ひとりよがりを避けるための、 これはおそらく最良の方策だろう。 あなたは自分ですべてを取り仕切り、そこにはいない観客に向けて演技を披露することになる。書くことについて ~ON WRITING~ スティーヴン・キング p.237