文章は素材が9割
駆け出しのコピーライターの時代、 300文字を書くのに1日かかっていた私が、 今は1日1万字、2万字を書くこともある。 どうしてこんなことができるようになったのか。 私は、文章スクールに通ったこともないし、文章の書き方を指南する本を読んだこともありません。私が書けるようになったのは、文章とはなんなのか、その本質に次第に気づいたからです。メモ活 / 上阪徹 257ページ 強調引用者
しかし、ビジネスに使う文章に、誰も 「立派な文章」を求めたりはしません。 ウィットの効いた言い回しなんてメールには必要ないし、 古めかしい慣用句はレポートには似つかわしくありません。 用件さえ伝わればいいし、必要な情報が盛り込まれていればいいのです。 なのになぜ、書くのが苦手で嫌いになるのか。それは「立派な文章」にしようと、表現を考えてしまうからです。 「言い回し」 も 「慣用句」 もいらないのに、「何かいい言葉はないか」 「ふさわしい形容詞はないか」 「心を動かすような表現はないか」などと考えてしまうのです。 実際にコピーライターとして駆け出しの時代、 私はまさにそれをやっていたのでした。だから、時間がかかってしまった。 なんとか 「立派な文章」 「うまい文章」を書こうとして、こねくり回していたのです。 しかし、今はまったくそんなことはしません。 文章とは何か、を理解したからです。おぼろげな気づきがはっきりとした確信に変わったのは、 実はLINEがきっかけでした。文章が苦手で嫌いだという人も、 LINEは嬉々としてやっていたからです。 どうして文章は書けないのに、 LINEは書けるのか。 答えはシンプルで、 LINEは必要な情報だけをやりとりするからです。 私はそれを「素材」と呼んでいます。LINEは、 「素材」 しかやりとりしていない。でも、きちんとコミュニケーションは成立していたのです。メモ活 / 上阪徹 ・ 258ページ 強調引用者
つまり、「素材」 があれば、 読み手に必要なことは十分に伝わる、ということです。 うまく表現しようとしたり、慣れない言葉を使おうとしたり、 そんなことはしなくていい。 「素材」を並べるだけで、十分に文章になってしまうということです。 そして文章の「素材」とは、事実、数字、エピソード(コメント =会話文)だということに気づきました。 その3つだけで文章はできているのです。メモ活 / 上阪徹 259ページ 強調引用者
日々、記事を書き慣れている記者とて、 「素材」のメモがなければ書けません。 なぜなら、文章は「素材」でできているからです。 私も同様です。 「素材」 がなければ書けない。 「素材」 があるから、スラスラ書けるのです。 この事実を知ったとき、こう思いました。 「なんだ、これでよかったのか」 文章に必要なのは「素材」のメモだったのです。メモ活 / 上阪徹 260ページ
私は会社員時代、 リクルーティング領域の広告をつくる仕事をしていたのですが、 新人コピーライターがやってしまいがちな人材募集のキャッチコピーがあります。 「当社は、いい会社です」 いかがでしょうか。たしかにいい会社なのです。 しかし、これでは会社の魅力はまったく伝わらない。 そこで、 「いい」 に変わる表現を懸命に考えることになるわけです。 「素敵」 なのか 「美しい」 なのか 「すごい」 なのか 「立派な」なのか......。 これを考えるのに、 時間がかかる。 しかし、 どれも代わり映えしないことにお気づきいただけるはずです。 では、どうするのか。 「素材」を使うのです。 例えば、 ・この5年間、誰も辞めていない ・社長が誕生日に社員の家族に花を贈ってくれる ・10年間、 ずっと右肩上がりの売り上げを続けている どうでしょうか。 「いい会社」 と、この3つの表現では、どちらがより魅力が伝わるでしょうか。これこそが、「素材」 です。 先にも書いたように、事実、 数字、エピソード (コメント)です。 文章をこねくり回して、気の利いた言葉を探そうとするよりも、 「いい会社」 を象徴するような事実、 数字、エピソードに目を向けてみればいいのです。 それをそのまま書くだけで、十分に 「いい会社」であることが伝わるのです。メモ活 / 上阪徹 ・ 262ページ
「素材」に目を向けるのに最適な方法があります。それは、形容詞を使わない、形容する言葉を使わない、ということです。 「いい」という形容詞を使わない、 あるいは 「いい」に似た言葉で表現しないと決めると、「素材」に目を向けざるを得なくなるのです。 別の例を出してみましょう。 「すごく寒い」という表現があります。これを文章にするのに、 「すごい」 も 「寒い」 も使わないとすればどうするか。 ・温度計は氷点下10度を指していた ・軒下のツララは20センチにもなっていた ・吐き出した息はあっという間に真っ白になった どうでしょうか。 これもまた事実、数字、エピソードです。 「素材」です。「素材」を置くだけで、 「すごく寒い」 などと書くよりも、よほど寒さが伝わったはずです。 「素材」 を使うだけで、形容詞や表現する言葉よりも、はるかに伝わる文章になるのです。 そして形容詞は文章を幼稚にする、ということも覚えておくといいと思います。 ・今日は楽しかった ・図工が面白かった 動物をたくさん見た ・勉強が大変だった 小学生がよく書く作文に、こういうものがありますが、いずれも形容詞を書いてしまっています。 形容詞を書くと、 具体性のない陳腐な文章になってしまう危険があるということです。メモ活 / 上阪徹 263ページ 強調引用者