敬語
しかしながら、それが日本文である限り、口語体であろうと昔の和文体であろうと、この書き方は文法的に正しいのである。主格を入れてももちろん誤りではないが、 どちらかといえば入れない方が美しいのである。 そんならどうして二人の人を区別するか、一つが源氏の動作であり、一つが小君の動作であることがどこで分かるかといえば、動詞で分かる。 源氏の方は 「ねられ給はぬ」といい、 「のたまふ」 といい、 「おぼす」 といい、ちゃんと敬語が使ってある。 小君の方はただ 「伏す」 となっている。 そう考えると敬語は単に儀礼上の言葉ではない。文法上立派に一つの働きを持っているのである。陰翳礼讃 谷崎潤一郎現代口語文の欠点について 62ページ