十二月の十日
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大変素晴らしかった。
アメリカのベストセラー短編集。出てくる人出てくる人、どうしようもないダメ人間ばかり。使う言葉は汚く、まあ大したことを考えられない、言えないような。そういう人たちがちょっとしたSFみたいな設定の元、あれこれするって話が多いかな。
「センプリカ・ガール日記」と表題作が特に出色の出来。
自分のことを中流だと信じてる割と貧困層の男が、「未来の読者」のためにつけた日記という体裁のセンプリカ〜だけど、ちょっとSF設定がはいっているので、読者である自分は果たして男のいる時代から見た場合、未来の人間なのか、過去の人間なのか、よくわからなくなる。
低レベルな人間だからこそ言える、人間じゃないと言えない、ベタな、でも本当のことがあり、それは人を勇気づけ、震えさせることができる。そのことに自覚的な作家だと思う。
なぜならおれにはわかったんだ、今やっとわかった、少しずつわかりかけてる――もしも誰かが最後の最後に壊れてしまって、ひどいことを言ったりやったり、他人の世話に、それもすごいレベルで世話にならなきゃならなくなったとして、それがなんだ? なんぼのものだ? 奇妙なことを言ったり、やったり、不気味で醜い姿になることの、なにが悪い? 糞が脚をつたって流れて、なにが悪い? 家族に抱きかかえられ、向きを変えられ、食べさせてもらい、下の世話をしてもらうことのなにが悪い、逆だったらおれは喜んで同じことをするのに? おれはずっと怖かったんだ、抱きかかえられたり向きを変えられたり食べさせてもらったり下の世話をされたりすることで自分の尊厳が失われることが、今だってまだ怖い、それでもおれにはわかったんだ、そこには同時にたくさんの――たくさんの良いことのしずく、そうおれには思えた――何滴もの幸せな、良い絆のしずくがきっとこの先にはあって、そしてその絆のしずくは――今までも、これからも――おれが勝手に距離できるものじゃないんだ。
拒否。
ほら。おれにもできることがあるじゃないか。この子を元気にしてやれたじゃないか? おれが言ったたった一言で? だからだよ。だから生きる意味がある。そうじゃないか? 生きてなかったら、誰のことも勇気づけられないじゃないか? 死んじまったら、なに一つできないじゃないか?( ジョージ・ソーンダーズ 十二月の十日p.281) これだけのベタを言わせられる、そこに説得力もたせられるって、すごいことだと思う。おすすめです。これ、2年前の誕生日とかに買ったんだよな、確か。たまたまなんだけど、自分の誕生日が12月10日なので。