ホルモン治療
ホルモン治療は高齢になるまで続けることが多いから、費用は継続的にかかり続ける。 例えば1回2,000円かかるホルモン注射を月に2回打つとしたら1年間で4万8,000円かかるし、 50年間続けたら240万円にもなる。ただし、(戸籍を変更していない) トランスの人に対するホルモン治療は自由診療扱いだから、 1本500円で打ってくれる超良心的な病院もあれば、1回で4,000円請求されるようなケースもあり、金額にはかなりバラつきがある。 一方で手術は、基本的には一度きりのものだ (それぞれの手術を複数回に分けたり、修正手術をすることもあるけれど、ホルモン治療のように継続的な処置ではない)。国内では、 例えば子宮・卵巣摘出が100万円から150万円程度、陰茎切除と造膣が150万円から250万円程度かかる。 大きな苦痛に感じられる身体の特徴を死んでも変えたいと願っている人にとっては、これくらいの金額は喜んで払ってやろうと思うかもしれない。けれど、シスの人の多くは負担しなくてすむ費用を支払ってはじめて自分が自分として生きられる身体を手に入れているトランスの人がいることは知っておいてほしい。トランスジェンダーQ&A 素朴な疑問が浮かんだら高井ゆと里周司あきら・68ページ 第二に、ホルモン治療が健康保険の対象外(=自由診療) なので、 すでにホルモン治療を受けている人(場合によってはこれから受ける人) が手術を受けようとしても 「混合診療」 扱いにされてしまい、 手術の部分も丸ごと保険の対象外になってしまう。 これはひどい話だ。 実際のところトランスの人たちには、手術をする前にホルモン投与をしている人が多い。 むしろホルモン治療を飛ばして性別適合手術に挑む人のほうがまれだ。 とくに、下半身の性別適合手術は生殖腺を取り除くことでもあるから、いきなり性別適合手術を受けるのではなく、それ以前にホルモン剤を投与している場合が大多数で、このことは日本精神神経学会による「性同一性障害に関する診断と治療のガイドライン (第4版改)」でも基本的なパターンとして想定されているほどだ。 それなのに、ホルモン治療をしている人は性別適合手術が健康保険適用になりません、という運用になっている。これでは大多数の人は相変わらず100万円から200万円超の性別適合手術代を全額自費で払わなければならない。 せっかく手術が保険適用になったと思ったら、 現実とまったく噛み合わない内実になってしまったというわけだ。 乳房切除術(胸オペと呼ばれることもある)だけは、 ホルモン投与をしていなくても単体で受けられるケースがあるため、2018年の改定で主に恩恵を受けているのは、そうした手術を受ける人たちだ。 とはいえ、 認定施設での長い予約待ちに耐える必要はあるのだけど。トランスジェンダーQ&A 素朴な疑問が浮かんだら高井ゆと里周司あきら 70ページ