ホモフィリー
驚くべき事実を二つ紹介しよう。 まず、 あなたの友人があなたと共通の遺伝子を持っている確率は、無差別に選んだ近所の誰かとの確率の二倍だということ。 これは、十代の学校の友だち五○○○組の遺伝子をほかの生徒の遺伝子と比較したベンジャミン・ドミンゲのグループの調査結果だ。 同様に、 ジェームズ・ファウラーとニコラス・クリスタキスも、「青年の健康に関する全米での縦断研究」 のデータから、 友だち同士が同じドーパミン受容体 D2 (友人関係を維持するのに必要な二つの神経化学物質のうちの一つ)の遺伝子を持っている確率は高いが、同じ CYP2A6 遺伝子 (ニコチンの酸化原因となる酵素を制御する遺伝子で、 友人関係の維持にはまったく関係がない)を持っている確率は低いことを明らかにした。 さらに彼らはこの二つの発見を、 フラミンガム研究のデータセットでも確認している。 もう一つの驚くべき事実は、キャロリン・パーキンソンたちのグループが発見したもので、同じクラスの大学生たちが映画を観ているときに彼らの脳をスキャンしたら、互いに友だちであることを認めていた学生たちのほうが、そうではないクラスメイトたちより、 映画を観ているときの神経反応が似ていたという。 特にその反応が顕著だったのが、 脳の感情処理に関わる領域 (扁桃体)、学習、情報を記憶に統合する領域 (側座核、尾状核)、そしてメンタライジングのいくつかの側面に関わる領域(頭頂葉内の領域)だ。言い換えれば、 あなたとあなたの友だちは同じ遺伝子を持っている可能性が高いだけでなく、 同じように考える可能性も高いのだ。 しかしそれは、 友だちだから同じように考えるわけではない。 同じように考えるから、あなたたちは互いに引きつけ合ったのだ。なぜ私たちは友だちをつくるのか ロビン・ダンバー 238ページ いったい、どういうことなのか。 私たちは自分の意志で友人を選ぶことさえできないのというのだろうか? いや、そうではない。 じつは私たちはちゃんと自分で友を選んでいるのだ。 ただ、 あなたが選ぶ友だちはつねに、そのときの状況下で最も自分と共通点の多い相手なのだ。 似た者同士が集まるこの傾向はホモフィリー(同類性)と呼ばれるもので、私たちの友人関係における大きな特徴だ。 この人と友だちになれるだろうか、と私たちはその都度判断するわけだが、 そのときの基準を私は〈友情の七本柱 ( Seven Pillars of Friendship)〉と呼んでいる。なぜ私たちは友だちをつくるのか ロビン・ダンバー 239ページ このデータを分析するとすぐに、 同様の回答がされた質問は、いくつかのグループに分かれることがわかった。そしてグループとなった質問の種類を見ていくうち、 そこには次のような要素が関わっていることに気がついた。・言語(または方言) が同じ・同じ場所で育った・同じ教育を受け、 同じ経験をしている (医者同士が互いに引きつけ合うことはよく知られているが、 弁護士も同じだ ) ・趣味や関心事が同じ・世界観が同じ(道徳観、宗教観、 政治観) ・ユーモアのセンスが同じ その後、ジャック・ローネーと行った調査に基づき、私たちはさらに七つ目の要素も加えた。・ 音楽の趣味が同じ なぜ私たちは友だちをつくるのか ロビン・ダンバー・241ページ 私たちが驚いたのは、このリストにユーモアのセンスが登場したことだった。 道徳観や政治的信条といった重ための柱と比べ、ユーモアは些細なことに思えたからだ。 そこでオリヴァー・カリーは、これについて詳しく調べることにした。 彼は 『史上最高のジョーク一〇〇選』 から人々の受け止め方が最も異なるジョークを一八選び、被験者それぞれに、その面白さを評価してもらった。 彼ら一人ひとりのユーモアセンスを示すこの評価表は、いわば被験者各人のユーモア・プロフィールだ。 カリーはこの調査の一週間後、 再び被験者一人ひとりに接触し、これはほかの被験者たちのユーモア・プロフィールだと言ってプロフィール集を見せ、この人たちとどの程度うまくつきあえそうか、もし会う機会があったら友だちとして好きになれそうかを尋ねた。 だがじつは、被験者たちが見せられたのは、彼ら自身のプロフィールを調整したもので、 それぞれ、 彼ら自身のプロフィールと一致する割合を一〇パーセント、三三パーセント、 六七パーセント、九○パーセントに調整してあった。 その結果、 被験者はユーモア・プロフィールが自分のプロフィールに近ければ近いほど、 その人物といい友だちになれそうだと回答した。そう、私たちは自分と同様のユーモアセンスがある人を好むのだ。 また自分とユーモア・プロフィールが似ている相手ほど、 助けたいと感じる傾向も強かった。なぜ私たちは友だちをつくるのか ロビン・ダンバー 243ページ 子どもを対象にしたエリザベス・スペルクの実験で、人種的特徴が同じ人と文化的特徴 (言語など)が同じ人のどちらと友だちになりたいかを尋ねると、子どもたちは人種や民族より、文化的共通点のほうを明らかに優先していた。なぜ私たちは友だちをつくるのか ロビン・ダンバー 260ページ