ヘヴン
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ちょっと判断難しい。でも、読んだ感想を素直に。おもしろかった。
『乳と卵』とはまったく異なる文体。語り手は斜視の中学生で、その中学生にふさわしい、難しい言葉や概念は使わずにうつる世界を描写していくものだけれども、明らかにテーマがニーチェで。ニーチェからヒントを得て、その哲学を川上なりに咀嚼して描いた作品だとは思うんだけど、いじめられている主人公と仲良くなるコジマが、不完全な世界で現実を生きるキリストになってて。 まあ、回収できてない話があるといえばあるけれど、そこらへんの未整理や「なんでその話?」は、いちいち作品内で描ききる必要もないんじゃないかなあと自分は思うから。『乳と卵』であれだけのらのらぬらぬらと、へたしたら一ページ以上続く文体だったのが、ここでは本当に短く、簡潔につづられていくスタイルで、へー!この著者はそういうこともできるのか!と、新鮮な驚きがあったし、見直したというか。
概念的に難しくなったり、図式的になることなく、でも、テーマはきちんと描き切れていると思うし、何より最後までページをドキドキしながらめくれたという意味で、ぼくの中では「傑作」「良作」です。
判断が難しい、と書いたのは、この人、器用貧乏というか、割となんでもそつなくこなしてしまえる作家なのではないか?という疑いが頭をもたげ、というのも、自分が知らないだけで、実はこれ、さまざまなものをあちこちから持ってきてつなげていたり、文体も、誰かの模写を延々やってみたとか、そういう可能性あるなって思って。その点だけ気になった。
あと、この人、ツイッターとか見てると真面目というか、正しいことばかり正しく言ってるイメージで、うわ、全然おもんな、つまんな、って思ったんだけど、作品はそんなことはなく、割とそこらへんの押し付けのなさがよい。でも、他方でいつも最後に物語的な大団円をわかりやすく持ってきてる感じで、それが少し臭みにも感じるかも。