乳と卵
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女・野坂、といった独自の長く、息切れせずに続く文体、とくればこれは森さんの大好物じゃん!って話なのだけれど、読むとさにあらず。饒舌に続けていってる自分によってるというか、電話をしているときやファミレスでだべっているとき、手持無沙汰に手元の紙にくるくるくるくるとよくわからない模様をかきつけたりする、あの感じでダラダラつづいているように感じられるときが多々ある。ペンを走らせること自体が気持ちいい。だから、その気持ちいいを続けていたら、文章を長くしていくことができるようになった、という感じ。
情報整理が下手なのよ。もしくは情報量が低い。こうなると、中のボキャブラリーの組み合わせや、想像させる景色の広がり、音としてのおもしろさといった要素で快楽を感じさせ、だからついつい読んでしまう、といったスタイルじゃないとおもしろくないんだけど、うーん。割とどうでもいいことが、そこまで刺激的でなく、ただダラダラと書いてあり、そのダラダラは嫌いじゃないのだけれど、「嫌いじゃない」で終わってしまってる。 →後半読んでみたらのってきていて、だんだんそんなこともなくなっていった。
町田、野坂系列ともいえるけど、まあ、昔っからの日本語っぽいダラダラとも言えて、そこがおもしろいかも。読んでいたらだんだん癖になってくるし、この人なりの流れは感じる。ただ、通常の語り手の話の合間合間に緑子という姪の語りが挿入されるのだけれど、どちらもダラダラ続く似たような文体なので、一応書き分けはなされているものの「全体通して文体似てる」のが、作品としてみた場合にはテンションが均一になるのでよい効果があるけれど、それはまたダラダラとも言えて、気になる、もう少し読んでみよう。
その銭湯は一年ほど前に改装を果たし、きれいであり、新しい銭湯というのはなぜか気持ちがつるつるして気分もよく、さらにそこは独自の製法というか開発というかで地下から汲み上げた水には特殊なエネルギーが備わっており、それは万病にがんがんに効き、飲むのはもちろん人体の何もかもにとってとても素晴らしいということでそっちの方向からも大人気らしく、ときどき来てみればいつも賑やか、しかし夕飯前のこの時刻であれば比較的に空いているはずやと思ってみれば、夏休みの中では決まったものでないらしく、混雑してるとはいえんまでも、客は変わらずようさんいて、専用の寝台で仰向けにされて体を拭かれながらに泣き叫ぶ赤ん坊の声や、ちょろちょろと走り回る幼女のどったんばったん、大きく流れるテレビの音などで脱衣所は充満しており、わたしらは代金を支払ってから中へ入り、ロッカーをふたっつ確保して服を脱いだ
川上未映子. 乳と卵 (Japanese Edition) (pp.33-34). Kindle 版.