ジェンダー
取り分け私は、今の女学校の先生たちに忠告したい。 近頃の女子は綴り方でも手紙の文章でも、 全く男子と区別がないような書き方をするが、 あれは学校がそういう方針で教えているらしい。 女子と男子が平等であるということは、女子を男子にしてしまうこと、 女性の美点をなくしてしまうことでない以上、そして日本文には、立派にジェンダーの差別が設けてある以上、その折角の国語の機能を亡ぼしてしまう必要がどこにあろうか。ほんとうをいうと、もっと高級な小説や論文でも、女性の筆に成るものは一見して男子と区別されるように書いたら、随分読み物に変化が出来て面白いと思う。 かりに男子の 「のである口調」に対して、 女子が 「あります口調」を使うのなぞも一つの方法ではないか。 そうしてこれは、繰り返していうが、ひとりわれわれの国語においてのみ実行出来ることなのである。陰翳礼讃 谷崎潤一郎 現代口語文の欠点について76ページ