クィア・アクティヴィズム
クィア・アクティヴィズムは一九八〇年代後半から九〇年代にかけてのAIDSアクティヴィズムをその重要な起源のひとつとした運動であり、いくつかの点で、七〇年代から八〇年代にかけての主流の同性愛者の権利運動(ゲイ・ライツ・ムーヴメント)と区別することができる。たとえば、運動体を全国規模で組織化し、政治家へのロビイングなどを通じて「同性愛者」の存在をひとつの重要な政治勢力としてアピールしようとしたゲイ・ライツ・ムーヴメントは、いわば既存の社会に順応しつつ穏やかに政治的権利の獲得を目指すものだったといえる。対してクィア・アクティヴィズムは何よりもまず「生存」の主張であり、必要とあらば露骨な挑発や騒々しいアピールを使ってでも社会の多数派の目を自分達に向けさせ、既存の社会秩序に正面からNOを突きつけようとする、きわめて対抗的な性格を有していた。また、ゲイ・ライツ・ムーヴメントが基本的には文字通り「ゲイの」権利を求める運動であったのに対し、クィア・アクティヴィズムは「ゲイ」というアイデンティティに限定されない連帯を志向した点も、両者の差異として考えられるだろう。清水晶子, ハン・トンヒョン, 飯野由里子. ポリティカル・コレクトネスからどこへ (Japanese Edition) (pp.46-47). Kindle 版.