レ・ヴァン
https://gyazo.com/0b7772e04926e4d8e86be60d13f02ebe
2024年のM-13回戦で敗退なのだが、そのネタがめっちゃ刺さって何度も見てしまった。 コウテイも大好きだったけどレ・ヴァンのほうがじわじわくるかも。 https://youtu.be/HmEAHK9iEb0?si=5Km1mwbXO7ZQCVVI&t=374
尖っているイメージ、独特の世界観という印象が(特に九条には)あるが、実はボケ自体は結構シンプル。理解が難しいものは少ない。「トラウウタツミです」「名前の中に干支4つや!」とか「みんなエブリバディ、エブリワン」「みんな、みんな、みんなや!」など、わかりやすく、それ自体そこまでおもしろいわけでもないボケが多いのだが、どこかクセになるというか、引っかかって何回も見てしまう。中毒性が高いというか、妙な居心地の悪さと、それが直後に解消される安心。いないいないばあみたいな「不安と安心」の繰り返し構造だったりする。
それはおそらくツッコミの「常識」がわからないからである。漫才は何かしらの常識に対してボケが「非常識」=ズレを繰り出し、それをツッコミが常識(お客さん側のスタンス)から否定することで笑いを生むのが基本フォーマットの演芸なのだが、ツッコミの九条ジョーが「どこから」ツッコんでいるのか、この男にどれくらいの常識を期待していいのか、演技なのか実際まともなのかが全然わからない。 ツカミからしてすごい。「はい、相方ボケます、セット!」って振りからのボケ。「これからおもしろいこと言います」って振りでボケさせるの、ボケにしてみれば、というかコンビとして大変なプレッシャーなのに、それをツカミ一発目からやっていくスタイルは心臓が相当強い。しかもそこでのボケが「電車でここは女性専用車両だと言われたらこう言います。知ってます!」である。唐突すぎるし、この人=ボケの人がまだどんな人か、どこまでの倫理観を期待していいのかも観客からしたらわからないわけで。ただの変態がこちらを不愉快にしようとして言っているのか、わかっててボケているのか、どっちで見ればいいのかがわからない。これまた宮本が感じのいいイケメンなのか、イケメンに似ているだけの少し小さくて少し細いおかしい人間なのかがこちらにはわからない。案の定微妙な空気が流れている。
でも、これは尖っている、お客さんを突き放しているように見えて、実はかなり優秀なツカミなのである。①直後九条の「キッショ!!!!!」の大声一発ツッコミが入り、笑いが起こるまで待つ。②「相方ボケます」という振りがある=これはボケであると明示してる。①②があるため「女性専用車両に知ってて乗り込むことはキショいことだという共通認識」を自分たちとお客さんとの間につくることに成功している。「性加害は悪いとわかってる側です、そこは安心してみてください」という自己紹介なのである。
が、「普通の常識あるまともな人間」は冒頭、ツカミでおもしろくもなんともない、そんなきわどいだけのボケをわざわざしないし、そんな唐突な形でダイレクトに速攻で「観客との常識」を確認なんかしにいかない(笑)。「ぼくら安全です」という自己紹介自体が「こいつら大丈夫か」という危険性のアピールにもなっているため、安心すると同時に不安になってしまう。
その後もツッコミの九条が「常識ある男」なのか「常識持ってる振る舞いをしているだけの狂気の男」なのかが不安定で全然わからない。「今度うちでホームパーティーをやってみんなを楽しませたいのよ」と言っただけの宮本に「最高じゃぁんッッッッ!!!!!」と指差しながら超大声で怒鳴りつけるとか、ツッコミとして過剰すぎるし、そもそもここでの宮本はボケてすらいない。そして漫才開始からようやく二つ目のボケが「よ!デブパワーコント師!」で、それに対するツッコミが「細センス漫才師や!」である。細いのはわかる。漫才師なのもわかる。でも「センス」なのか「パワー」なのかはここまでだけではわからない。なんせ「女性専用車両だって知ってます!」のボケしかまだないし、そこに対して大声で「キッショ!!」しか言ってない。どちらかと言うとパワー押しではないだろうか。だけど、それなのに「細センス漫才師や!!」と大声ガンギマリの表情で叫ぶこと自体が「センス」だったりするため、観客は笑ってしまう。ここでの宮本のボケも流れを無視した唐突なボケだし、それに対し九条が自分で自分のことを「センス」あると言い切っているわけで、それがセンスである。
「やった!エロい女や!」「やった!ロングヘアーだ!」「あかん資本主義や!」の流れもそう。胸ボインのジェスチャーの古さ。それに「エロい女や」と言ってしまえる倫理観の低さ。それなのに「貧富の差は仕方ないわ」に「あかん資本主義や!」というツッコミを入れるこの男は一体何なのか。どこに「常識」があるのか。まるで見えないためつっこめばつっこむほど不安も増大する。
ラストは「ドッキリでした!」「どっからやねん!!」。これまた瞳がガンギマリ。早く他のネタも見たい。ライブがあったら行ってしまうかもしれない。