ハッピーライヴ ショウアップ!
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2021/06/15完走
点数:89点
総評
FAVORITEと言えばこれまでシナリオ・雰囲気重視の作風が売りのメーカーだったが、今作は「NEXT GENERATION」と銘打って新しいスタッフを迎え入れた上で作風も大きく変わる形となった。正直な所期待と共に不安も大きかったが、蓋を開けてみると完成度は非常に高かったと思う。
この時代に新人育成も視野に入れつつ新しいことに挑戦するというメーカーの姿勢自体が本当に素晴らしいと思うし、これからも応援していきたいと思った。
テンポ感がとても良い
これまでのFAVORITEの作品はテンポ感が課題な所が多かったが、今作はかなり意識されているようでとても読みやすかった。次から次へと話が展開して退屈することが無く、かつ話が薄っぺらかったり強引だったり整合性が取れていないという事もあまり無かったのでとてもよく練られていたと思う。
テンポ感もさることながら、地味に伏線の張り方も丁寧で、お陰でキャラクターの言動に違和感を感じることが少なかった。これをテンポ感と両立しているのは本当に丁寧にシナリオ構成を練っていたのだろうと思う。
前向きで、心が温まるようなお話
プレイする前、公式サイトの情報だけではこの作品のテーマ性がいまいち見えてこなかったが、実際にプレイして思ったのは「今の時代には珍しい、とても前向きで温かい話だな」と感じた。
そう思うと「仲間たちと共に一つの太陽を作り出す物語」というのは、直喩でありつつも作品のテーマをうまく言い表しているなと感じた。
曲が良い
OPもEDも挿入歌も作品の雰囲気、ストーリーに合っており、聞けば聞くほど良いと思えた。これは是非ライブで聞きたい…
OP1のフルを完走後に初めて聴いたのだが、目まぐるしく展開していく曲が本編の展開と重なってとてもエモい気持ちになった。
キャラの個性が強く、魅力がとてもよく描かれている
FAVORITEには珍しいキャラゲーという話をしたが、キャラゲーとして見たときに重要であるキャラの魅力の描写についてはとても良くできていた。こういったゲームでは大体一人くらいシナリオ上割を食うキャラ(ハミダシクリエイティブの詩桜や倉野くんちのふたご事情のいずみなど)が居たりするが、この作品ではキャラ数が比較的多いのにも関わらずそれぞれ均等に活躍の機会が与えられていて、それぞれの役割分担もしっかりしていて隙が無かった。 主人公とだけでなく、ヒロイン同士の関係性もかなり濃密に描かれていたのも良かった。特にクラリスとルーの組み合わせが意外性もあり面白かった。
冷静に各キャラを見ていくと意外と個性が強く、特にカーチャやルー、ペチカはなかなか珍しいタイプのキャラで新鮮味があり面白かった。
どのキャラも好きになったが、一番好きになったのはクラリスだった。嫉妬心の強い女の子はとても良い…
次点でカーチャで、コロコロ変わる表情と天真爛漫な性格が見ていて楽しかった。
ルーの無垢で子供っぽい所も、ペチカの意外と面倒見が良い所も、ソフィーの人を思いやりすぎる所も好き…
友人枠のジャンもかなり癖の強いキャラだがいい味を出していたと思う。
殿堂入りにはあとひと押し足りないか
シナリオもキャラもとても良かったが、91点以上を付けるにはあとひと押し足りなかった。
90点を付けたさくら、もゆ。と比較すると、シナリオの内容や安定感、キャラはこちらのほうが圧倒的に好みだったのだが、演出込みの盛り上がりの最大瞬間風速で劣ってしまう感じがした。どちらがゲームとして良いのかというのは非常に難しい問題だが… ルートロックがうまく機能していないのも痛い所。シナリオ的にはソフィー√が最も長く実質グランド√的な所があるので最後にプレイするほうが読後感が良いと思われるが、そこはルートロックされておらず、逆にミヤビ√がソフィー√完走が条件になってしまっているので、最後に読むのは絶対にソフィー√ではなくなってしまう。
例えばだが、ソフィー√を他の√と同じくらいの長さにして、全√走破後のグランド√としてソフィー√の後半のような話を第三幕として展開しても良かったのではという気がする。3rdOPまであるとめちゃくちゃアツかったかもしれない。
確実に良い作品だが、売れるかと言われると微妙
今作で作風を大きく変えた理由としては、新人育成の他にもターゲットユーザー層の拡大も視野に入れたものだと思われる。特にキャラゲー寄りにしてテンポ感に注力しているのは、若年層を意識していると思われる。しかし、実際に売れるかと言われると少し難しいと感じた。
大前提として、作品の中身の出来と売上の相関性は、残念ながら結構薄いと思われる。何故ならエロゲは単価が高いため他人に勧められてもなかなか買い辛いのと、そもそもエロゲ人口が少なく良い評判も伝わりづらいという所がある。そのため、作品の内容以前に「いかに購入したいと思わせるか」がとても重要になる。
もちろん相関が全く無いことはないが、ただ単に良い物を作れば売れるというほど単純なものでは無いというのは言えるだろう。
先程触れたが、前情報だけで作品の魅力が伝わり辛い所は問題だと思う。前情報だとなんとなくキャラゲーっぽいということしか伝わらず、キャラゲーの場合真っ先に見られるのは絵柄だが、キャラゲーメーカーの強豪である所のゆずソフトやまどそふとに比べるとイマイチ若者受けする絵柄ではないように思える。 ストーリー紹介を見ても「魔法」と「ライヴ(大道芸)」の印象しか残らず、いまいちこの作品のセールスポイントが見えてこない。実際にはとても明るく前向きな青春部活系物語なので、そういった所をもっとアピールしても良かったのではと思う。
正直、自分もFAVORITEファンで無ければ今作は購入していなかっただろうと思うくらい、前情報では「パッとしない」感じがしていた。
シナリオ内容も、良くも悪くも「普通の良い話」で、なにか奇をてらったような物ではないので、中々今の時代に注目されるのは難しいように思う。エロゲは価格も高くプレイ時間も長いので、なにか特筆すべき突出した点が無いとなかなか購入には結びつかない。
これまでのFAVORITEでは他のメーカーにない独特の雰囲気感を持っていたのでそこで差別化が出来ていたが、今作にはそれが無いため、キャラゲーの土俵で戦うには少し分が悪いように思える。
システム面ももう少し頑張ってほしい
今作からエンジンが変わり、バックログのジャンプができるようになるなど使いやすくなった部分もあるが、まだ不満点も多い。
具体的に不満点を言うと…
・起動時のウィンドウサイズが固定で、大きすぎるので毎回手動で調整しなければいけない
・バックログで遡れる区間が限られている
・再開時にバックログのジャンプが使えない
・「次の選択肢までジャンプ」が無い(長いゲームでこれは致命的)
・CGモードの表示が妙に遅い
・前作まであった立ち絵鑑賞モードが無い
・ムービー音量が個別で設定出来ない
欲を言うとチャプター選択機能くらいまで欲しいが、流石にそれは難しそうなので…
ともかく、最低限の機能はあるものの、最近のゲームと比較するとやはり少しシステム面でまだ見劣りする部分が多い。
感想
共通
これまでのFavoriteからは考えられないほどかなりテンポ良く進んでいく。話の流れがなんだかラブライブっぽい。(ラブライブのことはよく知らないが)
とにかく読みやすく、話の区切りも分かりやすいので読み疲れない。
キャラもそれぞれ魅力的に描かれているし、前向きな話なので暖かい気持ちになれる。
尖った要素は無いものの、シナリオ構成はとても丁寧に練られている印象を受けた。
むしろこの時代に変化球の無い青春純愛モノを真面目に作る事自体がある意味攻めた姿勢かもしれない。
第一幕だけでも割と読み応えもありまとまっていていい話だったし、第二幕への続き方もワクワク感があってとても良かった。
個別に入る前に各キャラの問題について一通り触れていくのも良かった。予め伏線が張られていることで個別に入ってからの展開も自然になるし、感情移入もしやすくなる。
ルー√
やたらとトイレ関係の発言が多いなと思ったら√突入早々トイレネタ回収していて笑った。
鉄道旅行中丸々ルーとの関係性の話に使うとは思わなかった。ひょっとして他の√もそういう構成…?
ルーの葛藤の部分は読んでて一瞬イライラしたが、そこまで話がグダグダにならなかったので良かった。
クラリスの気持ちもちゃんと描いているのが良い…嫉妬する女の子は良い…
グラングラードに到着してからが案外あっさりと終わってしまったのが拍子抜けだった。決勝本番の様子はほとんど描かれなかったし…
終盤の話の展開がやや平坦で盛り上がりに欠けた感じもあった。問題がほぼルーの内面だけで終始してしまっていて、物語展開上少し地味になってしまったような所はある。
ラストのCGもどうせなら髪飾り付けていて欲しかった気がする…
シナリオ構造上個別√でライヴの話をしていたらどの√でも同じような話になってしまうので省くのは仕方ないかもしれないが、第一幕であれだけ皆で真剣に取り組んでいたのがあっさりと流されてしまったのでなんとも言えない気持ちになった。
とは言えこの手のゲームでこういう√がいくつか出てくるのはある程度仕方なく、キャラの魅力という点では最低限描ききっていたので、ひとまずは他のルートに期待したい所。
ペチカ√
シナリオの構成は予想通りルーの時と同じで、内容としてもまあ普通にグラングラードでエレナと会って仲直りするんだろうな、と思っていたら実際その通りだったので、ほとんどやる前から内容は分かっていた。
とは言え内容が予想通りだったから面白くなかったということは無く、話がどんどん展開していくので最後まで楽しく読めた。
第一幕の青春部活モノっぽい雰囲気をそのまま第二幕でも楽しめたのが良かった。
仲違いして別れていた友人と仲直りするというのはよくある王道なストーリーだが、王道をコンパクトにしっかりとやり切っていたのでとても良かったと思う。
オチもペチカがやりたい事を見つけて先に進んでいくという前向きな〆で読後感がスッキリしていて良かった。
クラリス√
これまでの2人に比べて結ばれるまでが長く、焦れったい雰囲気を堪能できた。お互いが何かを理由にすれ違ったり気持ちを抑えようとしている所を見るのは本当に良い…
最初の約束を理由に好きな気持ちを抑えようとしている主人公と、その態度を見て嫌われていると勘違いするヒロイン…似たような構図は割とよく見かけるが、自分の大好物なので何度見ても良い。
他の√でもすれ違い要素は多少あるが、この√ではすれ違い部分は主軸に置かれていたのでたっぷりと楽しめた。
最終的にクラリス側から告白するのも少し意外性があって良かった。ツンとデレのギャップがとても良い…
ソフィアとルーとの関係性もほっこりして良かった。
オチをバレリーナとしての成長に結びつけていくのも「ハラショウ」らしさがあってとても良かったと思う。
あと、エピローグの卒業公演でライヴの時の衣装を着ていたのも地味に感動ポイントだった。他の√だと大会が終わってからのポカポカの繋がりがほとんど触れられていなかったので…
えっちシーンもバレリーナとしての特性を活かしたものでとても良かった。
カーチャ√
いきなり告白してきて結ばれたかと思ったら列車に置いてかれて路頭に迷うという衝撃のスタートで、冒頭から良い意味で裏切られた。
このシナリオ構成ならだいたいどの√も似たような話になるだろうと思っていたら、まさかこんな変化球を投げてくるとは…
娘が父を強引に言いくるめてしまうのもちょっと王道から外れたパターンで面白かった。
他ルートにも増してトラブル続きなシナリオで、表情がコロコロ変わるカーチャらしいルートだなと思った。
他ルートが主人公とヒロインの間の関係性の解決に時間を掛けているのに対して、このルートでは他に降り掛かってくる様々な問題を解決していくので新鮮味があった。
えっちシーンはカーチャにSっ気があり大変良かった。
ソフィー√
この√だけめちゃくちゃ長くてびっくりしてしまった。他の√を先に攻略してしまったからグランド√にそのまま突入してしまった…?後で攻略見て確かめよう…→普通に条件分岐とかではなく元からこの構成だったらしい
長い分正直結構ダレてしまった所もあり、それも含めて「ああ、やっぱりFavoriteのゲームだ…」と少し懐かしい気持ちにもなった。
魔法をやるやらないの所でかなりダレてしまったのは少し残念なポイント。アキトが魔法を頑なにやらない事の理由付けがイマイチ弱く感じたのと、ソフィーが頑なにアキトの魔法への復帰を拒むのもイマイチピンと来なかった。そのやり取りがかなり続いてしまったので結構ダレてしまった。他の√ではかなりテンポが良かっただけに余計に残念に思えた。
ヒロインとのやり取りの部分は残念だったが、大会後のポカポカのメンバーの話は実質「第三幕」とも言えるような内容で良かった。
個別√ではヒロイン一人との関係性に終始してしまいがちな所を、グランド√的な位置づけとして他のメンバーとの関係性も拾っていくのはとても良かった。単純に登場人物が多いほうが人間ドラマとして面白くなりやすい。(改めて考えると、エロゲで共通√は面白いのに個別√ではイマイチ失速することが多いのはこれが原因なのでは…、ある意味エロゲが抱える本質的な問題の一つなのかもしれない)
挿入歌が入るのはなんとなく想像がついていた(というかサウンドテストモードで明らかに最後に意味深な「???」が残っていたので…)が、挿入歌の入るタイミングやシナリオ上の演出はとても良かった。
とにかくめちゃくちゃ長かったので、ミヤビが転校してくる前後くらいで「第三幕」として区切ってしまっても良かったのではと思う。
これまで他の√がかなり前向きなオチで終わっていたので、この√ではアキトが結局最後まで魔法使いとして復帰しなかったのは少し意外だったなと思う。その辺はミヤビ√でやるのかもしれないが…
「辞めることも一つの勇気ある決断」というような感じで強引に締めくくられたけど、やはり少し理由付けが弱いような感じがした。
とにかく、星メモとさくらもゆで感じた終盤の失速感が今作にもあったのが残念ではあった。ある意味Favoriteらしいのだけど…
ミヤビ√
もっと色々話があるのかと思ったら何も無かった…完全にサブヒロインというかオマケ的な扱いのようだった。
個人的にはこういう隠しキャラ的なのは読者的には途中からいきなり出てきた感が強いのでダラダラと掘り下げられても感情移入しにくい(例:星メモの夢√)のでこういうオマケ的な扱いくらいでも良いのかな、と思いつつ、ミヤビの場合はソフィー√では結構メインキャラ級の扱いになっていたので、もう少し掘り下げがあっても良かったのではと思った。解禁条件的にソフィー√の後にやらないといけないことになっているのもやや構成的にミスマッチな気がする。ソフィー√が実質グランドED的な扱いなので、読後感的にもそれで終わっていたほうが良かった気がする。
これくらいのボリューム感ならFDでも良かったかな…