賢者の石を巡る戦い
UGNを揺るがした事件がクーデター事件ならば、世界を揺るがしたのが、賢者の石と呼ばれる物質を巡る事件の数々である。
この事件は先々代の"マスターレイス"日下部仁の手によって起こされた。彼は、あくなき力への欲望を持ち、より強力なオーヴァードにならんと、それこそ神がごとき存在にならんと画策していた。そのために彼が日をつけたのが"賢者の石"と呼ばれる物質である。
賢者の石
高濃度のレネゲイドウィルスが、鉱物の中に溶け込むようにして自己保存を行なっている状態のものを"賢者の石"と呼ぶ。
この特殊な石はレネゲイドの力を増輻させる性質を持ち、埋めこまれたオーヴァードの能力を飛躍的に向上させる。だが、一説によると、"賢者の石"の真価は、レネゲイド増幅能力ではなく、プライメイトオーヴァードと呼ばれる、より高次の存在に進化するための鍵となることだといわれている。
プライメイトオーヴァード
"次なるもの(プライメイト)"の名を冠する、その存在の証明はいまだになされていない。ただ、理論上では、この世のすべてのレネゲイドを意のままに操り、神のごとき力を持つより高次の存在ではないかとされている。
プライメイトとなる方法については、はっきりしたことは分かっていない。だが、多くの"賢者の石"を取り込んで石を強化し、そのカの臨界を超えさせた時、その石の適合者はプライメイトヘと進化するといわれている。
そんな賢者の石に、飽くなき力への渇望を持つ日下部仁が目をつけたのは、ある種必然と言えるだろう。
日下部仁の野望
日下部仁は、さっそく配下のFHエージェントを総動員して"賢者の石"の回収を始めた。そして、集めた"賢者の石"を適合者であるオーヴァードたちに与えていったのである。
"賢者の石"は、他の適合者が持つ"賢者の石"を取り込むことで力を増していく。日下部仁がばらまいた"賢者の石"の持ち主たちは、暗躍するFHの手によって望むと望まざるとにかかわらず、戦い合った。そして、この計画のために集められた"賢者の石"のすべてが、ひとりのオーヴァードのもとに集まる時がきた。
戦いの最後
賢者の石を巡る戦いは、最終的に日下部仁と、彼が賢者の石を成長させるために利用した、とあるオーヴァードの手に託されることになった。HF部仁もまた、その身に"賢者の石"を宿し、その力を強化していたのである。
最後の戦いを前に、日下部仁はまず、自分を縛るFHを壊滅させ、さらに都築京香をも殺害した。そして、完全なる自由を得た彼は、この世界の神とならんと、最後の"賢者の石"を奪い取るべく動き出したのだ。
だが、日下部仁は敗北した。プライメイトへと進化する権利を得たのは、彼が餌として用意したオーヴァードだった。
この日下部仁に勝利したとあるオーヴァードは、事件後、行方不明となっている。進化に失敗して自滅したのか、それともプライメイトとしてより高次の世界に旅立ったのか。また、そのオーヴァードによく似た一般人の日撃談もあり、ただの人間に戻ったのではないかともいわれている。だが、いずれも確たる証拠はなく、憶測の域を出てはいない。ただ、確かなのは、世界が変わらず今もあるということだけだ。
"マスターレイス"日下部仁(くさかべじん)
かつて、都築京香直属の部下として活動していたFHのマスターエージェント。日本においてはじめて確認されたマスターレイスでもある。冷酷かつ獰猛な男であり、部下も含めた他人を利用し、どれほどの犠牲が出ようとも作戦を完遂する彼のやり方は、UGNとFH双方にとって恐怖と畏怖の対象となっていた。
彼の悪名は、死亡してなお、レネゲイドを知る者の間で囁かれ続けている。
都築京香
この後彼女は何事も無かったかのように再び姿を現わし、日本FHのトップとして活動を続けた。この時死んだのが彼女の影武者あるいはクローンだったのか、それとも不死だとでもいうのか。知るのは都築京香自身だけである。