タイプとトークン
🐪 タイプ/トークンについての一般論
説明
定義:
タイプ:種類としてのもののこと。
トークン:その種類に属する個々の事例(instance)のこと。
たいてい、1つのタイプには多くのトークンが属するが、トークンが1個しかないタイプもありえる。
トークンは個別具体的(concrete)な存在であり時空間的位置を持つが、タイプは抽象的(abstract)な存在である。
トークンは必ずしも静的な物(物体)である必要はない。個々の発話のように、時間的に幅を持った出来事もトークンになりえる。
パースの記号論に由来する用語だが、存在論の文脈でさかんに使われる(芸術存在論でも頻出する)。
例による説明①
以下の詩にいくつの語が含まれているかを数えてみよう:
Rose is a rose is a rose is a rose.
タイプとしての語を数えれば、この詩には3つの語が含まれていると言える。
"rose"、"is"、"a"
トークンとしての語を数えれば、この詩には10個の語が含まれていると言える。
"rose"①、"rose"②、"rose"③、"rose"④、"is"①、"is"②、"is"③、"a"①、"a"②、"a"③
例による説明②
ポケモンにおけるタイプ/トークン:
タイプ:ポケモンの種族のひとつとしてのピカチュウ。
トークン:ピカチュウの個体。たとえば、アニメ『ポケットモンスター』におけるサトシのピカチュウ。
🐪 グッドマンの理論の補足
グッドマンの理論におけるタイプ/トークン
記号レベルと内容レベルのそれぞれにタイプ/トークンの区別が言える。
英語では、"cat"という語が猫を指す。この場合:
記号タイプ:英語という言語に用意されている単語としての"cat"。
内容タイプ:動物の種類としての猫。
内容トークン:個々の猫。たとえば、近所のトラ猫。
記号システム
ひとつの記号システム(たとえば英語)は、次のような規則を取り決めることで、表象という働きを作り出している。
(1) 当のシステムがどんな記号タイプを許容するかについての規則。
(2) 当のシステムがどんな内容タイプを許容するかについての規則。
(3) それぞれの記号タイプ(たとえば語"cat")について、一群の具体物をその記号タイプに属するトークンと見なす規則。
(4) それぞれの内容タイプ(たとえば猫)について、一群の具体物をその内容タイプに属するトークンと見なす規則。
(5) 特定の記号タイプ(たとえば"cat")と特定の内容タイプ(たとえば猫)を結びつける規則。
多義性と冗長性
ひとつの記号タイプに複数の内容タイプが割り当てられていることを多義性(ambiguity)という。
ひとつの内容タイプに複数の記号タイプが割り当てられていることを冗長性(redundancy)という。
🐪 その他の情報
ソシュール記号学での扱い
ソシュール系統の記号学(より正確にはイェルムスレウによる定式)にも上記とほぼ同じ考え方があるが、言葉づかいが違う。用語の対応は以下の通り。
記号タイプ:表現形式(expression-form)
記号トークン:表現実質(expression-substance)
内容タイプ:内容形式(content-form)
内容トークン:内容実質(content-substance)
有名なソシュールの「シニフィアン」と「シニフィエ」は、それぞれ記号タイプ(表現形式)と内容タイプ(内容形式)に相当する。
勉強用の文献
エーコ『記号論I・II』池上嘉彦訳、講談社、2013年