娘について
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スピの話から、ネコさんの話につなげる手付き。うまい。
彼ら三人を前にすると、まるで揃いの茶碗でも眺めているような気持ちになった。
人の顔?というかなに、雰囲気がそっくりなのを茶碗に例えるのはかなり以外だけど、これがまたすごく「ぴんとくる」感じだ。
なんか、そうか。「見砂はわたしの高校時代の同級生で、親友だった。家は遠く離れていたし、学校生活を一緒に過ごすだけならさして気にならなかったけど、高校を卒業してからはそれぞれの家庭環境の違いをことあるごとに感じるようになった」
これがすべてなんだろうなあ。
kana.iconは最初、よしえはこんなに見砂に嫉妬しててイラついているのになんで一緒にいるんだろう?友だちと思える?と思っていたのだけど。
たぶん、すべての付属品を取り外した「見砂自身」のことはすきなのだこの人は。
だけど、「お金持ちで」「おしゃれで」「お互い夢追い人なのだけど実家の太さやらその無頓着さやらを使って努力なしに夢を叶えられるような"才能"があって」というその付属品は、よしえにとってとても気に食わないものなのだ
「色々と問題あるとは思うけど、でも愛だから。ぜんぶ愛なんだよね。」
見砂、全部を愛だと思って受け入れてるけどこの子本当に大丈夫なのだろうか。読んでいくとわかるけど、よしえにもいいようにコントロールされてしまっているし。
「足の先が冷たく感じられて、室温が下がっていることに気がついた」とか、なんかこう、不穏な感じを最初からぎゅんぎゅんだして演出してくるの。極めつけに「廊下から聞こえた大きな金属音」。徹底的に冷たく、暗く、重い雰囲気。
同じく夢を追っているはずなのに、いっこうにオーディションにも参加しなくて、家でのんべんだらりと暮らしている見砂に対してなんでこうなの?と不満をぶつけるよしえ。
罪悪感ともはがゆさとも恍惚ともつかない、奇妙な快感が手のひらにじわじわと広がっていくのを感じていた。
え。よしえは見砂にイライラしているんじゃなかったの?なんでここで快感?
ネコさんの話は表向きはいつも、自分はじつに色々な苦労をしてきたけれど、しかしそれらをすべて乗り越えて多くの気づきを得て、今の自分ほどしあわせな妻であり母である女はいない、という結論に落ち着いた。けれど当然のことながら、ネコさんのお喋りのその中心には自分には何らかの才能があったのにこんなつまらない人生を送ることになってしまったという成仏しきれない凡庸な恨みが渦巻いていた。ネコさんにその自覚があるのかないのかはさておき、しかしネコさんの現実はそうしたいくつもの否認が向かい合わせになって成立しているので…
「そうしたいくつもの否認が向かい合わせになって成立している」。なんかかっこいいな
あーそうか。ネコさんが、過保護で応援しているように見えるけどなんだか否定的な発言も多いのはいざとなったら成功してほしくないから?
見砂いくらなんでも馬鹿すぎないか?馬鹿すぎないか?馬鹿すぎると思うんだけどまじで。……
このあたりの会話・セリフのリアリティ。怒涛のようなイライラとか焦燥が伝わってくる台詞回したち
いやーしかし、やっぱり好きなことで食っていこうとするもんじゃないね。一向に本が売れず、焦り始めて、「そこに行けば息ができると心から思えたたったひとつの場所」である本屋にもいけなくなるよしえ……、「小説家たちの新作がひしめいているのを見ると比喩ではなく息ができなくなっ」てるよしえ……、ウゥ…
え、ちょ、まって、怖いよネコさん娘のアンチしてるじゃん
ネコさん、わかった?あなたの娘より、わたしの母の娘のほうがすごいんだよ。わたしの母の娘のほうが、すごいの。わかりましたか!わたしはネコさんの鼻先に人差し指を立てて、はっきりとそう言ってやったような気がした。それは全身に鳥肌がたって、危うく身悶えしてしまうほどの快感だった。
ほう……?「わたしのほうが」ではなく、「私の母の娘のほうが」になるのか。すごい捻れてるな。このあたりの感覚が面白い。
さっきの娘をアンチするネコさんもあれだけど、信頼を得ておいて鼻をあかす機会をうかがっているよしえもよしえだし…
ここまでくると、これまでのネコさんと見砂の描写が本当の姿を写していたのかも微妙になってくる。信頼できない語り手というのか。 あれ。最初はネコさんのこと嫌いじゃないし話していてけっこう楽しいって言ってなかったっけ。いつから嫌悪感を持ち始めたんだっけ。
あー、そうだ、自分の人生のことを恨みがましく話すのを聞いているようなうちに、よしえのことを『おしん』みたいだといって「もぐらちゃんみたいなエネルギー」とか言って、そしてパートの母親に「お肉でも送ろうか?」と言ってきたあたりだ。 そのあと明確に見砂を陥れて、ネコさんに嘘をついてから、電話がかかってくることに嫌悪感を持つようになった
どのバイト先でも疎ましがられ、知りあいはいてもひとりの友達もいないわたしが話をできる相手は見砂以外にもうずっと、ネコさんただひとりだった
でも、見砂が実家に帰ったら電話もとだえちゃうんだよねえ
というかすこしぞっとしないな。よしえ、ともだちもいないのか…
冷え、金属、そして「春の夜から春の要素だけが消滅し、得体のしれないその残り滓が、冷気とともに部屋に積もっていく」。
このね、ラストがやばい。
いつもわたしのこと思ってくれてたよね。ずっとずっと、応援してくれた。いつも、見守ってくれてた」
見砂はうっとりしたような声で言った。
「わたし、忘れたことないからね」
見砂の真っ白な顔が目の前に現れ、わたしは瞬きもせずにそれを見た。見砂の肌はいつまでも白く、わたしは痛みを感じるほど見ひらいた目の中で、反射的に陶器のポットを思い出した。それはわたしと見砂が深夜によく行っていたファミレスの飲み放題の卓上の小さな白いポットで、表面には無数の傷がついているけれど、そこにいる誰一人としてそれを気にするものはいないし、そもそも彼らにはそれが見えない。重いのか軽いのかもわからない、中に何がどれくらい入っているのかも、冷たいのか熱いのか何もかもが不透明で、わかるのはただそれが白いということだけのポット。よしえちゃん、よしえちゃん、と繰り返す声を聞いているうちにそれが見砂のものなのかネコさんのものなのかがわからなくなり、わたしはその顔を追い払うように首を振った。
「よしえちゃん」見砂は言った。「聞いてる?」
「うん、聞いてる」
けれどそれはもう自分の声には聞こえなかった。それどころか、さっきから降り続けていた灰色の残り滓は部屋の端から重く降り積もり、床を、本棚を椅子を、ドアを飲み込み、肩を超えてわたしの喉を締めつけようとしていた。数センチひらいた唇のあいだにもそれは流れこみ、やがてふたつの肺を満たすだろう。さっきまでどうやって息をしていたのかどうやって
見ひらいた目を閉じるのか、わたしはそれが思いだせない。
まずこのポットのところはぜんぜんぴんとこなかった…、何が言いたいのか全然読み取れなかった。これはあとでみんなの感想見てみよう
お、ぴんとこなかったのか。
今kana.iconがこのページを見返したら、見砂=ポットとして比喩で見砂のことを表現しているのだから、素直に取ればいいと思ったよ。さらに、見砂=ポットをネコさんともかさねている。
見砂は、そうは見えないけど、「表面には無数の傷がついて」いる。そして、ただ白いということだけしかわからない。
なにもかも不透明だ。何を考えているかもわからない。
kana.iconたしかに、白いポットって、ちょっと現実味にかけるみたいなところあるよね。「重いのか軽いのかもわからない、中に何がどれくらい入っているのかも、冷たいのか熱いのか何もかもが不透明」ここはたしかに、と思った。たしかにそういうのがわかりづらい。
だけど普段そう捉えたことがなかったから、なるほどーと思った。この作者さんの感性はすごいなって
そして、こう言われてみると、たんに清潔で上品な印象しかなかった「白いポット」がいきなり不気味なもののように見えてくる。
そう、よしえにとってはネコさんや見砂も、不気味なもののように見えているのかもしれない
最後の最後はまるでホラー漫画かな?というような映像的な雰囲気。かっこいい…というと変だけど
kana.icon
すごい傑作だと思う。どこがどういい、とうまく説明できなくて残念だけど……、クライマックスの苦しさと緊張感がすごい。
しかしそれはそうとしてネコさんが、よしえにめちゃくちゃ電話かけてくるけどもまったくよしえには興味がない、って感じがこわかった。そもそも、自分の娘にアンチしてるのからしてこわいんだけども…、これはよしえ狂うわ、と思う
…と。最初はよしえとねこさんのヤバさに気がいっていたんだけど、再読したら見砂の「相手にしてなさ」もまたすごいなと思った。
おそらくだけど、電話かけてきたときもまじでスピ布教するつもりだったんでしょ?
そして、母や親友の歪んだ愛やら嫉妬やらをまったく気づきもしない。
よしえは、自分ひとりで夢を叶えた後ろめたさがあったみたいだけど、たぶん見砂にとっては「どうでもいい」んだろうなあ。
kana.icon
ひさしぶりにこのページ見返した2024/6/23
けっこうメモの精度がたかくて、わりと読んだときの体験を思いだしたし、「あー、こういう話だった!」ってすぐ思い出せた。