リチャード・ブキャナン
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リチャード・ブキャナン:「厄介な問題」を有名にした人 デザインやデザイン理論を理解している人たちは、「厄介な問題(wicked problem)」という言葉が乱用されていることをご存じでしょう。「厄介」と「デザイン思考」という言葉がデザイン文化のメインストリームに打ち出されたのは、1992年に出版されたブキャナン氏の論文「Wicked Problems in Design Thinking(デザイン思考における厄介な問題)」の影響が大きいとされています。「厄介」という言葉を生み出しただけでなく、(自分たちのやり方で)デザイン思考について説明したリッテル氏とウェッバー氏が気の毒に思えますね。ところが、ブキャナン氏の論文は、適切なところで、適切な時期に、適切な影響を与えたのです。ブキャナン氏をはじめとする同時代の人たちは、デザインが科学であるという考え方を否定しました。彼は、デザイン思考は現代の文化を反映した「リベラルアート」であり、専門家たちが(リッテル氏の)厄介な問題を解決する「インサイト」として使うものであると説明しました。 覚えているでしょうか。この時代は、デザイナーやデザインの理論家たちの自分探しの時代でした。以下に引用したブキャナン氏の言説を読むと、あなたは息が詰まるか、誇りに思うかのいずれかになるでしょう。それは、あなたの立場や経験によって違ってくるものです。
[デザイン思考は]特有のインサイトを持ちながら専門的な訓練を重ね、時としてイノベーションの適用を新しい領域にまで広げられるような、ごく少数の人にしか習得することはできない(Buchanan 1998, p.8)。 この論文が大きな影響を与えたとされるのは、デザイン思考とイノベーションを明示的に結びつけたからです。ブキャナン氏がこのように考えたのは、デザイン思考は多分野のマインドセットであり、デザインが直接関係しているかどうかに関わらず、以下の4つの分野で発見できることに気づいたからです。
1. 記号的および視覚的なコミュニケーション
2. 有形物のデザイン
3. 活動および系統化されたサービス
4. 生活、仕事、遊び、学習のための複雑なシステムや環境のデザイン
(Buchanan 1998, p. 9)
ブキャナン氏は、今日のデザイン思考の本質について、実に多くのことを予測しています。ただし、研究者と実践者の連携については、あまり大きく取り上げられることがありませんでした。ブキャナン氏のイノベーションの考えは、実践的な分野が複数必要だという話に限ったものではなく、実践と研究をつなげる分野間の横断の話も含まれています。何度も繰り返すようですが、デザインの実践で足りないのはこの点です。デザイン業界と研究の連携は、工業開発の一部で限定的に、しかもあいまいに実現されているだけなのです。現在のデザインの文脈でブキャナン氏の指摘を捉え直すと、上記の点を以下のように解釈することができます:
政策や都市計画のデザイン
デザイン業界で「ステージ/フェーズ/レベル」のような表現が使われていたら、それは上記の解釈によるものでしょう。これにより、デザインの実践と研究の連携はさらに高まっていくのです。